作戦開始
コクーンから、帝国自慢?とはわからないけど、一応最新鋭と説明されている軍艦で構成されている戦隊が二つ出航していった。
「いよいよ始まりますね」
コクーンの指令室にいる王子殿下は俺に話しかけてきた。
もうこの段階になれば、戦略的判断を下す役割の司令など、ほとんど仕事などない。
現場判断で、必要に応じて戦端が開かれていくが、いきなりの攻撃はまずないだろう
これは、俺だけでなく王子も同じ見解で、すでに国境を越えている外交使節団を乗せたコクーンに対してフェノール王国がとっている措置からもいえるが、さすがにいきなり首都星に戦闘速度を維持して近づいてくる戦隊、それも二個戦隊ともなれば、一応威嚇も含め向こうの戦力は投入されてくるだろうが、いきなりの攻撃はないと考えており、王子はそれぞれの戦隊指揮官に対して、こちらからの先制攻撃だけは禁じている。
一応、この先の外交戦をにらんでのことで、グラファイト帝国がフェノール王国に対して宣戦を布告することなく、それも外交交渉を持ち掛けている現状においては、それはまずい。
フェノール王国はダイヤモンド王国からしても国力戦力ともに劣るので、大帝国であるグラファイト帝国からしたら、どうとでもできる小さな存在だが、どうとでもできるというのは他からの邪魔がなければという条件は付くが、この邪魔というか、それが問題だ。
グラファイト帝国は、常にコランダム王国との緊張関係を強いられており、そのコランダム王国はジルコニア帝国を巻き込んで、常に勢力の拡大を狙っているので、同じ国力を持つジルコニア帝国との緊張もあり、今の均衡を維持するのに精いっぱいの状況だ。
そんな世界情勢の中で、コランダム王国の大規模な謀略が今進行しており、俺たちが気が付くのがもう少し遅かったら、この世界は終わっていたとすら思える状況まで追い込まれている。
だからこそ、敵対関係にあるとも言い切れるその両国があるので、どの国に対しても外交的な瑕疵を作ってはならないし、敵側が瑕疵を作る隙を見せたら、すかさずそこを責める必要がある。
現在、アミン公国から進行中のコクーンは、フェノール王国の瑕疵である菱山一家との癒着を口実に大規模な外交戦を仕掛けているのだ。
「司令官殿、侵攻中の戦隊司令より定時連絡が入りました」
「そうか、計画は順調なのだな」
「はい、フェノール王国からしきりに我が戦隊に対して無線で、退去を要求しております」
「それで……」
「こちらからは、計画通りに、『菱山一家と共謀している政府高官の身柄の引き渡しと、菱山一家の討伐』を要求する旨の通信を再三にわたり返しております」
「それで、相手の反応は……」
「はい、そちらも同じようなことを繰り返しておりまして……おそらくは、上層部が混乱してかと」
「まあ、そうなるわな。
私でも、同じ状況に追い込まれれば、どう反応してよいかわからないしな」
先の状況分析を横で聞いていて、俺たちの出る頃合いと判断したので、俺は王子に話しかける。
「王子殿下。
そろそろ私たちも、作戦に参加しようかと」
「そうだな。
相手の反応も分かってきたことだし、頃合いか」
「はい、では次にお会いするのはフェノール王国から王やその取り巻きたちを確保した後ですか」
「そうなるかな。
うちの戦隊は、計画通り首都星の周辺で作戦行動をとるが……これがな~。
いかんせん鈍足なのが唯一不満といえば不満なのだが、作戦終了までにそこまで行けそうにないな」
王子殿下がご自身が指揮を執るコクーンの速度のことを気にしていた。
まあ、これだけ大面が普通の商船並みの速度で移動するほうが俺からしたら驚きなのだが、軍艦と比べるとどうしても不満は出よう。
「ええ、何が起こるかはわかりませんし、とにかく作戦行動は当初の計画通りに迅速に行い、早々に撤収します」
「それしか手はないのだよな、我々に残された手段としては」
「はい、では」
「ナオ司令、ご武運を!」
「ありがとうございます、王子殿下」
俺は王子と別れて、『シュンミン』に向かう。
コクーンの大きな格納庫では、各地から集められてきた応援部隊なども計画に従い、『バクミン』と『ダミン』に乗り換えていく。
うちらが持ってきた、あのサーダーさんの秘密兵器もカリン先輩の指揮下に置かれるので『バクミン』に乗せ換えているが、正直心配なのだよな。
唯一、心の支えというか、マリアとサーダーさんとで物理的に一緒にいることがなくなることか……あ、あかん、カリン先輩がいたな。
あの人、見かけはともかく、うちのメーリカ姉さんよりも下手をしなくともポンコツというか、でたらめな部分があるからな~。
メーリカ姉さんは決してポンコツではないのだが、でたらめさ加減は……うん、俺の周りにはそんな者しかいなかったけか。
心配するだけ、無駄なような……うん、考えないようにしよう。
すでに賽は投げられたのだ。
俺と一緒に『シュンミン』に乗り込むのは、保安員たちと捜査員で、『ダミン』が確保した王宮の捜査と王族の身柄を確保するのが作戦の骨子だ。
ひそかに期待しているのだが、今回も俺が現場指揮をするのだ。
尤も、俺の横には今回ばかりはメーリカ姉さんも一緒になるが。
まあ、怖くはあるが楽しみでもある。
「司令、他は準備を完全に終えており、司令の命令を待つだけです」
俺がくだらないことを考えていると、艦橋にいるメーリカ姉さんから、催促が来た。
彼女たちも早く暴れたくて仕方がないようだ。
どうして俺の周りには肉食女子しか、居ないのかな?
もう少しおしとやかな……
「司令、どうしたの?
早く行こうよ」
いつものようにマリアまで催促してきた。
まあ、賽は投げられたのだ。
あとは計画に従い粛々とこなしていくだけか。
「ああ、艦長。
全艦に連絡だ。
計画に従い、出発するぞ。
戦列が整い次第、巡航速度なんかではなく、全速力で首都星に突っ込むぞ!」
「司令、『突っ込む!』はないでしょうが、わかります。
カオリ、司令の話を聞いていたな」
「はい、艦長。
無線で命令を伝えます」
「なら、うちも出ようじゃないか、あいつらに鉄槌を下すために」
「司令、何やら盛り上がってきてますね」
「あ、トムソンさん」
「うちの出番は、皆様が仕事を終えた後からですかね」
「ええ、王宮を占拠してからになりますが、一番大変な部分でもありますよ」
「それは覚悟の上ですから、任せてください」
どうも俺たちだけでなく、捜査員たちも待ち遠しくて仕方がないようだ。
捜査室長のトムソンさんまでが催促に艦橋まで来ていた。
ああ、準備は整え終わっている。
あとは結果を待つだけか……こういうのを何と言ったか……あ、確か『人事を尽くして天命を待つ』だっけか。
まあ、俺は宇宙を救って殉職できれば最高なのだがね。




