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いよいよ迫る大作戦

 

 結局、コクーンに『シュンミン』を戻して、王子殿下宛ての伝言――という建前の「お使い」を託した。

 伝言は俺が知っている内容にもう一つ追加があった。


 もしフェノール王国からの返事が無ければ、そのままこのコクーンをフェノール王国へ向け移動させる、という一文。

 要するに「返事がない=即行動」である。

 わかりやすい。実にわかりやすい。


「すぐにでも作戦行動に入れ」とのお達しに、俺と一行は顔を見合わせる。

 いや、顔を合わせる余裕があるならまだ緊張感が足りないのだが、そこはそれ。

 俺達は国境を越えた。


 国境越えの頃、前にお使いに出していた『バクミン』『ダミン』が戻ってきた。

 戦力揃ったサインである。

 艦長カリン先輩は得意げに胸を張り、連れてきた宇宙軍陸戦隊の中隊長を俺に紹介してきた。

 見た目は若く、話し方は丁寧で、何より――妙な優越感が全然ない。


 今まで散々宇宙軍の陸戦隊の指揮官にあってきたが、そのほとんどがろくな者はいなかった。

 特に、いままで100%の確率で中隊長と呼ばれる連中には外れしか俺は知らないので、紹介された時には俺は身構えていたのだ。


 しかし、どういうことだ。

 こっちが拍子抜けするほど礼儀正しい。

 俺は率直に「今回の作戦に参加してくれてありがとう」と伝え、中隊長は「任せてください、司令」と柔らかく返した。

 彼は俺よりも年上だが、俺のような若造にも礼を重んじる男だった。

 そういうのは意外と信頼感に繋がる。


「じゃ、コクーンで作戦のすり合わせをしましょう」と言ってもらい、二時間後。コクーンの会議室には今回の指揮官が一堂に会していた。


 まずは、集まった者たちの顔合わせからだ。

 俺は、このコクーンに詰めていたので、かなりの帝国の人たちとは知見を持てたが、正式な紹介などはされてはいない。

 親しき中にも礼儀ありというか、一緒に大作戦を成功させねばならないのだから、できるだけ『知らない』というのは避けたかった。


 親しい人なら、絶対に助け合う気持ちは生まれるが、親しくなくとも知人であれば自ら協力していこうという気持ちも生まれよう。

 とにかく、作戦のキーマンたちに集まってもらったのだ。


 まずは俺から、うちのメンバーを紹介していく。

 三隻の航宙駆逐艦の艦長と副長、それに保安室長に機動隊長、それに捜査室長を紹介後に、カリン艦長から応援できた陸戦隊機動隊長、最後に紹介したくはなかったがうちのマッド……いや、研究所長のサーダーさんを紹介した後に、帝国側の紹介を頼んだ。

 帝国側からは王子殿下が、二つの戦隊指揮官である司令と、各戦隊の艦長を紹介してもらい、紹介を終えた。


 次に、実際の作戦行動の確認だ。

 帝国の持つ兵力を使って首都星を孤立させ、ほかからの応援を避ける。

 コクーンとコクーンが持つ二個戦隊で首都星を囲み、完全に首都星を孤立させる。


 次に俺たちだが、『ダミン』が上空から王宮に近い宇宙港をけん制、『シュンミン』と『バクミン』で王宮を急襲、という分かりやすさ。

 トムソン捜査室長も「被疑者確保と証拠押収が我々の仕事」と言い切り、俺は心の中で(頼む、派手に暴れるなよ)と祈る。

 

 王子殿下が念のために、もう一度作戦要諦を確認する。

 主眼は「いかに気づかれずに首都へ近づくか」。

 初動は二つの戦隊が完全に首都星を囲み、応援の到着を防ぐこと。

 王宮付近の宇宙港は『ダミン』が空からけん制し、王宮本体は『シュンミン』『バクミン』で急襲。


 時間は王宮の明け方6時、犯人確保は周りを囲ってから明け方にやるのが定番――とトムソンが笑顔で言う。警察のプロは時間にウルサイ。


 会議を終えてからも、俺たちは結構忙しくしていた。

 国境から2日は、とにかくコクーンの付近の偵察に時間を取られて結構忙しかった。

 とにかく見つからないのが、今現在の最大の目標だ。


 が、途中で海賊さんたちを二回見つけた。

 普通ならば、乗り込んで海賊船を抑えるが、今回ばかりはそのままスルーして首都星に向かう。


 その間にもコクーンの持つハイテク機器が敵であるフェノール王国の通信を傍受して、最後まで情報を探る。

 通信傍受からはフェノール王国がアミン公国にいるグラファイト帝国のコクーンに気を取られている様子が窺えた。


 助かる、フェノール王国の目は完全にアミン公国にくぎ付けで、首都星から見たら同盟国であるセロイド合衆国方面から近づく俺たちには気が付いていない。


 あと気になる点としては、フェノールとコランダム間の通信が増えているが、暗号が堅くて中身は聞けない。暗号、腹立つほど堅い。


「司令、これで我々の想定していく危機的状況は確定しましたね」帝国の王子殿下が静かに言う。


 俺は真剣に「ですので、その危機を脱するためにも、被害を最小にして成功させないといけませんね」と返す。


 王子殿下が「必要ならここから兵を」と促すが、俺は王子殿下からの提案を丁寧に断り「他の星からの応援が来ない限り、直接王宮に軍艦で乗り込みますので、問題はありません」と宣言した。


 堂々と言ったが、内心は「本当に行けるのか」と正直心配ではある。

 これ以上にないくらいに考えても成功しか見えてこないが、それでも小心な俺のハートはびくついていた。


 それと同時に、俺の殉職の目はあるかな……とも考えている。

 ……あ、でも殉職したら外交が絡むから、今回ばかりはおとなしくしているしかないかな。


 王子殿下との話で、王宮内での戦闘についても話に出たが、俺たちには問題児が付いている……違った、マリアとサーダーさんたちが作る珍兵器がある。

 機動隊長のキールさんの精神を一時的にも壊したあの珍兵器『ラフレシア』とかいうやつだ。


 あれならば、とりあえず一時的にも少数の兵で多数を鎮圧できそうだ。

 それに気になることにサーダーさんが今回持ち込んだ秘密兵器もあるが……果たして大丈夫なのかな。

 そろそろそのあたりをきちんと聞いておかないと作戦では使えない。


 サーダーさんのことはひとまず置いておいて、非殺傷兵器の『ラフレシア』とかいうやつについて話のついでに説明しておく。

 機動隊で使うスタングレネード類を配備することで、なるべく人命を守る。サーダーがその場で「非殺傷か……確かに人は死ななかったが……」と言いながら遠い目をしていたのが気にはなる。


 今回も出番はあるはずなのだが、適正に使ってくれるかどうか……

 その後、俺は氷の基地での一件を思い返していた。


 マキ姉ちゃんのオフィスでの怒号、サーダーと秘密兵器の搬入、カスミの「ブソウ改良型」解説、そして「菱山一家」との繋がり。


 伝言には「計画通りに進めて良し」とあり、帝国側から令状も降りているという。

 つまり合法的に大暴れできる。

 これは重要だ。合法なら胸を張って暴れられる。

 今のところ俺には暴れるつもりはないが。


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― 新着の感想 ―
アミン公国での陽動がうまくいって、フェノール王国はセロイド合衆国側からの侵入に気づいてないようですね! 途中で何度か接敵した海賊たちも、フェノール王国上層部へ報告なんかしないでしょう♪ このまま何事も…
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