就学隊員
「確かに大変そうですね。
全員が就学隊員の1年生だと、訓練のほかにも学習計画を立てないといけませんからね」
「そうだよな。
でも、俺らにとっては、大変だけど増員するならこれくらいじゃないとまずいんだよな」
「艦長代理、それってどういう事なんでしょうか」
「考えても見てごらんよ。
まず2等宙兵だけというのは俺らの構成を見ればこれしかないだろう。
今はとにかく頭でっかちの船なんだよな。
一人も2等宙兵が居なくて、その代わりに下士官が人数のわりに多くいるしな」
「そうですね。
でも、それでももう少し慣れた兵士が来てもらいませんと、こちらとしても大変ではないでしょうか」
「それもそうなんだけどもね。
うちって例の叙勲の関係でルーキー兵士なのに1等宙兵もいるし、慣れた兵士だと、バランスが崩れそうだし、なにより全員が若いので、ある程度の年だとかえってなじめないのでは。
まあ、どちらにしても兵士が足りなかったのは事実だし、もうひと頑張りしようか」
「そうですね。
でも私たちにはそれほどお力には成れそうにないですね。
事務以外では明らかに戦力外ですし」
「いや、そうでもないよ。
悪いけど事務員の方たちには学習面で面倒を見てもらうよ。
本来の仕事とは離れるけど、こればかりは協力してね。
しかし、隊員としての教育は隊員がしないといけないから、俺らがすることになるな。
となると、ここは頼りになるメーリカ姉さんと相談だな、
悪いけどメーリカ姉さんを呼んでくれないか」
俺とマキ姉ちゃんとの会話を聞いていた若い事務員が言ってきた。
「艦長代理、
わ、私がメーリカ姉さんを探してきます」
「ああ、悪いがよろしくな」
それからほとんど間を開けずにメーリカ姉さんがやってきた。
「悪いね、忙しいところ呼び出したりして」
「いや、構いませんよ。
それよりも、増員だって」
「ああ。しかも就学隊員初年生だと」
「増員なら一番いい選択じゃないですか。
ここで変に擦れたのが来ればそれこそ大変だったですよ。
だいたい数か月は船すら動かせないのに、擦れた連中の御守りなんかがあったりしたらぞっとしますよ。
初年生なら最初にガツンと言えばどうにかなりなすよ。
それこそニーナやバニーのような『なんちゃって一等宙兵』でも扱えますからこの人事を決めた人には感謝ですね。
大変なのは変わりませんからね」
「メーリカ姉さんにそう言ってもらえると助かるよ。
直ぐに受け入れの準備にかからないといけないが今大丈夫か」
「ハイ私は大丈夫ですが……そうだ。
あいつらにも関わらせましょう」
「あいつら?」
「なんちゃって士官ですよ。
直ぐに呼んできますがここで良いですか、打ち合わせの場所は」
「ああ、それじゃあここで待つよ。
マキ主任も良いかな」
「ハイ、私は構いません。
私の職場は隣ですから何ら問題は有りませんが、皆さんが集まるまでに部下たちに仕事を頼んできますね」
マキ姉ちゃんやメーリカ姉さんはそう言うと部屋から出て行った。
暫くして賑やかなのが部屋に入ってきた。
「隊長、隊長。
転校生が来るんだって」
お前は、どこの学園ものだよ。
そもそもいい加減に隊長から卒業しろよ。
『ゴッツ』
後ろからメーリカ姉さんがマリアの頭に拳骨を落とした。
「痛~~い」
「マリア、いい加減に艦長代理のことを隊長呼ばわりはよせ。
もうすぐ新人が回されるっていうのに、お前は士官なんだぞ。士官」
「だって~~」
「だってじゃないよ、全く。
良いから座れ。
始めるぞ」
「あ、あ、その前にちょっとだけいいですか、艦長代理。
ほら~、私だってきちんと言えるんだからね」
「分かったけど、それだけか。
何か言いたいことがあったんじゃないのか」
「ああ、そうでした。
私もちょうど良かったんです。
船の見積もりが終わり、親方と話したんですが、あの船のエンジンそっくり替えた方が良いんだって」
「そんな訳あるか。
予算だって無尽蔵じゃないぞ。
他も整備しないといけないのに、エンジン交換なんてすればそれだけで予算オーバーじゃ無いのか」
「イエイエ、メーリカ姉さん。
親方が言うのには、あのエンジン、総バラシしないと使えそうにないんだって。
総バラシして組み直しするくらいならエンジン入れ替えた方がはるかに安いって言っていたよ。
それに中古再生品を使えれば格段にそっちの方が安く済むとも言っていたよ。
何ならただでも良いとか」
「そんな訳あるか」
「まあ話は分かった。
その件は予算見てからだけど、もし予算内に収まるなら好きにしていいよ。
あ、でも事前に稟議は回せよ。
予算の執行状況を把握しないといけないし、一応勝手にやらせるわけには行かないからな。
稟議を回してもらえればこっちで出来る限り好きにさせるから」
