陛下に報告
「「……」」
宰相も、宇宙軍長官もあの場に陛下のそばにいたので、はっきりと聞いているはずだ。
流石に俺もどうかとは思うが、法的根拠となると、陛下の命に従っただけと言い張るしかない。
何より、俺達には時間がない。
これもそれも、全ては皇太子のサボタージュのせいなのだが、そこをこの人たちはどこまで理解しているのか。
まあ、俺達だけだったら、この場で新たに中止の命が入ったかもしれない。
いや、確実に中止させられていただろう。
尤も、そうなることはわかっているので、当然事後報告だけに済ませるつもりだったが、流石に外交が絡むとなると、事前に報告の義務は生じる。
だから、急ぎ戻り報告に来たのだ。
すでに他国が動き出しているので、こちらから中止など言えるはずはない。
こちらに対して協力要請があったのならば、未だ外交手段でどうにかなりそうだが、今回はこちらから海賊の黒幕の逮捕に協力を頼んだ側なのだ。
今更止めますとは……流石に言えないよな。
あちらのほうが、遥かに大国だし、力関係でもダイヤモンド王国のほうが弱いので、『今のなし』とは……無理だな。
俺は事前に説明するとは考えていなかったので、このあたり何も考えてこなかったが、王女殿下は最初から全て理解していたようだ。
事後報告で済ませて、後は外交なりなんなりすればと考えていたが、そうなると俺達の方に瑕疵ができ、処分対象に……なるだろうな。
成功しても失敗してもだ。
尤も、失敗すれば少なくとも俺はこの世にはいないので、関係ないから始めから問題にしてなかったが、王女殿下は自分の組織が処分対象になることを嫌ったようで、権限の及ばない外交面に関しての地ならしに報告しに来ている。
だから、計画について、許可を取ろうとはしてなかった……始めからだ。
この人本当に、すごい。
なんで、皇太子とここまでの差があるのだよと、俺は言いたいが、父親の陛下からしたら、なんでそこまで無謀なのだと言いたそうだな。
「余の言葉から出た作戦であることは理解した。
グラファイト帝国が動いている以上、こちらには中止させる権限はない。
成功を祈るだけだ……が、長官たるマリーは、この後首都に残り各部署との調整にすぐに始めよ。
これは勅命である」
まあ、これも納得だよな。
王女殿下の性格ならばフェノール王宮に喜び勇んでいの一番に乗り込んでいきそうだし、流石に陛下はそれを止めた。
その勅命を悔しそうに殿下は聞いている。
いや、抜け道を必死で考えているな、あの顔は。
その辺り、ここに集うだけある能力を持つ宰相が今度は俺に釘を刺す。
「司令、海賊の取締に長官を同行させる必要などないな」
俺としても、失敗して死ぬのは俺だけにはならないだろうが、少なくともできるだけ多くを逃がすが、その場に殿下が居るとそれも難しくなるので、ここは宰相に乗っていく。
「はい、当然です。
通常業務になりますので、長官は指揮権などの混乱の危険性もあるから、控えていただきます」
すると殿下が俺の方を睨んできた。
『この、裏切り者~!』って言いたげな形相をして。
だが、俺の返答を聞いたみなは一様にホッとしたような顔をしている。
「しかし、何だな。
いつも君のところには驚かされるが、敵の首都中枢を奇襲するというのに、『通常業務』と言い切るのには驚いた。
尤も、先の言い分だと、それ以外には言えなくなるがな」
宇宙軍長官が、皮肉を言ってきたが、確かに俺にはそれ以外の理屈は吐けない。
通常業務の一環だとして奇襲作戦を行うのだ。
それも、関係する他国を巻き込んで。
これも捜査協力という体を取っているから許される??のだが、外交交渉ともなると、明らかに越権行為に当たる。
しかし、だからといって、お隣の帝国の陛下まで引っ張り出してしまった以上報告しないわけにも行かずにこんな面倒になったのだが……コクーンの司令に協力要請を行った段階で無理か。
なにせ、司令は王族でもあるし、やはり外交案件になるから、これ以外に俺達に選択肢はなかったわけか。
その後しつこく作戦の詳細を聞かれるので、俺ができる限りわかりやすく説明していく。
王女殿下は、自分の思惑と少し違う方向に話が言ったので、このあたりで、最後の報告に入る。
「陛下、もう一つご報告があります」
殿下がそう言って、アミン公国を訪ねた件を話していく。
「帝国の皇帝陛下より、親書を預かりましたので、届けに途中で寄りましたが……」
「親書!」
「皇帝陛下だと」
この部屋にいた人たちは殿下の報告にあった帝国についてのほうに驚いていた。
まあ、普通に考えればそうなるわな。
先に帝国の関与について簡単に触れてはいたが、帝国の皇帝と直接謁見して、話をまとめていたほうが問題だったらしい。
そんなことお構いなしにアミン公国が置かれている危険な状況について説明していくと、最初に陛下の顔色が変わる。
「マリー、今の話だと……」
「ええ、アミン公国は、お隣のコランダム王国から狙われておりますね」
「宰相、そのような報告は……」
「いえ、ですが王女殿下の申します通り、此度のフェノール王国の侵攻はいささか不自然な点が多くみられます」
「そうなると、此度のフェノール王国の侵攻の後ろにコランダム王国があると……」
「ええ、グラファイト帝国はそのようにみており、かなり警戒されておりました」
「確かに、我々がフェノール王国の侵攻に気を取られている間は、アミン公国は無防備とまではいわないが、かなり危ない状況になることは事実だな」




