駆逐艦の内装が……
「それが大丈夫なら、私も遠慮しなくても良いよね」
「何考えているの」
「せっかく豪華客船から部品使い放題なんだから、内装も贅沢にしようかなっと」
「艦橋をここまでしておいて何を今更」
「それもそうだよね。
だいたいマリアが船内の配置を大幅に変えたしね。
もう定員なんかどうでも良いよね。
この船のカタログスペックだと定員が162名だと有ったけど、120名くらいにしても大丈夫だよね。
だってすでに162名は入らなくなっていたしね」
「そうだよね。
エンジン格納エリアを大幅に大きくしたから無理だよね。
でも、だいたいうちらの船って定員を満たしたことないじゃない。
それなら無駄なエリアを減らして快適な環境を作っても良いよね」
「なら艦長室からしないとね」
「なんで、もうしたんじゃないの」
「でも今艦長室はほとんどいじっていないの」
「あの船から船長室を持ってくるの」
「それじゃあダメだよ。
それだと私たちの部屋って乗務員室になるよ。
今のプレハブよりも悪くなるからね」
「それはちょっと嫌かも」
「だよね。
今住んでいるのってあれじゃないけど客船の三等客室だからね」
「だよね~
それじゃあどうするの?」
「さすがに広さ的には無理だから改良はするけど一等客室くらいにはしたいよね」
「そうだよね。
何か良いアイデアでもあるの?」
「実はあるんだ。
艦長室にあの客船のロイヤルスイートを持ってこようかと思っているんだ。
艦長室がロイヤルスイートなら私たちの部屋を1等客室にしても目立たないよ」
「艦長代理がなんというかな。
それならさ~、いっそのことあの海図室だっけ、作戦司令室とか言っていた場所あるよね」
「ああ、艦橋と艦長室の間位にある部屋ね。
正直あの部屋何に使うのか分からないんだけど」
「そうだよね、でもあそこなら思いっきり贅沢にはできるよね。
それなら、あそこを一番贅沢にロイヤルスイートルームにして、艦長室をスイートルームにすれば良いよ。
それなら艦長だってそれほど驚かないからね」
「そ、そうだよね。
そうしよう。
それならすぐに親方に相談してくるよ。
親方から許可が出ればすぐに稟議を回すからその時には手伝ってね」
「分かったわ」
二人の会話からあのおんぼろ駆逐艦がどんどんとんでもなくなっていく。
しかも解体している船からの流用であるのでほとんど費用がかかっていない。
結局、海図室と別にもう一部屋をロイヤルスイートくらいの贅沢な部屋にして、艦長室をスイート、下士官以上は1等客室から、それ以下は2等客室から部品を持ってきてやたらに贅沢な造りになっていく稟議を回してきた。
ちなみに士官食堂はあの客船のVIP専用ラウンジから持ってきた部品を使った。
当然、稟議には部屋の備品類を廃船からの流用品としか書かれていなく、俺もマキ主任も予算しか見ていないから許可してしまった。
そんなことも知らずにどんどん魔改造されていく航宙駆逐艦『シュンミン』も、ドック入りして2か月目になる。
考えてみたら、新兵たちが来てから一回も船には入っていない。
そろそろ心配になってきたころにドックの社長がマリアたちを連れてやってきた。
「艦長代理。
やっと整備が終わったよ」
「待たんかい。
まだや。
一応手仕事は終わったが、確認が残っているやろ。
ということや、あんちゃん」
「社長、整備の目途が付いたというのですね。
予定より一か月残してなんて流石です。
それで、私は何をすれば……」
「そうだな、まずはタグを準備してもらおうか。
一応整備は済んでいるがいきなりここから発艦するのはな。
一度宇宙に上げてからテストをしたいかな」
「そうですね。
その前に私に内検させてもらえませんか」
「お、おう、それもそうだな。
直ぐに出ても良いか」
「わかりました。
一応うちの予算管理の者も連れてきますから」
「それもそうだな。
好き勝手に金を使わせてもらったからな。
マキ主任だっけ、直ぐに来れるかな」
「大丈夫です。
連れてきます」
俺は隣にいたマキ姉ちゃんを連れて来た。
早速社長とマリアたちに連れて行かれるようにドックに向かった。
もう臨検小隊では無いが、途中で会ったメーリカ姉さんも連れて一緒に後部ハッチからの臨検の要領で内検していくことにした。
メーリカ姉さんは何度も中に入っているので、順路などはメーリカ姉さんに任せて内検していくが、後部ハッチの直ぐ傍にあった格納庫は、完全に別物になっていた。
俺らが戦った後はどこにもない。
本当にきれいになっている。
いったい何なんだ。
ここではマキ姉ちゃんが頭を抱えている。
「おい、マリア。
何だこれは」
「艦長代理。
何なんだとは何ですか」
「何を頓智みたいに。
壁の材質が明らかに異様だろう。
どこから持ってきたんだ」
「どこからって、隣の船……あ、もう形も無くなってきましたね。
