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秘中の策敗れる

 

 この会議の場で、俺は色々と聞かされたが、初めて知ったことばかりだった。

 殿下は、情報部から情報を集め詳細検討を加えてとっかかりを掴むと、現地に捜査員を送り、現地で捜査本部を立ち上げる。

 そのための行幸ともお考えだ。

 指揮を執るのが捜査室長のトムソンさんだ。

 海賊捜査に於いてほとんどの場合一つの星域だけでは捜査は行き詰る。

 だから殿下はこの組織を作ったのだ。

 トムソンさんの判断で捜査本部はいつでも移動するし、また、複数の星域にまたがっても捜査することになる。

 そこで十分な証拠を掴んだら、いよいよ現場に突入だ。

 そこを指揮するのがアイスさん率いる機動隊だ。

 俺は、そのアイスさんたちを現場に運び、確実に海賊を捕まえるために、必要に応じて戦闘もする。

 そんな役割を負う。

 誰に聞かれても、どの貴族に聞かれてもここに居る全員が同じ回答をしなければいけないという話だ。

 我々がバラバラなことを言おうものなら、我らの間に隙を見つけて敵はそこを責めて来る。


 フェルマンさんの話では、下手をすると海賊に繋がっている貴族もいるかもしれない。

 これはまだ憶測の域を出ていないので、扱いに注意を要するが、そんな貴族もろとも潰していくのが我らに求められた使命だとも言う。


 そんな難しいことを俺に求められても非常に困る。

 そこで俺は考えた。

 こういった考えることは嫌いじゃない。

 ピンチになればなるほど、ちょっとワクワクする自分に気が付く。

 俺ってMだったのかな。


 まあ、俺の頭はこの時きちんと仕事をした。

 俺の中で戦場であるパーティーでの作戦が決まった。

 名付けて「金魚の糞」作戦だ。

 そう、その名の通り、金魚の糞になり切る。

 殿下の座乗艦艦長として片時もそのそばを離れること無く、陰に徹する。


 いよいよ外交いや貴族政治といった方が良いか、その戦闘が始まる。

 俺は先ほど考えた作戦を引っ下げて会場に乗り込んだ。

 宇宙港から車で連れていかれた場所は、この星域全体を国王から任されている公爵の屋敷だ。

 車寄せに車が着くと、ずらりと並ぶ家人たち。

 その中を悠然と進んでいくフェルマンさんと、その後ろからついていく俺ら。

 そのまま奥に案内された場所は広いパーティー会場だった。

 直ぐに殿下を見つけて、その後ろに何気ない顔をしながら控えた。


 殿下はパーティーに招かれている人たちから忙しそうに挨拶を受けている。

 とりあえず俺の『金魚の糞』作戦は順調に推移しており、俺には今のところ攻撃はない。


 会場にいた公爵が中央の壇上に上がり挨拶を始めた。

 どうも俺らが最後の客だったようだ。

 今回の場合、殿下の配下が遅れたことになっているので、ほめられたことじゃないが、このパーティーのような私的な会合ではそこまでうるさくはないらしい。

 本来ならば爵位で最高位に当たる殿下が最後に入りパーティーが始まることになるのが礼儀だそうだが、殿下の願いとあって俺らが急遽招かれたらしい。

 正直有難迷惑なのだが、これも殿下の思惑あって事だ。


 その殿下の思惑を完全に理解している優秀な同輩たちは、会場に入ると早速散らばって仕事を始めている。


 要は、各星系においてコネクションを作っていくのだ。

 俺と同じ平民出身のはずの捜査室長もこの星の警察関係者たちの所に行って談笑をしている。

 軍人や警察関係者は礼服が制服なので、判りやすい。


 それで俺はというと、現在作戦を継続中だ。


 公爵の挨拶が終わると、殿下が呼ばれて壇上へ登っていく。

 フェルマンさんはそのそばまで行くが、その際に俺はその場で止められた。

 どうもウザがられていたようだ


 くそ~、俺の作戦が見抜かれたのだ。

 簡単に俺の秘中の作戦が破られた。


 しかし俺は慌てない。

 策士なれば自身の策が破られた時の事も考えておくものだ。

 俺は用意していた次策に移る。

 作戦名『とりもち、もしくは濡れ落ち葉』作戦だ。

 これは同輩たちにとりつきしつこく離れないことで自身の安全を図る作戦だ。


 早速、見かけた機動隊長のアイスさんの傍に行く。

 ………

 結論から言うとアイスさんは無理だった。

 彼のルックスははっきり言ってリア充、しかも最上級の物だ。

 貴族のお嬢様方を上手にあしらっていく。

 はっきり言っておれはお邪魔だ。

 なにせあしらわれたお嬢様が俺の事を汚いものを見るように睨んでから立ち去っていくのだ。


 アイスさんが無理なら……駄目だ。

 俺と同じ庶民のトムソン捜査室長の周りには警察関係者で固まり、異物を受け入れない雰囲気がある。

 当然保安室長は妙齢の女性なので、それだけで俺は近づけない。


