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最初の試運転


 「この船は駆逐艦でしょ。

 そんな人は絶対に乗らない艦種ですよ。

 でもすごいですね。

 本当に立派な部屋だ。

 でも、ここは封印かな」

 俺の最後の一言で少々落ち込む社長がなんだかかわいく感じる。

 この人は本当に趣味人だ。


 その後案内された部屋が俺の部屋となる筈の艦長室。

 扉こそ普通だが、絶対にいじっていないはずは無い。

 あの船の船長室でも持ってきたかな。

 「ここもすごいだろう。

 ここは使わない訳にはいかないだろう。

 ここはわしと、そこのカスミとの会心作だ。

 あの船のスイートルームと船長室から部品を取り、より快適な艦長室に仕上げてある。

 どうだ、この部屋だけでも相当な技術が詰まっているんだ」


 俺はその場でしゃがみ込んで頭を抱えた。

 そういえばマキ姉ちゃんはどこだ。

 艦橋から動いていないだと。

 もうこれを見たら言い訳が思いつかないらしい。


 「分かった、もういいです。

 内検は終えます。

 明日午前中からタグを抑えておりますから、明日試運転に入りましょう。

 メーリカ姉さん。

 全員乗せて行くよ。

 あの子たちの初航海がこれでは少々不安が残るが置いて行く訳にはいかないから。

 まあ、日帰りなので、個室に入れないから明日は大丈夫かな」


 「分かりました。

 タグが明日9時には着きますので8時に集合させます」


 「ああ、そうしてくれ。

 流石に今日は疲れたよ。

 今まで放置していたのを今相当に後悔しているよ。

 まあ、やってしまったのはしょうがないか」


 「艦長代理、戻りますか」


 「ああ、マキ主任を連れて戻るよ。

 でないと彼女は固まって動けそうにないからね」


 俺はマキ姉ちゃんを連れて艦を出た。

 「私にあれをどうやって報告させるつもりなの」


 「うん、今更戻せないよね。

 廃品利用なのでやむを得なかったと言うしかないな」


 「そんな~。

 絶対にあっちこっちから文句が出るよ」


 「ああ、でもそうなったら俺に回してよ。

 全部論破してやるよ。

 だいたいA級整備までするのに予算が30億ゴールドはあり得ないんだって。

 あの金額なら廃品を利用するしかないよ。

 それをきちんと説明できるように資料は準備する。

 もし文句を言ってきたらそいつを巻き込んで責任を取らせてやるよ。

 端から無茶な要求を掛けてきた奴が悪いとね」


 「でも~」


 「言いたいことは分かる。

 絶対に偶然じゃないだろうが、たまたまで押し切るしかないよ。

 今回解体作業中なのがこの間海賊に襲われた豪華客船だっただけだと。

 もし貨物船ならもっと大人しくなっていたというしかないね。

 それしか俺たちには説明できないよ。

 忙しくて作業前に十分に説明を聞かなかった俺の責任だ。

 だいたいあの社長とマリアだ。

 まともに終わる筈ないのが分っていたのにな。

 これも後の祭りか」


 翌日に新兵たちを含む全員をドック前に集めた。

 この二か月で新兵たちの資質や性格、それに希望なども分かってきたので、今ではケイトとマリアたちにそれぞれ分けて預けている。


 今回は兵器のテストは考えていないので、艦橋と機関室に分かれて配置して試験航海に出た。


 朝8時に集合させて、ケイトとマリアに艦橋組と機関室組、それに両舷の防衛パルサー砲に分かれて配置してもらい、タグ宇宙船を待った。


 9時ちょうどに待っていたタグ宇宙船が来て30分かけて船を宇宙に上げて貰った。


 そこから各部の最終点検だ。


 機関室にいるドックの社長から艦橋に艦内電話が入る。

 「あんちゃん、いつでも良いぜ」


 「ありがとうございます。

  ……

 メーリカ少尉、エンジン始動」


 「了解しました。

 カスミ曹長。

 予備エンジン始動」


 「了解、予備エンジン始動します。

  ………

 出力上昇中。

 各種センサー異常なし」


 「機関室」


 「ハイ、機関室です」


 「これからメインエンジンを始動する。

 準備は良いか」


 「いつでもOKです」


 「メーリカ少尉。

 メインエンジン始動」


 「了解、カスミ曹長メインエンジン始動せよ」


 「メインエンジン始動します。

  ………

 出力上昇中。

 各種センサー異常なし。

 出力レベルに達しました」


 「発進する。目標はスペースコロニー『ビスマス』

 速度は徐々に上げて行く。

 まずは1AUから」


 「目標『ビスマス』速度1AUで発進」


 「了解しました。

 速度1AUで発進します」


 「速度1AUです」


  ……

   ……


 「速度8AUに達しました」


 「異常はないか?」


 「システムオールグリーン」


 「機関室、何か変化は?

