『タンポポ』の散布
「艦長、フェノール王国の首都星の各方面からのエネルギー波を確認しました。
こちらへの被害は、現状問題ありません」
「司令。
敵さんはここまで来てもやる気のようですが」
「ああ、向こうから攻撃してくれたので、正直助かった。
なら俺たちは、法に基づき、強制執行を行おうか。
相手に宣言してから、計画に基づき、始めてくれ」
俺の一言から、いよいよ史上最大の作戦?? 俺の中ではの話だが……が始まった。
メーリカ姉さんは僚艦に向け、艦載機の発進を命じる通信を出して、それに応じるかのように、まず最初に『バクミン』から8機の艦載機全部が発進していく
8機?? そういえば、この作戦前にパイロットが増えたこともあり、小隊指揮用の特別仕様艦載機が4機増えていたが、さすがに4機全部を発しさせるだけのパイロットの準備のほうが間に合っていない。
なので、前から艦載機の隊長を任せている二人に乗り換えてもらい、今までの艦載機を新人たちに任せての配備だ。
その後に『ダミン』からも、内火艇が陸戦隊や機動隊員を満載してどんどん発進していく。
見ているだけでも、壮大とは言わないが、ついにここまで来たかと思うくらいにまでは俺の攻撃力も増えている。
そんな感想に浸ることを許される間もなく艦長は次の命を出している。
「『シュンミン』はこれより王宮上空に突入する。
僚艦は事前の計画通りの行動を期待する」
メーリカ姉さんは無線で命令を通達した後に、今度はマリアに向かって叫ぶ。
「マリア、今度は全速だ。
出せるだけの速度で向かうぞ」
「了解しました、艦長」
マリアの元気のよい返事に『シュンミン』はどんどん加速してついには、限界を突破していく。
前に14宇宙速度までは出したことはあるが、12宇宙速度で移動していたところからの加速だ。
現在15宇宙速度に達しそうな勢いだ。
艦橋内では、速度の読み上げが始まっているし、艦内無線で機関室からはエンジンの諸元の報告が入る。
「機関長、そろそろ限界になります」
ついには機関室からギブアップの知らせが入る。
「あちゃ~、もうこれが限界か。
艦長、今の速度ではあと5分が限界ですかね……でも、あと二分もあれば目的地か」
マリアとメーリカ姉さんとの会話を聞いて、俺は速度を確認すると15.6宇宙速度を示していた。
前に試験したときに社長が言っていたことは正しかったようだ。
瞬間的にはそこそこの速度まで加速できたわけか。
まあ、今となってはほとんど使い道はなかったが、今回それが発揮できたことは……多分よかったのかもしれないか。
大体艦隊行動をとる以上12宇宙速度までしか出せそうになかったし、それに一番肝心なことに、俺たちが無事に帰還しないことにはこの記録は消える運命にある。
尤も戻ったとしても、記録を発表されるかは不明だが……多分発表できずに終わるかな。
カスミが大声で知らせてきた。
「目標上空、王宮の上空50mの位置です」
ほとんど急停止に近い操船で、『シュンミン』は王宮上空を占拠に成功する。
5分後に艦載機が集まってきて、王宮の制空権を完全に確保したのちに、サーダーさんの作った内火艇がやってきた。
あれ……もう出てきたけど、大丈夫なのかな。
まだ完全に安全という訳でもないだろうに。
「司令、準備が完了しているそうです」
艦長のメーリカ姉さんからの報告を受けるけど、準備ってなんだ……まあいいか。
すでにサイは振られたので、今更どうしようもないだろうに、俺はメーリカ姉さんに向かってただ頷いた。
次の瞬間……正確に言うとメーリカ姉さんからの通信を受けてからだろうが、モニター上に映っているサーダーさんの内火艇から無数の物体がゆっくりと、花弁が舞うような感じで……いや、花弁が舞うようなきれいでも情緒的でもないが、戦場でそれを求めてもいないけど、なんと表現すればいいのか、俺には語彙を持たない。
「司令、あれ、大丈夫なの?」
マリアが、心配そうに俺に聞いてきた。
あのマリアがだよ。
何が大丈夫か、俺に聞かれてもな~。
確か、あれって『タンポポ』とか言ったかな。
言いえて妙とはこのことだけど、ゆっくりと舞い落ちる姿はタンポポのはねげが舞い散る様子などはまさにタンポポというか、そんな情緒的よりも、その分量の方がタンポポのタネだ。
タンポポの種が風で舞い上がる時の様子は少しづつ散っていくが、子供が遊びで口から空気を吹きかけて全部一遍にまき散らすときなど、かなりの量が一斉に舞っていく様子に……いや、そんなかわいらしい量じゃないな。
「ああ、確かにずいぶんあるな」
「司令、あれってサーダーさんが言うには『一つ一つが一割の量』使っているんでしょ、あの臭い。
私の1号の時よりもとんでもないことになりそうな気が……」
マリアですら、目の前の状況におびえているような気がするのは俺の勘違いかな。
しかし、サーダーさんは今回ずいぶん張り切ったな。
いったいどれくらいの分量を……ちょっと待て、1割という数字は10個集めれば元と同じ量になる。
あれ10個で機動隊のアイス隊長が精神洗浄を必要としたくらいなのに、あの量だと少なく見積もっても……
「司令、あの『タンポポ』でしたか、いくら実戦でぶっつけ本番でのテストだとしても5000もの量の散布を許しましたね」
マリアと俺との会話にメーリカ姉さんが聞いてきた。
え? 5000……というと、アイス隊長が精神を病んだ時の500倍もの量が王宮に散布って、さすがに……ちょっとまずくないかな。




