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朝顔5号


 基地内での塩対応も覚悟はあったが、あれも疲れた原因だ。


 ドック脇にある俺らがベースにしているプレハブには既に教室も用意されていた。

 広めの部屋から家具類をすべて出して、どこから探してきたのか机も用意していた。


 とりあえず全員をバスから降ろして、その教室に入れた。


 俺らを乗せてきたバスの運転手にお礼を言って、帰してから、俺は教室に入った。


 皆着席していたが、俺が教室に入ると何故だか張り切っているドミニクが号令をかけた。


 「艦長代理、入室!」

 その声を聴いて、バラバラだが配属されたばかりの2等宙兵が席を立ち、気をつけの姿勢を取った。


 「艦長代理に敬礼!」

 俺はその敬礼に答礼してから全員を座らせた。


 そこで、まさかこんなに早く新人を前に挨拶をする羽目になるとは考えていなかったので、カッコよくできなかったが一応の挨拶を済ませた。


 その後、メーリカ姉さんに任せて俺は部屋を出た。

 その後はメーリカ姉さんとマキ姉ちゃんがうまくまとめてくれたようで、今日のところは終わったようだ。

 事務員たちが手分けして彼ら彼女らを部屋に案内していった。

 案内された部屋も当然廃船からの流用だ。

 豪華な部屋は後々のことを考えると勘弁してほしかったが、その辺りもうまく用意してくれたようだ。

 なんでも解体中の廃船から乗員用個室を今朝バラして隣に運んできたと聞いた時には俺もびっくりしたが、流石は解体屋だ。

 現に目の前で豪華客船をばらしているので、いくらでも準備ができるとあの社長は豪語していたくらいだ。


 後で聞いた話だが、「いっそのこと1等客室を持って行けよ。余っているからいくらでも使ってくれ」と言われたそうだが、そこはメーリカ姉さんが丁寧にお断りしていたとか。


 流石に外見はあれだが、豪華客船の一等客室なんかに住まわせたら二度と他では生活できなくなりそうだったので、あの子たちのためにメーリカ姉さんは良い仕事をしたようだ。


 俺の生活はこの日を境に一変した。

 とにかく忙しくなった。

 今までも忙しかったが、書類仕事が半端ない。

 その上、就学隊員の面倒を見ているのだ。

 俺が直接何かをしている訳では無いが、それぞれの資質を確かめないといけないので、各担当から上がって来る表などをまとめて後々の参考となる資料を作っている。


 そんな俺が忙しく働いている最中にもマリアたちは遠慮なく書類をぶち込んでくる。

 色々な稟議が上がって来るのだが、それにも目を通して許可を出している。


 中には『あれって許可出しても良かったっけ』と後から心配になるようなものもあったが、後の祭りで、その後のことを気にしないような習慣が付いた。


 ということで、入渠から一月が経っても俺はあれから船には入ってはいない。


 その代わりじゃないがメーリカ姉さんやマキ姉ちゃんは何度か確認に訪れていると聞いているが、今のところ問題は聞いていない。


 今報告で聞いていることはエンジンの換装が終わったという話だ。

 見積上では予算の半分15億ゴールドとあったが、実際に換装した結果は10億ゴールドで済んだとも聞いた。

 なんでも目の前の廃船からマリアたちがエンジンを取り出して、親方と一緒に整備したので、正当な割引だとか。

 マキ姉ちゃんもそれを納得しているから問題なさそうだ。

 しかし、エンジンの換装って一月で出来るものなのか。

 だいたい同じ時期にドック入りしているあのフリゲート艦は、まだエンジンの換装が済んでいないとも聞いているのだが、大丈夫かな。


 ああ、最近俺を忙しくしている原因にマリアだけでなくカスミやアオイなどの下士官になった連中からも稟議が来る。

 マリアと同じように予算内である事を確認して了承しているが、驚いたのはエンジンシステムの全面変更に伴って、艦橋内の制御システムの全面変更と云うのがあった。

 これは航法システムの変更もあり制御コンピュータを含むかなりの規模の変更のようだが、稟議に書かれていたのは5億ゴールドと云う金額で、流石にこれには俺も心配になりカスミを呼んで直接問いただした。


 しかし、カスミが言うには交換されるもの全てが目の前から自分たちで取って来るから安く済むと言っていたが、実際にあと二か月でこの船は空を飛べるのか心配になって来る。


 まあ、任せた以上、腹をくくるが、みんな自主的に頑張っているのが分かる分だけ正直嬉しくもある。


 一応マリアには定期的にここに呼びつけて進捗を説明させている。

 エンジンの換装と云う大仕事を終えたのかマリアは余裕すら感じさせるようになった。

 それに何より大好きなことを自由にさせているので、本当に毎日機嫌がよさそうだ。




 「艦長代理。

 エンジンの換装は終わったよ。

 カスミの方も艦橋の工事もそろそろ終わるって」


 「そうか、そうなると後は……」


 「そろそろ兵装の方に掛かりたいんだけど」


 「え?

 兵装も変えるのか」


 「エンジンを変えたから、どちらにしてもそのままじゃ使えないよ。

 動力の伝達が全く違ったからね」


 「となると、今から準備できるのか」


 「ヱへへへへ」


 「何だよ、そのいやらしい笑いは」


 「今からじゃ新品頼んでも間に合わないよ。

 それに何より予算内に収まらないからね」


 「そうだよな……」


 「それも、ここにあるんですよ、艦長代理」


 「え?

