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艦橋の緊張感



「司令、単縦陣の陣形が整いました」

 

 俺の指示を受け、戦隊の陣形が整った。

 いよいよ俺たちの作戦が始まる。

 俺は、艦長のメーリカ姉さんに、最後の指示を出す。


「では、行こうか。

 連中が待っている悪の巣窟へ」


 恰好を付けたわけではないのだが、俺の厨二病が抜け切れていなかったようで、ちぐはぐな命令となってしまった……正直恰好悪いな。


「カオリ、司令の言葉を聞いたな。

 戦隊はこれより第12AUでフェノール王国首都星に、寄り道などせず一直線で向かう」


「艦長、了解しました……」


 艦橋の命令を受けた通信士のカオリはすぐに無線で艦長の命令を伝えていく。


「戦隊所属艦に次ぐ。

 これより、作戦が開始されます。

 旗艦『シュンミン』に続き、12AUで移動する。

 遅れなきよう」


 通信士のカオリからの無線から、戦隊はどんどん速度を上げていき、すぐにこの戦隊の最大船速である速度まで加速していく。


「カスミ、フェノール王国に対して面倒な欺瞞工作などせずに、直接向かうので、付近の状況に十分に注意せよ」


 艦長のメーリカ姉さんからどんどん艦橋内に指示が出ていく。

 艦橋は、いつになく緊張感に包まれていく。

 この緊張は、俺にとって少し心地よく感じていることに気づき、少し苦笑いを浮かべていたようだ。

 秘書官のイレーヌさんから声がかかる。


「司令、どうしました。

 作戦の成功を確信でもしましたか」


「え? どうして……」


「今、これ以上にない笑みを浮かべておりましたので」


「ああ、ここまで周りからの協力を得られれば、失敗は考えられないが、こういう場面での緊張感というのか、久しぶりに感じたものだからな。

 うれしくなった……ちょっと違うか。

 でも、私はこの緊張感というのが割と気に入ってはいる。

 多分、そのせいかな」


 どうせ、このいい意味での緊張感を壊す者が出るのもこの艦ならではのお約束だ。

 今は、全速力に近い速度まで加速したばかりなので、マリアはおとなしく仕事をしているが、そのうちに……。


「艦長、エンジン出力に変化はありません。

 このままでも、いや、この船ならもっと速度は出ますけど」


「マリア、前に失敗したばかりだろう。

『シュンミン』だけ早くとも仕方がない。

 我々には『ダミン』や『バクミン』の両艦があるんだ。

 前に全速力出してあの二艦をおいていったことがあり、反省したよな。

 忘れたのか」


「え~、そんなことあったかな~。

 同じエンジン載せているのに……」


「マリア、『シュンミン』の外装をあのスカーレット合金で全面覆ったでしょ。

 そのせいで、この艦だけ、他より早いんだよ。

 忘れたのかな~マリア少尉は。

 本当に鳥頭だよね」


「あ~~、カスミ准尉は上官をばかにした。

 え~、司令。

 これって軍法会議だよね。

 軍法会議を開いてカスミに向こう半年間おやつ抜きの……」


 やはり、緊張感は長くは続かない。

 予想はしていたけど、本当にマリアは暇になるとろくなことしないな。


「マリアよ。その話も前にしたように記憶しているが」


「え? したっけ?

 でもでも、こういうのなんだっけ……そうだ、士気の低下を招くとかいうやつで、いけないんだよね」


「そもそも、その士気の低下というのがあるなら、お前が一番悪いが」


「え~!

 メーリカ姉さんも酷い」


「だから作戦中だ。

 艦長と呼べ」


 俺たちのくだらない会話に艦長のメーリカ姉さんも加わり、いつものにぎやかな環境に代わっていった。


「こんな大作戦の直前だというのに、すごいですね。

 この場に及んでも自然体でいられるのには見習わないといけませんかね」


 俺たち俺たちの会話を聞いていたトムソンさんが俺に言ってきた。

 確かに、大作戦で、下手をしなくともこの作戦の結果いかんでは宇宙全体に不幸が舞い降りるといっても過言ではない。

 普通の神経を持つ者ならば、耐えるのも難しい場面だが、本当にこいつらにはトムソンさんが言う通り俺自身が救われているのかもしれない……いや、それは絶対にないな。


「見習うのならば反面教師としてですかね」


 そんな会話中にカスミから報告が入る


「艦長。

 現在、戦隊に攻撃できる範囲には、軍艦どころか、星屑一つ見当たりませんので大丈夫です。

 このまま一直線に目標まで迎えます。

 目標到着予定時間があと10時間少々ですか」


「司令、今の報告通り、突入は10時間後で問題ありません」


 その報告を聞いていたトムソンさんが一言あった。


「今から10時間ですと、早朝6時は過ぎますかね。

 被疑者確保には早朝の抑え込みは鉄則なのですが」


「え? 捜査室長。

 確かに艦内時計ではそうなりますが、現地時間では、少しお待ちください。

 今調べますが、艦内時計とは乖離があるはずです……あ、出ました。

 王宮現地時間で午後2時くらいでしょうか……」


「あ、しまった。

 宇宙空間にいると時差があるのですね。

 失念していましたが、いまさら時間は変えれませんよね……ですが大丈夫です。

 長い刑事生活では、こういうことはありましたから。

 万全を期するならば早朝確保は鉄則なのですが、そうもいかないことも当然ありますし、我々も経験がありますので任せてください」


 トムソンさんは、任せてくださいと言ってきたが、何をどう任せればいいのやら。

 王宮占拠は、ほとんど軍の関係で行われるし、被疑者確保がその後にトムソンたちが……いや、それも軍が行うことになるかな。

 トムソンさんたち捜査員は、占拠後に証拠品押収で走り回ることになっていたはずだが、まあいいか。

 やたらに時間を気にしていた理由がここにきて分かっただけでも良しとしよう。


 作戦開始時間にこだわりがあったのは、被疑者確保に万全を期したかったのだろう。

 しかし、王宮占拠が現地の早朝でなくてよかったよ。

 そうでなければ、王族はともかく、関係の閣僚や役人たちは出勤前で王宮にいない確率が高くなる。

 まあ、今回の作戦ではフェノール王国の王族、王や王太子たちを拘束できれば一応の成功になるが、宰相や閣僚も拘束できればそれに越したことはない。


 しかし、この後まだ10時間あることだし、王宮での作戦をもう一度見直しておくか。


 今回は俺も王宮に向かい、現地で作戦の指揮にあたることになっている。

 重大な場面で、先ほどののような中二病全開の恥ずかしい言葉を発しないようにしないと、後々面倒になるような気もしていることだし。


 俺は、作戦検討室に入り、俺の端末からもう一度王宮占拠の行動計画を見直していく。


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― 新着の感想 ―
見える!見えるぞ! 突入したは良いけど、敵部隊に押されてる最中に格好付けて、んでもって後頭部をぶん殴られて「指令、邪魔」って言われて、襟首ひっつかまれて後方に引きずっていかれる指令の姿が!!! ん…
光年跨いだ宇宙空間での時差の計算とか超絶めんどくさそうw
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