 次策まで破られるとはさすがだ。

 侮れないな、貴族のパーティー。


 俺はとうとう最後の手を出さざるを得ない。

 もう後の無い俺に残されたのはこれしかない。

 作戦名『壁の花』作戦だ。

 俺は女性でないので、作戦名を変えて『壁の花』改め『壁際の雑草』作戦だ。


 俺はできるだけ目立たないように入ってきた入り口近くまで移動して壁際に寄った。

 ここでパーティーが終わるまで、いや、途中退室が許される時間までおとなしくしている。

 幸い誰にも気づかれた様子はない。


 今のところは順調に推移している。

 ここでおとなしく差し出されたカクテルでもちびちびしていれば良い。

 俺はさらに注意深く潜航するべく部屋の隅に移動しようとしたらその先には先客がいた。

 見覚えのあるやつだ。


 向こうも俺に気が付いた。

 しまった、潜っていたのが見つかった。

 逃げようとしたら向こうからの先制攻撃が「ひょっとして、ナオか……」


 一発で俺は撃沈した。

 もうあきらめるしかない。

 それにしても、会いたくないやつに会うとは俺の運命の神様は本当に仕事をしない。

「ああ、久しぶりだなジャイーン。

 三年ぶりか」


「ああ、それよりもなぜおまえが。

 軍に入ったと聞いたが」


「ああ、俺は今でも軍人さ。

 でも今は出向の身の上だ」


 そこから部屋の隅で話をした。

 こいつは俺からてっちゃんを寝取ったやつだ。

 本当は憎きブルジョワジー、そしてプロレタリアートの俺の敵だが、正直彼を憎み切れていない。

 理由は分からないが、こいつは本当に良い奴で、俺もそれを知っている。

 こいつには学生時代に色々と良くしてもらっていたし、何よりてっちゃんの事が無ければ俺の数少ない友人にもなっただろうと思えるのだから。

 しかも、こいつの実家はこの星一番大きな財閥でもあり、俺の育った孤児院もその財閥からの援助でかなり助けられてもいた。

 いわば俺たちの恩人でもある。

 てっちゃんもその辺りに惹かれたのか……いや違うな。

 こいつは性格といいルックスといい、とにかくとんでもないスペックを持つ物語の主人公特性が働くような奴なのだから、良い女なら誰でも無制限に引き付ける良い女ホイホイのような奴だ。

 簡単にそれにつかまっただけなのだろう。

 やっぱり爆ぜろ。


「ところでお前は何でここに居るんだ。

 まだ学生だろう」


「ああ、4年だ。

 今は校外実習で、俺は故郷のキャスベル工廠に来ている」

 奴はそう切り出してから簡単に状況を説明してくれた。

 何でもケイリン大学の例のコースは最終学年で王国内の有力企業に1~2か月の校外実習に出す。

 学生の内から実際のビジネスの空気だけでも感じてもらう配慮だ。

 ジャイーンは地元に戻れば愛人が沢山いるし、とにかく地元で実習を受けたかったのだろう。

 しかし、親元への実習だととにかく格好が悪い。

 そこで親同士で付き合いのあった地元の大手企業でもあるキャスベル工廠に実習に来ていたそうだ。


 その実習中にこの星のハイソな人たちにはちょっとした事件が起こる。

 第三王女がこの星に行幸してくるというのだ。

 この星を預かる公爵は早速地元の有力者を集めてパーティーを開く。

 いわば貴族政治という奴だ。

 当然ジャイーンの親も招待されるが、まだ学生の身分であるジャイーンには参加資格が無い。


 そこで、彼と彼の一族に恩でも売るつもりで、キャスベル工廠の社長が随行員として彼を連れてきたというのだ。

 公爵も彼の事情は知っているので、特例として会場に入る許可は出したという話だった。


 そういう訳で彼はここで大人しくしている。

 でないと、こいつはアイスさんとここにいる女性を二分していたかもしれない。

 そういう意味ではアイスさんも主人公特性を持っているのかもしれない。 

 ちょっと違うような気もするが……。


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― 新着の感想 ―
[一言] ジャイーンでも壁の花にならざるを得ないレベルのパーティーでふつーに王女殿下に腹心の部下として紹介されるはずのナオを見てどう思うことやら。  数年後実力も名声も備えた後ならジャイーン自らご挨拶…
[良い点] ここでジャイーンと再会するとは意外でした。 普通に良い人みたいだし、テツリーヌのことがなければ主人公とも友人になれてたのかな。 [気になる点] ジャイーンはテツリーヌが主人公の彼女と知って…
[良い点] 「テツリーヌ」「てっちゃん」というネーミングの凄まじき違和感がいつまで立っても消えない、、、笑 その違和感も相まって、恋人を寝取られた主人公が愚か者にしか見えない上に、私からもジャイーンが…
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