 だって、ここって軍艦の解体もしているのか」


 「軍艦の解体もしているようですが、最近はほとんどそんな仕事は無いって」


 「それじゃあどうするんだよ」


 「あれ、艦長代理は知らなかったのですか」


 「何をだよ」


 「ですから、豪華客船も武装していることを」


 「へ?

 そうなの」


 「こんな、そこら中に海賊が跋扈するのに客船が丸腰な訳ないですよ。

 かなりの武装はしていますからね。

 それも自由に使っていいって言われていますから、そこから主砲に使えそうなレーザー砲を前後で1門づつ使います」


 「予算は大丈夫か」


 「はい、全部で3億ゴールドあれば十分かと」


 「それならいいか……」


 「で、でね、艦長代理。

 それだけだと船の格好が悪いんですよ。

 何と言いますか、間が抜けていると言いますか。

 それでですね、航宙魚雷発射管を付けても良いですか」


 「別に構わないが、そもそも魚雷が無いだろう」


 「それがたんまり有るんですって」


 「どこに」


 「ここにですよ。

 親方が言うには、処理が間に合わなくて火薬庫に保管しているが邪魔なそうで、できれば使ってほしいとのことなんです

 引き取り費用を出しても良いって言っていたくらいですから」


 「ちょっと待て。

 そこまでくると色々と問題が……」


 「あ、マキ主任には確認済ですよ。流石にただという訳にもいかず1本あたり1ゴールドで買い取るならいいですよだって」


 「確かに最近はほとんど使われなくなったと聞いているが、それにしても1ゴールドとはね。

 分かった、稟議を回せよ

 もうそれだけか、俺も忙しいからな」


 「あ、あ、最後に一つだけ」


 「なんだ?」


 「あの船に朝顔5号を載せても良いよね」


 「朝顔だ?

 前に許可出さなかったっけ。

 あ、内火艇には許可したんだっけか。

 一応今回は稟議さえ出してくれれば良いよ。

 さっきの話と一緒に稟議をよこせ。

 これで終わりか」


 「はい、今回は以上です」

 マリアはそう言い残すと本当にうれしそうに部屋から出て行った。



 マリアは部屋から出て行き、そのままドックに入っている航宙駆逐艦『シュンミン』の艦橋まで行った。


 艦橋ではカスミが総入れ替えした航法システムの調整をしている。


 「ずいぶんここも変わったわね。

 何よこれ、まるで豪華客船の中にいるみたい」


 「あ、マリア……准尉」


 「よしてよ、今更」


 「そうよね、今更よね。

 でも艦長たちが居たらまずくない」


 「確かに」


 「一応公とそうでない時とで使い分けるわ。

 それよりも今の感想は何よ。

 当り前じゃないの。

 今ここに有るのは全てあの王国一と呼ばれた豪華客船から持ってきたものばかりよ。

 前の古いものは一切無いわね」


 「ずいぶん思い切ったことしたわね。

 大丈夫」


 「大丈夫よ。

 きちんと許可は取ったわよ。

 それよりもずいぶん浮かれていたわね。

 何か良いことあったの」


 「デへへへ。

 あれ許可貰っちゃった」


 「あれって何?

 もしかして……」


 「そう、『朝顔5号』の許可」


 「え~~、あれは流石にまずくないの」


 「そんなこと無いよ。

 親方も太鼓判押してくれたしね。

 それに、『朝顔4号』を親方と一緒に改良したから絶対に大丈夫だよ。

 何より、あれは前のような状況でも武器の使用ができるメリットがあるから絶対に必要だよ。

 特に、うちらのようにウルツァイトの影響で武器使用ができない宙域がいっぱいある所で働くには。

 これで海賊にも絶対に負けないよ」


 「確かにそうだけど……

 あれって確かレールガンだよね。

 ロスト技術とか言ってなかったっけ」


 「それがさ、親方のところに文献があったんだよ。

 なんでもドーフ人の里ではかなり最近まで使われていたらしい。

 さんざん悩んでいた箇所が一発で解決したからね」


 「でも、あれってかなりの電力が必要だよね」


 「それも大丈夫だよ。

 専用の発電機積むから」


 「え、只でさえエンジンを大きくしたのに、どこにそんな場所があるの」


 「ヱへへへ、それも大丈夫だよ~~ン。

 それもきちんと稟議を通してエンジンを入れてあるブロック全部機関室にしたから十分に広さがあるの。

 もっとも倉庫にもするけどね」


 「あれはどうしたの、魚雷だっけ。

 その発射装置は」


 「それは親方のところにあったのを改良したのがあるの。

 それを積むことになった。

 知っての通り、ここにはやたらに光子魚雷が余っているからね」


 「それの倉庫として確保したのね。

 でも大丈夫かな。

 これがばれたら責任問題にならないかな」


 「大丈夫だよ。

 だって私たちって強運だよ。

 絶対に大丈夫」




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― 新着の感想 ―
色々と不穏な発言がwww
[良い点] これはヤバいwww
[一言] 小型艦(駆逐艦)に凶悪なエンジンに最高級豪華客船に相応しい主砲(どう見てもアーガマ級主砲)に運用に難があるとはいえ威力だけは折り紙付きの魚雷。そこにもってEML…どっかで見たよーなク◌シュナ…
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