最速への挑戦
「艦長さんや。
まず問題は無いね。
これで8まで出して問題が無ければ直ぐにでも10にしてくれ。
今日は出せるところまで出してみたい」
「社長。私は艦長代理です。
分かりました、社長の言われる通りにしましょう。
メーリカ姉さん、お願いします」
「了解しました。
……
操舵手、速度8AUに変更」
「速度8AUへ、了解」
「すごいな。
あっという間に8までだせるとは。
メーリカ姉さん、異常はないかな」
「ここから見る範囲では異常は見られませんね。
機関室、変化はないか」
「機関順調、オールグリーンです」
「艦長代理、それなら10まで出してみようか」
「分かりました、社長。
メーリカ姉さん、速度変更。
最高速度の10AUに」
「了解しました。
速度変更、10AUへ」
「速度変更、10AU、了解」
速度が多分この王国最速と思われる8AUから10AUまであっという間に加速していった。
10AUともなれば下手をするとこの王国に限らず、付近一帯でも最速に類するものになりそうだ。
「凄いですね。
アッという間に10AUですか」
「ああ、しかし、まだ機関には余裕がありそうだな。
どうするね」
「どうするとは?」
「艦長代理。
機関部はこっちで見ていますから、出せるところまで出しましょうよ。
今は出力100%のレベルですから120%のレベルくらいまでは出しておかないと戦闘艦としては不十分ですよ」
「分かった。
これからは一応、安全を見て1AUづつ速度を上げて行く。
それでいいな」
「やった~~、やっぱり艦長代理だ。
話せるね~~」
「マリア、無駄口叩いていないで、仕事をしてろ」
「メーリカ姉さんは、相変わらず厳しいよ」
「マリア!」
「りょ、了解しました」
「メーリカ姉さん、それじゃテストの続きだ。
速度を11AUへ」
「了解、速度変更11AUへ」
「速度変更します11AUへ、了解」
………
………
………
「凄いな、でも流石にここまでか」
「ああ、そうだな。
もう少し出せない訳じゃなさそうだが、出せても一瞬だな。
エンジンもそろそろ異常振動や発熱が許容範囲を上回ってきたからな。
ここまでとしようや」
「分かりました。
メーリカ姉さん、速度変更して10まで落とそう」
「了解しました。
速度変更10AUへ」
「速度10AU、了解」
「しかし、まさか14AUまで出せるなんて」
「ああ、これも外壁のスカーレット合金の効果だろうな。
とにかくあいつは宇宙線による影響を最小にまで抑えるからな。
まあ、カタログは作るつもりはないが、この船の最速は10AUまでとしておいてくれ。
戦闘時に120%の出力を出しても精々12AU辺りまでが妥当だろう」
「分かりました。
マリア、後で報告書をそれでまとめろよ」
「了解しました」
「あとは異次元航行の試験だが、流石に能力の全開を調べる訳にはいかんだろう」
「そうですね。
精々レベル2くらいまでですかね。
とにかく使えるかどうかの試験だけでもしないといけないので、帰りはレベル2で帰ります」
「もう少し出しても問題は無いだろうが、まあそれでもかまわないよ。
一応、カスミとかいったか、あの嬢ちゃんが運行システムにはレベル10までは出せる設定にしてあるから、いずれは試験をしないとな」
帰りも無事に異次元航行で帰ってきた。
船は前回同様にタグを呼んでドックに入渠させてA級整備の最終検査を終えた。
武装も総入れ替えしているので、こちらについては俺らが独自に試験して使えるかどうかを調べないといけない。期限ぎりぎりまで、ここで御厄介になりながらもう少しテストを続ける。
「うちは構わないよ。
それよりも、A級整備証明書だっけ、今準備している。
本社の連中から添え状もいるかと聞かれたがどうするね」
「もし、貰えるのなら欲しいです。
キャスベル工廠の添え状があれば本部のどこからでも文句は付きませんからね」
「ああ、その方が良いだろう。
わしも今回ばかりは少々やりすぎたとは思ったのでな。
添え状があれば文句も出ないだろう」
社長のこの一言で、マキ主任は悟った。
あんたには自覚があったのか。
仕事と趣味を同じにするな~と心の中で怒鳴っていたが、そこは大人だ。
笑顔で社長に添え状をお願いして別れた。