 気が付いたことあるか?」


 「艦長代理。

 こっちは順調かな。

 何もなくてちょっと拍子抜けだよ。

 だいたいこういう時にはお約束が……」


 「バカ言っているんじゃないよ。

 何もないんだな」


 「だいじょうぶだよ、メーリカ姉さん」


 「う~む、ちょっとばかり速度上昇に時間がかかっているかな。

 このエンジンならもう少し早く出せたと思うのにな」


 「え?

 社長。

 これで十分じゃないですか。

 だいたい速度8AUなんてうちじゃ多分最速ですよ」


 「バカ言っているんじゃ無いよ。

 この船の、いや、このエンジンの性能では10AUは出せる筈だ。

 カタログなんか作っちゃいないが最速10AUはうたっても良いぜ」


 「10……10AUですか」


 「まあ今日の処は試運転だ。

 艦長、今日はこれで切り上げようぜ。

 俺もちょっとばかり気になる所もあるしな」


 「はあ~、艦長代理ですが。

 分かりました」


 「では、速度を落として帰港しますか?」


 「いや、このままで良いと思うぞ」


 「それなら、メーリカ少尉。

 このまま帰港する。

 回頭させてくれ」


 「了解しました。

 回頭します。

 目標ニホニウム、速度8AUを維持したまま」


 「進路変更、目標ニホニウム、速度8AUそのまま、了解」


 速度8AUは確かに速い。

 前に2日かけて移動した距離がわずか数時間だ。

 確かに最徐行での移動だったが、それでも早く着いた。

 予定していた通りに日帰りで、ドックに戻ってこれた。

 問題もほとんどなかったようで、タグ宇宙船も進路指示だけでドックへ入渠した。


 ドック入り後、俺のところに社長がやってきて簡単に今日の感想を述べて来た。

 「まあまあの出来だとは思うが、この船の性能を出し切ってはいないようだな。

 後で嬢ちゃんたちに報告させるが、俺はこれから点検に入る。

 この状態では頼まれた証明書を発行できやしないしな。

 それでいいか」


 「はあ、まだ十分に時間はありますので構いませんが、予算だけははみ出さないでくださいね。

 私には権限が無いので、はみ出し分を請求されても出せませんよ」


 「大丈夫だ。

 前にマキさんっだっけか彼女に聞いたが、かなり余っているようだぞ。

 それにこっからはわしの意地だな。

 職人としての意地があるから出せないと言うなら、俺もけち臭い事は言わないよ。

 何なら国に請求なんかしないで、費用はうちが持つぜ」


 「いえ、流石に。

 正直あの30億ゴールドは使い切っても良いと思っております。

 予算内でしたらきちんと請求してください。

 そうでなくともかなり便宜を図ってもらっているようですし」


 「な~に、お互い様だ。

 あんちゃんらのおかげで、ほれ、隣にあった船の解体がかなり進んだぞ。

 今ではほとんど原型が無くなるまで来た。

 後は機関周りくらいかな、厄介なのは。

 俺も感謝しているくらいだ。

 無駄話もこれ位にして、俺は作業に入るよ。

 もうしばらく嬢ちゃんたちを借りるぞ」


 「ええ、好きに使ってください」


 俺は事務所に戻って、報告書を仕上げている。

 そこに昨日のショックからすっかり立ち直ったマキ姉ちゃんが訪ねて来た。


 「艦長代理。

 少しよろしいでしょうか」


 「あ、マキ姉ちゃんか。

 構わないけど、何かあったの?」


 「まだ仕事中ですよ。

 マキ姉ちゃんは止してって言っているのにね。

 まあいいです。

 ここには誰も居ませんから」


 「ごめん、マキ主任。

 で、報告かな」


 「いえ、相談です。

 無事に試運転も済んだようで、いよいよ整備終了となりますね」


 「いや、多分もう少しかかるよ」


 「え?

 何でですか?」


 「社長が納得していない。

 これから船の点検だと。

 あの分なら、この後改造工事の稟議が出てきそうだ。

 予算の方は大丈夫かな」


 「ええ、予算の方は想定していたよりもはるかに安価に済んでおりますから問題は有りません。

 あるのはあの内装ですね。

 あの船には私たち以外には立ち入りを禁止したいくらいですよ」





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― 新着の感想 ―
どうせなら波○砲や反○子砲や相○移砲とか付けたってw
[一言] 早く天婦羅船の活動が見たいです 続きが超楽しみです
[良い点] やたら豪華な内装に、やたらスピードがでるエンジン、…これはもう駆逐艦とはいえないのでは(笑) とんなとんでも武装がでてくるか楽しみです。 [気になる点] 親方「内装が豪華なだけじゃただの成…
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