人間やめますか? それとも……
「司令、王宮からの反撃が一斉に止みましたが……」
王宮からの反撃が『病んだ』……違った『止んだ』だよね……うん、わかっているよ。
「か、艦長。
計画で……」
「はい、これより王宮に突入します。
『ダミン』に指示を出しておきます」
そういうとメーリカ姉さんは無線で指示を出していく。
それと同時に先のサーダーさんの内火艇から一斉に兵士が飛び降りていく。
昔の戦場ではよくある作戦と聞いてたけど、現代でも使うんだな。
あれって、確か『ヘリボーン』作戦とか言ったか。
いや、パラシュートとか呼ばれていた空気抵抗を大きくして落下速度を抑える装置を背負った兵士が飛び降りる作戦の流れをくむものだな。
俺も士官学校時代に、背中に反重力装置を背負わされて内火艇から突き落とされる訓練を一度だけしたことがあったが、まさにそれが目の前で繰り広げられている。
しかもだ、全員が宇宙空間で使用されるパワースーツを着ているけど……あ、臭い対策か。
それならわかる。
「艦長。全員に通達だ。
外は宇宙空間とも同じくらいに過酷な環境が予想される。
突入時には全員宇宙モードでの活動を徹底させてくれ」
「了解しました」
メーリカ姉さんは俺の意図を汲んで全員通達を出している
「確かに、あれではね~。
さすがに私でも外に出るのを躊躇するかな」
マリアが他人事のように感想を口にした。
何をのんきな。
お前の作ったのが始まりだろうが。
先に突入している兵士たちは、事前に訓練でもされていたのか、王宮前広場に舞い降りてすぐに俺たちの着陸場所を確保していく。
その確保された空間を目指してバクミンが強行着陸していく。
着陸と同時にあの自慢の全通甲板を閉じているハッチが前後ともに開かれて、軍用車両がいきなり飛び出し、その後から続々と宇宙軍の陸戦隊、それに続き『バクミン』の乗員によって組織された。
すぐに、バクミンの隣にも僅かだかスペースが作られ、いよいよ『シュンミン』もその僅かのスペースめがけて強行着陸をしていく。
流石に強行着陸しただけあって、着陸時の衝撃はものすごかったが、艦橋で体勢を崩す者など……就学隊員と……俺の他は居なかった。
着陸後すぐにメーリカ姉さんが指示を出す。
「作戦計画通りすぐに、展開。
後部ハッチを開け、選抜上陸部隊はすぐに展開して、司令の安全の確保してお待ちしろ」
その後すぐに、メーリカ姉さんは俺の方に向きを変えて、敬礼をしながら俺に話しかけてくる。
「司令、準備が整います。
作戦の成功を」
「ありがとう、艦長。
では、行ってくる」
俺はメーリカ姉さんに敬礼を返しながら返事をしていく。
先程の衝撃で、尻餅をついたので、格好はつかなかったが、それは仕方がない。
ここで尻をさすりながらでなかったことを俺は自分で褒めている。
「ケイト、マリア。
わかっているな、絶対に司令をお守りするんだぞ」
「姉さん、任せて」
マリアが軽口を叩きながら俺より先に後部ハッチに向かって走り出していく。
「マリア!」
マリアが警護目標である俺を置いていくのを見たケイトも、マリアのことを怒鳴りながら走って追いかけた。
それを見ていたメーリカ姉さんは『ヤレヤレ』って感じで、ケイトの部下の方を見て頷く。
ケイトの部下とマリアの部下のうちで今回俺の警護役として選ばれた者たちは俺に向かって敬礼をして、指示を待っている。
「置いていかれるわけにもいかないので、行くとするか」
俺はそう言ってから、彼女らを連れて早足でケイトたちを追いかけた。
後部ハッチは全開に開かれており、その外には今回の作戦に参加するメンバーが集まっていた。
「司令、遅いよ!」
マリアが俺に文句を言ってきた。
「急いでも、ここの制圧が済まない限り意味ないだろう」
とマリアに返したが、周りを見ると制圧の必要がなかった。
前に見たコクーンやその前の敵航宙フリゲート艦制圧時の状況をより酷く、より広範囲に広がっている。
今、必要なのはのびている敵の扱いだ。
「悪い、伝令を出して敵を集めて監視してくれ」
「はい、ですがすでに……」
誰かが返事を返してくれたが、これも前に見たように先に展開している軍が始めていた。
「しかし、ひどい状況だな」
俺はそう言って、広場の端を見ると……あ、あれやばくないかな。
俺の視線の先に、逃げ遅れた王宮勤めの事務官だろうと思われる女性数人がのびている。
しかも、これも前に見た海賊と同じような状況で、死んでは居ないが、人間をやめているような、いや、意識が戻ると絶対に人でいることを放棄しそうな状況でだ。
俺はすぐに女性の隊員を捕まえて指示を出す。
「あっちにのびている女性たちは別に隔離してくれ。
特に男性の目に触れないような配慮も取るようにだ」
あのままだと、絶対に後々問題になる。
海賊のようなアウトローや、敵対している軍人に対しては遠慮する必要などないが、一般人と殆ど変わりのない事務官たち、それも女性となるとあれはまずい。
少なくとも異性の目に触れないような配慮は必要だろう。
でないと、仕事を辞めるくらいならばまだいいが、人を辞める者が出てもおかしくない。




