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陛下の苦悩




「ええ、ですから……陛下……」


「ああ、みなまで言うな。

 基本グラファイト帝国との外交を待つことになるが、今回の作戦が成功しても、あくまで海賊行為に関する犯罪者の逮捕であって、戦争の勝ち負けではないというのだな」


「ですが陛下……」


「わかっておる」


「しかし、陛下。たとえ作戦が成功しても賠償が取れませんが……」


「国民が、いや、貴族たちが納得せんだろうな……頭が痛いな、この問題は」


「ええ、ですが、まずは作戦の成功を祈りましょう。

 まずは、この作戦が成功しないと……先に殿下が申したことを考えますと……」


「我が国は遅かれ早かれ……ですかね」


「グラファイト帝国のような大国の戦乱に巻き込まれれば無事では済まないだろうな。

 王家など簡単に滅ぶわ」


「しかし、ここ最近の海賊討伐から始まった件ですが、この国の根幹がかなり危ない状況ですかね。

 すぐにそちらへの対処も始めませんと」


「ああ、罪ある貴族の取りつぶしだけでは追い付かない……か」


「ですが、それ以外の手となると……」


「まずは軍内部の改革からだな。

 先の報告ではないが、あまりに人材がとんでもないことになっていないか」


「ええ、そのあたりについて人事部長もかなり前から懸念してはおりましたので……」


「だからなのか、司令の昇進を無理やりにでも軍でも進めているのは」


「ええ、司令が貴族なら、かなり無茶もできましたが……それも……」


「貴族政治が悪いとは思わんが、弊害も出ているというのだな。

わかってはいたが……」


 陛下と殿下の話し合いはこの国の現状を突き付けただけで何ら解決の目処も見えずに終わった。

 まあ、簡単に解決の目処などあれば、とっくに殿下が陛下を突き動かしてでもどうにかしていただろうが、海賊に絡む悪徳貴族をつぶすしか、この国では手はなさそうだ。


 しかし、俺たちにそんな悠長な時間が許されるのかは……神のみぞ知る……ということかな。

 俺たちは王宮から急ぎ戻り、ニホニウムの基地に急ぐ。

 作戦の準備は、『シュンミン』を除く二艦で着々と進んでおり、マリアは俺たちと一緒にいたから無茶苦茶はしてなかったが、どうにもあの所長が怪しい物まで『バクミン』に積み込んでいたらしい。


今からそれを調べて降ろすには時間がなかったので、俺たちはそのまま戦隊そろって、コクーンとのランデブーポイントに急いだ。

 約束のランデブーポイントは、グラファイト帝国とダイヤモンド王国との境にある暗黒宙域に近い場所だ。


 ギリギリ王国がいうところの接続宙域にも入っていないので、無線は通じるが……

 どちらにしても不便な場所で、まずここに用などあるものなど、まともな連中には心当たりがない。

 だからこそ、菱山一家が盗んだコクーンもここを通過して、暗黒宙域まで運ばれたと俺達は考えている場所だ。


 コクーンの司令である帝国の皇子との約束したポイント手前で、俺達は久しぶりに三隻が揃い、戦隊として単縦陣でコクーンに向かった。

 通信が通じるエリアだったこともあり、何ら問題なく合流できたのは幸先が良い。


 コクーンでもすべて順調に予定通り、準備も済ませて俺達を受け入れる用意がされていた。

 あのコクーンの中に入るための大きなハッチは、俺達を待たせることなく大きく開かれており、俺達はそのまま三隻揃って内部に入っていく。


 内部の格納庫には、帝国自慢の戦隊がすでに二つも艦船がかなり詰めて停泊されており、本来ならば俺達の戦隊が入る隙間などないはずなのだが、このコクーンは、盗まれた後の改装で格納庫もいじられており、俺たちくらいならば戦隊ごと入れられる隙間はあった。


 まあ、俺達の使っている軍艦は多分どの国でも最小に近い航宙駆逐艦だったこともあり、三隻揃っていても航宙戦艦一隻にも及ばないくらいスペースを取らないのだろう。


 それにしても、返還前から考えると相当広くなっているようだ。

 俺達が菱山一家からこれを取り返したときに調べたときには戦隊規模で二つがやっとだったはずなのだが、二個戦隊を運用するには不便だと追うことが判明したのか帝国に返したあと少し改装があったと聞いていた。


 まあ、このコクーンは就航前に盗まれていたこともあり、カスミが勝手に司令室のシステムの一つのパスワードを設定したことがあると報告には聞いていた。

 流石に他国の軍人が勝手に設定したパスワードがある状態のままにはしないだろうが、システムも相当入れ替えたらしい。


 何にしても余裕があるのは良いことで、俺達はそのまま三隻揃って指定されたエリアに停泊後にチューブが繋がれて、そのまま歩いてコクーンに乗艦できた。

 正面のホールで、帝国からしっかりと歓迎されて、俺は艦長の三人と秘書官のイレーヌさんを連れて帝国の士官にしたがって、王子の元を訪ねた。


 大会議室に通されて、最後の打ち合わせに入る。

 大会議室では、すでにここの司令を務める帝国の王族である、あの王子様が待っていた。


「お待ちしておりました、王女殿下」


「ええ、少し余分な手間もあり、お待たせしたようで、申し訳ありません」


「いえ、殿下。

 それには及びません。

 作戦の開始にはもう少しお時間をいただくことになりそうなのですが、まずはそのあたりについてご相談しましょう」


 王子殿下は、そう言って帝国の内情を含めて今回の作戦の全容を説明してきた。

 とにかく、最大限できることは何でもするという方針に基づき、帝国はアミン公国に向け、すでに外交使節団をコクーンに護衛艦隊を二つ付けて送り出しているそうだ。


 その外交使節団が、アミン公国に入るタイミングを持って、俺達はフェノール王国に越境していく計画に成っている。

 それまで、国境近くにこのコクーンを作戦開始のポイントまで進める必要があり、すぐにでも発進させたいらしいので、俺達にダイヤモンド王国内での航路を聞いてきた。



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