支払いについてはその都度払っているので、後はこの事務所関連だけしか残っていない。
なので、監査報告書も事務所経費を除くものを作ってもらい、本部に提出した。
最終の試験航海からほぼ毎日各種武装の試験をするために宇宙に出ている。
俺としては無事に主砲のレーザー砲と両舷にあるパルサー砲の試射で問題が無かったからこの船に課せられた整備が終了している。
後はマリアたちの趣味に付き合っているだけだ。
しかしマリアたちは納得していない。
でも、参ったな。
いくら俺の勘違いとはいえ、あの『朝顔5号』がレールガンだったとは。
あれってこの王国では不知の技術扱いになっているはず。
他でもロスト技術扱いだとか。
そんな古臭いと言われかねない武装までしてしまうとは。
しかしあのネーミングはどうにかならんのか。
俺の勘違いとはいえ、武器に『ひまわり』とか『朝顔』とか言われれば同じと勘違いしても責められないだろう。
現に俺は、前に救われた『ひまわり3号』だったけか、それと勘違いしていたんだからな。
それに航宙魚雷発射管も絶対に何か言われるな。
軍では2世代前に廃止しているし、ここコーストガードも使うことは少ないからな。
まあ、あの古い航宙フリゲート艦『アッケシ』にはあった武装だが。
A級整備までして新たに取り付けたとあっては何を言われるか、正直心配だ。
そんなことを考えながら初めての泊りを含む航海から帰ってきていた。
新兵たちも含めて仮に分けた部署がことのほかうまく回っているので、俺としては当分このままで、俺がこの先この船を預かるのなら、この配置で人事を申請しようかと思っている。
そんな俺らにドックある事務所から無線が届く。
マキ姉ちゃんからだ。
「艦長代理。
マキ主任から無線が入りました」
「繋げてくれ」
「ナオ艦長代理。
本部より新たな指示がありました」
「新たな指示?
何だ。
まだこの船の整備中だろう」
「それは微妙ですね。
先日キャスベル工廠の添え状まで届きましたので、A級整備証明書と合わせて本部に提出しております。
指揮命令系統から考えて、まだ艦長代理からの終了報告がなされておりませんので、先の命令が済んでいるとは言い難いですが、もしよろしければこちらでそれも済ませましょうか」
「そうだな、そこまで済んでいれば俺のところで止めても意味が無いな。
そうしてもらえるか。
それより、本部からの指示って何だ」
「ハイ、王宮からの依頼で、艦長代理との面会を希望されているとのこと。
また整備中の『シュンミン』の査察も希望されております。
ですので、可及的速やかに首都星ダイヤモンドのファーレン宇宙港に向かえとありました」
「分かった、ここからファーレン宇宙港に向かうと返事しておいてくれ。
5時間ほどで着く」
「分かりました。
只今より5時間後ですね。
その旨連絡しておきます」
「あ、さっきの報告だけど、向こうに行くなら俺が直接口頭で報告するよ。
書類関係はもう何も無い筈だからな」
「その方が良いですね。
分かりました。
その後については指示をお待ちしております」
「メーリカ姉さん。
聞いての通りだ。
早速お目見えだってよ。
悪いが進路変更だ」
「了解しました。
進路変更、目標惑星ダイヤモンド、速度そのまま」
「進路変更、目標ダイヤモンド、ファーレン宇宙港、速度そのまま、了解」
なんだか、いやな予感しかないが、この船、王室関係者に見せても大丈夫かな。
成るようにしか成らないが、いったい誰が面会を希望しているのか、ひょっとして叙勲の時に会ったあの王女殿下か。
全く分からない。
分からないが、成り行きに任せるしかないか。
しかし俺の人生って、どうしてこんなにも行き当たりばったりなのかな。
少なくともてっちゃんに振られるまではこんなことではなかったような。
やめ、やめ、やめ、考えるだけ不毛だ。
俺は考えを変えて楽しいことを考えるようにした。
あの名セリフを考えるのだ。
最後はどんなシーンが訪れるか分かったものじゃない。
色んなシチュエーションを考えておかないといざという時に大事なセリフが言えないしな。
そんなことを考えながらファーレン宇宙港に向かった。
幸いなことは、艦橋にいる誰もナオの考えていることが見えないことだ。
もし見えていれば絶対にドン引きしていることだろう。




