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王宮突入直前

 

 目標である王宮突入まで10時間かかるという話だ。

 今から作戦を見直してもさすがに10時間いらないだろう。

 ちょうど艦内放送で、艦長のメーリカ姉さんが直接乗員たちに呼び掛けている


「乗員に告ぐ。

 これより、作戦行動に入るが、目標である王宮突入まで10時間あるので、艦内の体制を通常モードに変更する。

 が、いつ何時敵と遭遇するかわからないので、その覚悟だけは持っておくこと。

 また、突入時に備え各自体調を万全に整え、休める者はできるだけ体を休ませておくこと。

 以上だ」


 確かの、フェノール王国の領域内中心部に侵入しているので、まったく敵との遭遇なしとはいかないだろうが、それでもグラファイト帝国の威嚇行動により、こちらへに関心は低くなっているようだ。


 その証拠に、いまだにこちらの行動に関して何らかのアクションがとられた形跡は認められていないとカスミが先ほど報告してくれたばかりだ。


 それに、敵との遭遇がある場合でも、先行して動いているグラファイト帝国の戦隊が二つも付近を警戒して状況を知らせてきている。


 一応、彼らの本部が有るコクーンへの状況報告の形をとってはいるが、その目的は俺たちへの情報提供だ。

 それだけに、俺たちの現状はかなり安全が担保されているといえるだろう。

 メーリカ姉さんもそのあたりを踏まえての先の乗員に対する呼びかけだった。


 で、俺はというと……なんと、今回ばかりは休めるのだ。

 たいていこういう場合、俺だけは別扱いで普段おろそかになりつつある書類お化け退治が待っているのだが、今回は秘書官イレーヌさんまでもが、俺に『突入まで休んでください』と言ってきたのだ。

 大切なことなのでもう一度いうが、今回は俺も突入を前にして休めと言われた。


 いや~、うれしかったね。

 だけど、すぐ後から『うそぴょ~ン!』なんて言われたら立ち直れそうにないので、思わず聞き返してしまった。

 信じられないことだったこともあり何度も聞き返していたら、三度目になってついにイレーヌさんが切れたのか、『仕事がしたいのでしたらすぐにでも用意しますが』なんて言われたので、俺は慌てて自室に戻りベッドの中に……。


 イレーヌさんを怒らせてしまったかな。


 だが、確かに現状では俺のやることは何もないので、そのまま時間まで休むことにした。


 8時間後に、イレーヌさんが俺のことを起こしに来た。


「司令、突入開始2時間前です」


「ああ、ありがとう。

 すぐに、作戦検討室に向かうよ」


 俺が作戦検討室に向かう途中で、『シュンミン』の艦内も戦闘態勢に艦内モードを切り替えていた。


 いよいよ、王宮にそれこそ小型艦三隻で突入するという前代未聞の作戦に入る。

 さすがに王宮まで2時間の距離まで来ると、フェノール王国の各組織から俺らに向けて誰何の通信がうるさく入ってくる。


 今の俺たちの規模からしたら、海賊だとしても中規模……いや、大規模になるが、フェノール王国はあの大海賊菱山一家を使っているので、その海賊のなにかと勘違いしているようで、いきなり攻撃をしてくる感じはしない。


 俺は、作戦検討室に入り状況を確認していると、艦長がこちらに入ってきて、相談してきた。


「無線は現在封鎖中です」


「確かに、海賊だと間違えているようなので、そのまま勘違いさせたほうがいいだろうが、大丈夫か」


「大丈夫……あ、『バクミン』や『ダミン』に対してですね。

 ええ、カリン艦長とも少し前に相談しまして、こちらから無線封鎖を解除しない限りレーザー通信を使うことを確認しております」


「え? あれって、暗黒中域で出力が減衰しないと攻撃になるのでは」


「ええ、パルサーを使い、出力も訓練用にまで落とせば何ら問題は出ておりません」


「それは良かった。

 で、現状は?」


「はい、あと2時間……いや、1時間30分後に王宮上空まで到着できます」


「それで、敵からの攻撃の可能性は……」


「はい、先ほどカスミとも話したのですが、フェノール王国軍のほとんどが、現在グラファイト帝国の戦隊にかかりきりになっておりますね。

 もともと大した軍事力を持たない国でしたので、ダイヤモンド王国への備えもありますから、王宮周辺には大した戦力はなさそうですね。

 ですので、こちらに向かってくるとしても、うちで言うところのコーストガードでしょうか、いわゆる警察のようなものしかないでしょうね……あ、あるとすればの話ですが、菱山一家も警戒すべきかと」


「なら、現状では大した脅威ではないか」


「はい、ですのでそのまま計画を進めます」


「となるとあと一時間三十分後か、ならば、そろそろ始めるか。

 突入一時間前になり次第、無線解除して突入作戦を決行する」


「はい、私もそう考えておりましたので」


 メーリカ姉さんはそう言うと艦橋に戻っていった。

 俺はもう一度作戦計画を確認して、捜査室長のトムソンさんとも最終確認を行った。


 30分後、突入1時間前になり、無線封鎖を解除して『シュンミン』から、僚艦に作戦決行を知らせる命令を発した。


 俺は、今回ばかりは艦橋にて推移を見守りたく、作戦検討室から出て艦橋に入る。

 だがそこで面倒なのだが、保安員が仕事を始める。


「戦隊司令、入室」


 警戒中の保安員からの号令を聞いて、艦橋にいた修学隊員たちはいっせいに姿勢を正して俺のほうを振り返り敬礼姿勢をとるが……もとからのお仲間たちはめんどくさそうに俺のほうに振り向き『たいした用事もないのに何でここに来たのかな?』なんて雰囲気を少しも隠そうともせずに、ただ頷くだけだった。


 それを見たイレーヌさんは少しばかり不満そうな顔をしたが、俺は無視して、保安員にねぎらいの言葉をかけてから艦長のメーリカ姉さんに一言「お邪魔するよ」とだけ伝えた。


 そこからは、艦橋をどんどん忙しくなっていく。

 所属不明の軍艦……フェノール王国が軍艦と認識しているかは不明だが、それが三隻連なって首都星に一直線に、それも信じられないくらいの速度をもって近づいてくるのだ。


 フェノール王国の宇宙管制を担当している部署からは所属を誰何する無線がひっきりなしに飛び込んでくる。


「司令、どうしますか?」


「もういいだろう。

 仕事を始めるか」


 時計を見ると王宮上空まで残り15分になってきた。


 俺は、メーリカ姉さんにお願いして、無線を使わせてもらう。


「艦長、俺たちの仕事をするから無線をつないでくれ」


「無線??

 何でですか」


「聞くまでもないだろう。

 臨検の時にもしているように、こちらから公式に被疑者の身柄確保について宣言しておかないと、あとで法的な瑕疵をいけ好かない貴族たちからつつかれる。

 今回は、陛下より特別令状も貰っているので、特権階級でも遠慮なく捕まえられるので、そのあたりについても宣言をしないとな」


「え~、この場に及んで、面倒な。

 誰もそこまで気にしませんよ」


 例によって、緊張感のかけらもないマリアが俺に異議を申し立てる。

 そんなの知るか。

 俺は、無線でいつもの要領で、宣言するだけだ。


「こちらは、ダイヤモンド王国所属、広域刑事警察機構軍だ。

 貴殿らには、ダイヤモンド王国国王陛下より身柄差し押さえの令状が出されている。

 特権階級を持つものも一切関係なく、これからいう者達の身柄を拘束するので、速やかにこちらの命令に従いなさい」


 俺が、ここまで通達をしていると、カスミから緊張した声で報告が入る。


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