あの豪華客船のホールを囲う壁を持ってきました。
色も白くて明るいので、ここも明るくなるね」
「まさかとは思うが、この船全部こんな感じか?」
「ええ、だってお金かけられませんから廃品利用しましたからね」
「同じ持ってくるのなら、倉庫とかあるだろう」
「だって、艦長。
安全性が違うんですよ。
倉庫なんかは、当然防火対策はされていますが、携帯レーザー兵器で簡単に壊されますよ。
その点、あの船はお客様がいる場所はかなりそういった物に対しての強化がされていますよ。
テロ対策は万全ですよ。
ですので、ここも携帯レーザー兵器くらいでは壊されませんからなかなかここを抜けませんよ」
「ああ分かったよ。
この後は覚悟して見回るよ」
俺は最初で躓いた。
マキ姉ちゃんなんかも同じようだった。
今から本部への言い訳を考えているようだ。
当然艦橋へ続く廊下も同じ仕様で、きれいになっている。
まるで豪華客船の中にいるような感覚になる。
通路が広めにとられているのは評価できるが……この船ってこんなに余裕が取れるものだったのか。
機関部なんかも拡張していると聞いているし、どこにあったのだ、こんな余裕が。
「おい、マリア。
ちょっと聞くが、この船って前はかなりごちゃごちゃしていたよな。
いくら内装をほとんど作り直したって、こんな余裕ができるとは思えない。
どこからとってきたのだ」
「ヱへへへ。
実はね、定員数が減ったの。
前の船の定員はカタログから調べた限りでは162名となっていたんだけど、私たちってそんなにいないでしょ。
だから今の定員は最大で123名くらいかな」
「何だよ、そのくらいって」
「だって、スイートの定員って良く分からないから」
「今なんて言った。
何だそのスイートって」
「まあいいから見て回れば分かるよ」
メーリカ姉さんがせっつくので、俺らはマリアについて内検を続けた。
途中の隊員の生活空間である個室は予想通り贅沢な造りになっている。
今俺たちが暮らしているのとそう変わらないと云うことは客船の船室を使ったようだ。
しかも、2等客室クラスだろう。
しかしこの数は何だ。
「ヱへ、ここはあの子たち2等宙兵の船室です」
「は~~~」
俺は頭を抱えた。
せっかくメーリカ姉さんが気を利かせてあいつらの部屋のランクをわざと落としてくれたのに、この船に乗ったら台無しじゃないか。
「これ知っていたの、メーリカ姉さん」
「あ、いや、なんでもカスミが稟議を通したから大丈夫と言っていたし、それじゃあ、私からは何も言えないよ。
そこの社長も張り切っていたしね」
「あんちゃん、細かいこと言うなよ。
廃品の再利用だ。
無駄が無くなるし、快適だし、良い事尽くめだろう」
俺はこの後何も言えずに艦橋に向かった。
そこで俺は少しだけ安心した。
艦橋は今まで見てきた場所のように派手さは無い。
かなり上質な造りだが、どう考えてもお客様用ではない。
これはあの船の艦橋から移設したしたのだろう。
しかし艦長の席は場違いなくらい立派だ。
艦隊の司令長官の席だと言っても通るくらいの席のサイズを小さくしたようなものだ。
まあ、元の船が戦艦以上超弩級戦艦以下のサイズだったからそれもうなずける。
この船誰が動かすんだよ。
艦橋で、変わった点などの説明をカスミから受けている。
ほとんどの運行システムが軍用からさらに進んだ民生用になっている。
軍用は良くも悪くも保守的だ。
とにかく問題など起こさないことを前提にしてあるので、とがった仕様は使えない。
そこが民間だと、発注主の要望通りに作られる。
今回利用した豪華客船ともなると予算もふんだんに掛けられたモノに成る。
少々とがった仕様だが、その代わりここの社長も納得できる性能を持つものを再利用させてもらった。
これは慣れるまでは大変だが、慣れるとものすごいものになりそうだ。
「艦長代理。
次は隣の作戦司令室に案内します」
「「「え?」」」
艦橋の空気が固まった。
カスミがマリアの傍に行く。
「マリア、本当にあの部屋案内するの」
「何言っているの。
あの部屋を先に見せないで艦長室を見せたら怒られるでしょう。
ただでさえ兵士の部屋で怒られたばかりなのに
私たちの部屋絶対に見せられなくなるよ。
だから、あそこは怒られるのを覚悟しているから任せてね」
「健闘を祈るわ」
「それ、自慢の部屋だ。
わしが案内しよう」
ここの社長が俺らを隣まで連れて行く。
部屋に入る前に扉の前で固まる俺ら。
ドアが完全に場違いだ。
これ絶対にあれだろう。
スイートルームを移設した奴だ。
俺らはそのまま社長に連れられて中に入る。
ほらやっぱり。
これなら王族でも案内できるぞ、俺は知らないけど。
「凄いだろう。
この部屋はあの豪華客船でも二部屋しかなかったというロイヤルスイートをサイズダウンしたものだ。
これなら貴族や王族でも案内できるぞ。」




