アミン公国訪問
政庁舎までリムジンで連れてこられた俺達は、政庁舎正門で盛大?な出迎えを受けた。
急な訪問なのだから、国を上げての出迎えなどできようがないが、政庁で仕事をしていた主だった者たちを集めたようで、正面玄関前はちょっとしたお祭り騒ぎのように成っている。
そんな中人をかき分けるように現れたのが、この国の宰相で、王女殿下も顔見知りのようだ。
「宰相閣下、自らのお出迎えに感謝いたします……が、あくまでプライベートな訪問でしたのに、騒ぎを大きくして申し訳ありませんね」
「王女殿下におかれましては、ますますのご活躍のこと、お噂に聞いております。
しかし、確かに急な訪問で、正直私としては……」
宰相の言葉は、あの言葉の後に『勘弁してくれ』なんて言いたそうだな。
辛うじて飲み込んだようだが。
問題は、彼がどちらの側かということだ。
未だ、はっきりとしないうちには、殿下にはプライベートの姿勢を貫いてもらい、宰相など貴族のいない場で、帝国からの親書を公王陛下にお渡ししたいが、そんなチャンスは有るのだろうか。
「して、今回のご訪問の目的をできればお教え願いませんか」
「ええ、近くを通りましたので、私のお船をお姉様に、自慢したくて。
このお船のお陰で、私にもお仕事を父、陛下よりいただきましたので」
「そ、そんな理由で……」
宰相はかなり驚いている。
まあ、このあたりの上流階級に属する者たちには、瞬き一つ、咳払い一つでも政治が絡むとまで言われるくらいなのだから、プライベートなど考えられずに、今回の訪問について勘ぐっている……ようだが、それだけではわからないな。
国の政治を司る宰相ならば、同盟国の要人が訪ねてくれば理由を知る必要があるから、勘ぐらなくとも当然の疑問か。
しかし、どこかでわかりやすいサインでも落としてくれればこのあとの行動も簡単に予測がつくが、まあ、相手も相手だ。
そう簡単にいかないか。
俺は、想定通りの警戒だけはしておく。
最悪、『シュンミン』だけで、ここ政庁舎を占拠しないとまずいが、できればしたくはない。
なにせ、本番の予行練習といえば言えなくもないが、奇襲という面では、一度すれば相手に警戒されることにもつながるしな。
俺達は宰相に連れられて政庁舎の奥に通されて、公王に面会する機会を得た。
簡単に面会させてくれるとは、確かにすごいことだが、公的な面会となる以上この場での親書を手渡すわけには行かないか。
「公王陛下。
急な訪問を快くお受けいただき感謝いたします」
「ああ、しかし、あまりに急なことだったので、きちんとしたおもてなしをできずに申し訳ない」
「いえいえ、、先程も宰相閣下にもお話しましたが、私がお姉様にお会いしたくて急に来たので、できましたらプライベートなお話がしたく、ご都合できませんか。
陛下はお忙しければ、姉だけでも良いので」
「できなくもないが……、宰相、私のこのあとの予定はどうなっておる」
「全てキャンセルしてありますので……」
「では、奥にまいろうか」
「あ、陛下、今回はお恥ずかしい話ですが、姉に自慢したく訪問した関係で、その責任者の同行もお許し願いたく」
「責任者とな、そこの司令殿のことか」
「はい、できればでよろしいのですが……」
「私は、義妹とはあまり話したことがなかったので、あなたの性格についてよく知らないが、姉との面会の際の其の者の同行を許そう。
ただし、その際私も同行することを許されたし」
「ええ、是非に。
私の自慢話をお聞きください。
父、陛下に自慢もできますので」
「自慢ばかりだな。
まあ、良いか。
ではまいろうか。
宰相、何かあれば構わずに訪ねて参れ」
「はい、陛下」
どうも第一関門は無事に通過できたようだが、この先どうなるかだな。
まあ、陛下もご一緒となると、その場で話が済むので、すぐにでも結果がわかるのが助かるな。
ほとんど無理やりだと思わなくもないが、王女殿下の姉君との面会の場に俺まで参加する羽目になった。
まあ、もともとの訪問の目的が、先から王女殿下が話しているようなおめでたい内容などではなく、それこそ、このあたりの宇宙全体にまで影響の出かねない話につながることなので、俺も納得はしているが、そう、納得はしている。
だが人の感情というのは理性とは違う場所にあるらしい。
気持ちがどうしても先から『行くな!』言い張るのだ。
まあ、俺の気持ちなど、俺自身よりも遥かに価値などないから全く考慮の対象にはなり得ないので、どんどん奥にと連れて行かれる。
俺が王女殿下をエスコートでもしている形になっているのは、周りからの目もあるのだろうが、絶対に殿下の『逃さない』という気持ちの現われなのだろう。
公王陛下の執務室に4人と、陛下の秘書たち数人とで入り、秘書が部屋の鍵を閉める。
あれ? どういうことなのかな……
いきなり鍵を閉められるとは、この場にいる全員が先の殿下の話を真に受けていないという証だ。
「王女殿下、本日の訪問の件、実に無理なくしていただき感謝いたします」
「陛下……」
「ええ、存じております。
すでに非公式とはいえ、帝国からの要請も受けており、その検討に入らせておりますが……」
「国内の貴族たちからの反対ですか」
「ええ、全部がコランダム王国に落ちた者ばかりではないでしょうが、戦乱に巻き込まれたくないと考える者は多数おりますので」
陛下は、少なくとも王女殿下の訪問の趣旨を正確に捉えていた。
それだけアミン公国を取り巻く環境が厳しくなってきているのだろう。
「では、まずは、私が託された親書をお受け取りください。
皇帝陛下からの親書です」
「え?
陛下……から……ですか?
あなたは一体、何をしてこられたのでしょうか……」
王女殿下は直接親書を取り出して姉の公妃に手渡した。
それを受け取った姉君は、親書の封をご自身で開き、一瞥してから公王に手渡した。
すぐに、それを受けとった公王は内容を確認していく。
「すると、帝国側から外交団がこちらにやってくるというのですね」
「ええ、ですがやってくるのは外交団でしかありませんので、すぐに戦乱になるわけではありません」
そう言ってから、王女殿下はこれまでの経緯を簡単に説明していく。
コランダム王国の魔の手についても包み隠さず、想定しうる範囲を説明すると、陛下よりも姉の公妃の方が震えだした。
「そ、そんなに諸外国の情勢は酷いのですか」
「司令、あなたの考えを皆様方に」
王女殿下は、ここまでこの場を凍えさせて俺に話をふるかな。
俺が何を言っても怖がらせるだけにしかならないが。
「遠慮なく、考えを聞かせて欲しい」
公王自らも俺の拙い、それでいて悲観的な考えを聞きたいらしい。
希望とするのは、ここが囮でしかないことか。
「はい、陛下。
では、私の想定をお聞きください」
俺は王に言ってから、帝国の外交団があのコクーンで大々的に見せびらかせながら外交視閲としてやってくることを話して、その目的も合わせて話す。




