アミン公王との会談
「はい、帝国はアミン公国においてフェノール王国との会談を希望してきます。
それは、先にフェノール王国が、帝国の重要で機密性の高い財産である軍艦を略奪した件の詰問のためですが、当然、フェノール王国は応じないでしょう。
もし、応じるにしてもコランダム王国を巻き込んでになるでしょうから、早々に実現はしません」
「では、何のために……」
「こう言っては失礼に当たるかもしれませんが、正直にお話しますので、他言無用でお願いします。
あくまでこの場限りにしてください」
「宰相にも伝えられないというのだな」
「はい、しかも全容は事が終わるまでお話ができませんから、疑問は残しますが、お聞きください」
俺はそう言ってから、帝国の意図を簡単に説明していく。
あくまで帝国はある作戦のための囮としてだけの説明になるが。
「囮だと、それはどんな囮なのかはこの場では知らせることはできないと」
「はい、私共も、完全には聞かされておりませんが、私共もその作戦に巻き込まれておりますので、これ以上は……」
何が巻き込まれてだ。
巻き込んだのはどっちだと俺は言いたいが、流石にここで計画を話すことはできない。
コランダム経由で、計画が漏れると奇襲の効果は減るのでそれだけ危険性は増すからね。
「陛下、それとお姉様。
正直なところ、国内はどんな感じですか」
「どんな感じだと……」
「コランダム王国の魔の手はどこまで来ているか、想定されておりますか」
「いや、我が国は諜報も防諜もダイヤモンド王国頼りだ。
正直どこまで接触があるかは知らない。
だが、確実に接触は来ているだろう。
最近コランダム王国の都との貿易も増えてきていることだしな」
「帝国との貿易については?」
「変わらないので、宰相には注意していくようには命じてはあるが……」
その宰相もどこに忠誠があるのかはっきりと掴めていないようだな。
最後に王女殿下は、「うちはいつでも亡命の手助けはいたします」と言って、この場を終えた。
王女殿下は、姉ともっと話したかっただろうが……いや、話したそうにしていたのは姉君である公爵夫人の方であったようだが、不安がないはずはないので、十分に理解できる。
本当ならば、あの席で里帰りを提案できればよかったが、ダイヤモンド王国はすでに戦闘状態に入っているので、時期的に適当ではない。
それに何より、俺達には時間がないのだ。
俺達はすぐに『シュンミン』に戻り、自国に向け出発していく。
アミン公国の管制圏内を出ると、全速力で戻っていく。
流石にこの速度で飛ばすので、一般的な航路から外れての移動になり、若干遠回りにはなるが、何より時間が節約できるので、これしか選択肢はなかった。
正直燃費など考えると褒められることではないが、そんな些細なことなど考える余裕すら俺達には残されていない。
ダイヤモンド王国の首都星管制圏内に入りやっと速度を落としたくらいだ。
それでも、制限速度などないので、巡航速度で向かっていく。
もう俺達には慣れたもので、艦長のメーリカ姉さんも最低限の指示しか出さずに、どんどん管制と連絡を取り合い、いつもの5番スポットに最優先で侵入していく。
この様子は宇宙軍からしたら面白くはないだろうが、王女殿下の船ということで王族船扱いされているので、今回ばかりは有難く思っている。
そのままファーレン宇宙港に到着後、すぐに俺は王女殿下と一緒に王宮に向かった。
王宮でも、正面玄関からではなく、王女殿下のプライベート玄関としている裏口からの訪問となるが、これも何度も経験している。
正直有難いことではないが、何故か王女殿下の仕事ではこういうイレギュラーのことばかり起こる。
そのまま、俺達は陛下の執務室にアポなどなかったはずだが、突撃していく。
だが、陛下の執務室にはこれもお馴染みと成ったいつものメンバー、宰相と宇宙軍長官の二人も同席している。
俺が不思議そうな顔をしていると、宰相から声をかけられる。
「情報部から、聞いております。
今回の外交の成果、公に賞することはできませんが、我々一同王女殿下と司令には感謝いたします」
いきなり、宰相から頭を下げられたので、俺はパニック寸前になるが、隣の殿下に肘を突かれて正気を戻す。
いつもいつも、本当に、どうにかしてほしいよ全く。
正気を戻すと、とたんに頭の中には不満がいっぱい湧き上がる。
しかし、これもいつものごとくここに集うメンバーには俺の気持ちなど一切忖度されることはない。
考えれば当たり前だが、一平民のことなど貴族どころかこの場には王族や、国を動かしている者しかいないため考慮されない。
「司令、報告を」
殿下が俺に言ってくる。
王女殿下が言えばいいのにとは思うが、上司の命令には逆らえないので、手短に今回の帝国訪問に関する報告後に、作戦についての事前報告もしておく。
すると、宰相と宇宙軍長官が驚いたように、王女殿下に食って掛かった。
「そんな無謀な計画など、国としては許可した覚えはないぞ」
「王女殿下、いくら王族とはいえ、あなたには他国に対してそのような申し出を受け入れる権限はないはずでは」
すると、王女殿下がまた俺に命じてきた。
この場をどうにかしろと。
なので、俺は今回の計画の根拠を示して、俺達が法に反してないことを証明していく。
「宰相閣下、それに宇宙軍長官。
我々の仕事のことですが、宇宙空間での海賊行為の取締であります」
「そんな事はわかっておるが」
「それが敵国の中枢に奇襲をかける根拠とどういう関係があるのだ」
「マリーよ。余もマリーのしでかすことにはかなり大目に見てきたつもりではあるが、今回の件には……」
「いえ、お父様。
私達は、お父様の命に従い、海賊行為の取締をしているだけです」
「「は??」」
また、殿下が俺の説明せよと命じてきたので、まず法的根拠から説明していく。
「まず、フェノール王国との国境についてですが……」
「は?
国境がどうした」
「ですが、我々ダイヤモンド王国とフェノール王国との間には国境は存在しておらず、そのために、我々に課せられました海賊取締については、現状我々がフェノール王国内と認識しているエリアにまで入ります」
「そんな……」
「そんな屁理屈が通るか!」
「いえ、私が第三の軍を預かる勅命をいただいたときに直接陛下より口頭で命じられました『フェノールの王宮までも』と」