「分かった、ありがとう。
隊長……じゃ無かった、艦長代理」
「良いな、くれぐれも先走りはするなよな。
稟議の許可が出てからだぞ」
「ありがとう、艦長代理。
そういうと思ってもう稟議書はできているんだな、これが。
これデータね。
これから送るから。
送り先は艦長代理宛て?」
「いや、メーリカ姉さん……いや違うか。
もうお前も士官なんだよな。
だとすると、直接俺で良いか。
俺の許可が出たら、マキ主任に……、いや逆が良いか。
悪いけどマキ主任に送ってくれ。
マキ主任のところで予算を見て問題無ければ俺に送ってくれれば許可を出す。
そうなったら仕事を始めても良いよ。
それでいいかな」
「ハイ、私もそれが良いかと。
しかし私がチェックできるのは予算だけですよ」
「ああ、それで構わないよ。
だいたいここの社長との約束で好きにさせると言ってあるんだ。
実際細かなところまでは俺だって分からないし、要はA級整備の証明書が出せれば問題ないよ」
「それもそうですね。
分かりました」
「ではこの件はこれで良いかな。
次に移ろう。
これからが本題だ。
既に知っているかと思うが、2等宙兵の配属が近々されることになった。
就学隊員初年生ばかり30名だ。
そこで、うちの主力メンバーである君たちに集まってもらった。
その配属される隊員の処遇について相談したい」
そこから始まった会議はかなり疲れた。
結局二時間ばかりかけて、就学を毎日数時間と定めて、それ以外については、30名を5人ずつ6つの班を作り、毎日交代で実際にここで働いている先輩たちの持ち場を回らせることにした。
午前中にマキ主任たちに勉強を見てもらい、午後には半数の15名を基礎訓練に出し、面倒をメーリカ姉さんに見てもらう。
残りを船の整備をしているマリアたちや色々と雑用になってしまったが、ケイトのとこを順番に回ってもらう。
幸いなことに下士官だけには余裕があるので、6人の下士官を決めて面倒を見させることにした。
きちんと決めてとりあえずの懸案は消えた。
「ところで、艦長代理。
その新兵っていつ来るのだ」
「そういえば俺も聞いていなかったけど、いつなのかわかる?」
「え、報告していませんでしたっけ。
明日ですけど。
明日の午前中には宇宙港に到着するそうです」
「え。明日だったの」
「ええ、私は知っているものかと。
それで体制造りを急いだと思っておりました」
「明日はどうするかな。
どうせ引率もいるのだろう。
引き取りには俺も同席が必要なんじゃないのか」
「ええ、それも相談したかったのですが、できれば宇宙港で済ませられませんか。
上の連中にここに来てほしくはありませんから」
「ああ、ここって快適だけど、上の連中から見たら文句の言い放題だろうからな。
簡単に想像がつくよ。
そういう事なら俺が明日宇宙港まで出向いて引き取りをしよう。
どうせ一度は第二機動艦隊司令部に挨拶をしておこうかとも思っていたことだしな」
「ああ、そうだね。
私もそう思うよ。
私が付き合っても良いが、私なんかが司令部に行ってもね。
トラブルの元だし、何よりこっちでの仕事も手の離せないことになっているからね。
これで新兵を迎えるんだから、明日は張り切って仕事をしようかとも思っていたんだ。
悪いね、艦長代理」
「ああ、そうだな。
メーリカ姉さんは新兵が来てからが忙しそうだしな。
それに俺と一緒に二人がここを空けるのもな。
一応マリアは親方がいるから大丈夫かとは思うが、あの親方も正直信じられない部分もあるしな。
悪いが明日のお留守番を頼むわ」
「艦長代理。
それって酷くはありませんか。
私は明日からエンジンの換装で忙しいんです。
いたずらする時間はありませんよ。
ついでに新兵の面倒も……」
「それは無しだ。
みんなで見るんだ。
でないとお前だけ仲間外れになるぞ。
新兵だっていつまでも新兵じゃないだろう。
そうなったときに困るぞ」
「う、う、分かっていましたよ。
言ってみただけですから」
「それじゃあ、悪いが明日はマキ主任は俺と一緒に宇宙港まで付き合ってくれ。
まずは宇宙港の艦隊司令部で挨拶だ。
時間的には俺らが先につくかとは思うが、逆だったとしても新兵は司令部に案内されるだろうから問題は無いよな」
「ハイ、そうですね。
私は初めからお迎えに上がるつもりでした。
私も司令部には行きたいとは思っておりましたし、ちょうど良かったです」
「それじゃ、これからもっと忙しくなるけど頑張ってくれ。
これで今日は解散だ。
また新兵が来たら、ちょくちょくこういった場を持ちたいと思っている。
色々と問題も出るだろうから、みんなで解決していこう。
今日はありがとう。
では解散」




