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身に迫る危険

 

 艦橋でマリアが騒ぎ出したが、そんなのは無視だ。

 どうせ艦長のメーリカ姉さんが絞めて終わるだろうから、俺はその後のことに準備を始める。

 ……と言っても、お偉いさんと会わないといけなくなるのだろうから、制服を洗濯したてのものに着替えるだけなのだが、一応今回は非公式訪問というので、着る制服にやたらと勲章などを付ける必要はないはずなので、これと言って、それ以上の準備はしない。


 が、それでもアミン公国についての下調べ位はしておくか。

 会話の途中で、全く知らないことばかりだと、相手に対して失礼に当たるだろうから、それくらいの礼儀はわきまえている。

 俺は、自分の部屋に戻り端末を開いて簡単な歴史から政治の仕組み、それと最近のニュースなどをざっと読み飛ばしていた。


 すると俺の部屋に人が訪ねてきた。


「司令、殿下がお話がしたいとのことなのですが、ご一緒いただけますか」


 殿下付きのマーガレットさんが俺の部屋まで来て、殿下の言付けを伝えてきた。


「ええ、すぐに」


 俺はさっさと殿下の部屋にマーガレットさんと一緒に向かう。

 そういえば先程まで殿下も艦橋にいたのだが、俺のあとすぐに部屋に戻っていたようだ。


 俺はマーガレットさんについて殿下の部屋に入ると、そこには保安室長のバージニアさんもおり、何やら殿下と話している。


「王女殿下、お呼びと聞きましたが」


「ええ、司令。

 すぐに到着するのでしょうが、その前に少し話し合いがしたいと思いまして」


 王女殿下はそう言って、バージニアさんと話していたことを俺に伝えてきた。

 話し合っていた内容はというと、やはりアミン公国の政情についてだ。

 いや、政情などという生易しいものではなく、いつ何時コランダム王国の意を汲んだ連中からテロに襲われるかという物騒な話だ。


「ええ、私は問題ないとバージニアにも言ったのですが、なかなか納得してもらえなくて司令をお呼びしましたの。

 バージニアを説得していただけるでしょうか」


 殿下は、先のジルコニアとの話し合いの内容を保安室長であるバージニアさんにも伝えていたようで、それを聞いたバージニアさんがアミン公国への上陸を思いとどまらせようと殿下の部屋に突撃してきたとのことだった。

 説得しようとも、埒が明かずに俺にヘルプを頼んできたというのが今の現状だ。


 俺は、バージニアさんの心配について理解は示すが、それは、今すぐのことではないと俺やメーリカ姉さんの考えを話して、『警戒だけはしておくが、まずありえない』ということを話してみた。


 その後に、俺の話を受け、王女殿下も今回の訪問の意義を伝えて、バージニアさんを説得にかかる


 俺達の説得を理解したのか、未だ、納得はされてなさそうだが、渋々ながら殿下の上陸について理解を示した。

 ただし、条件をつけられる。


「でしたら、アミン公国にいる間は、私は絶対に殿下のそばを離れません。

 それで良ければ、私から何も言いません」


「ありがとう、それに司令、今回は助かりました。

 ですが、訪問が遅ければそのような事実が本当に起こる可能性も否定はできませんでしたね」


「いえ、そうなる前に、ダイヤモンド王国の諜報部が何かしらの情報を掴んで、陛下より対処を命じられておりますでしょうし、もっと切実な安全の脅威にさらされるジルコニア帝国が何もしないはずはありませんから、多分ですが、私の予想では、そうはならずにアミン公国内で諜報同士の死闘が始まるのではないでしょうか」


「諜報同士ならば、普通は伝わりませんわね」


「いえ、事件に見せるなどはされるでしょうが、極端に治安が悪くなりますので、そうなる以前に私達に情報が漏れる可能性が大いにあります。

 まあ、そうなれば王女殿下を派遣なされようとできるはずもありませんから、バージニアさんの心配されるような場面には出くわさないのではと考えております」


「なら、司令は、未だそこまで状況は悪化していないとお考えですの」


 バージニアさんが俺の説明を聞いて質問してきた。


「治安という面ではそのとおりでしょうが、状況の悪化というとどうなのでしょうね」


 俺が含みをもたせた回答をすると、今度は殿下も聞いてきた。


「司令は何を恐れておりますの」


「ダイヤモンド王国もある意味危機的だとは思いますが、政府の上層部、貴族たちが一枚岩ではないということです。

 現状でもコランダム王国から何かしらのアプローチがあるでしょうから、すでに貴族に一部、これがどれほどかはわかりませんが、コランダム側に落ちていても不思議はありません。

 そういう意味では、かなり危ないと思います。

 治安ということではなく政治的にですが」


 そんな事を話していると、ゆっくりと進んでいたとはいえ、アミン公国の宇宙港に到着して、艦長より連絡が入った。


「王女殿下。

 空港のゲートに公国からの出迎えが来ているそうです。

 ハッチを開けてもよろしいでしょうか」


「司令、それにバージニア。

 行きますわよ。

 これから先は、先に司令が懸念していた政治の世界ですから、それこそ十分に注意してくださいね」


 俺に政治的に注意しろと言われても、どうしろというのだと思わなくもないが、ここは素直に頭を下げて王女殿下に続いて部屋を出る。


 ハッチの向こうには偉そうな人達が待っていて、王女殿下を出迎えてくれた。


 俺達は入国の手続きなど一切の面倒なく、出迎えに来ていたリムジンに乗り込んでいく。

 護衛には、バージニアさんの部下数名だけがつき、残りは『シュンミン』で待機だ。


 一応俺の予測では、王女殿下が王室の、実の姉君と会われればすぐに帰国となるはずなので、『シュンミン』はいつでも離陸できる体制で待ってもらう。


 最悪、宇宙港から無理やり出発させて、王宮に内火艇で乗り込み俺達を救出する計画まで持っている。

 今の『シュンミン』ならばアミン公国の王宮くらいは、主砲を数発ぶっ放して、経験豊富な連中に乗り込ませれば、奇襲ならばどうにかなるだろう。

 これは俺だけの考えでなく、メーリカ姉さんも同様の考えだ。

 そのうえで、保安室の連中にも声をかけているようで、バージニアさんも、その話があるから、少数の護衛だけで納得していたのだ。


 しかし、同盟国の、しかも王女殿下の実姉を訪問するだけで、なんでこんなにも物騒なことを想定しなければならないのだ。

 本当に、この世の中はどうしてこんな物騒になったものか。


 今までは辺境の庶民くらいしか、海賊などの襲撃の危険を感じる程度だけで、貴族連中のような上流の者たちには危険など政治的を除けば全く別世界の話とばかりに考えていたのだが、神様はいるのだろう。

 身に迫る危険を上流にも下流にも等しく与えるなんて……神様がいるのなら、危険を与える方向ではなく、無くす方向で安全に生活できる環境を与えてくれなかったのか、などと本当につまらないことを考えたものだと、自分を心のなかで笑いながらアミン公国の政庁舎にリムジンで向かっている。


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― 新着の感想 ―
閣下を身を挺して守って死ぬシチュエーションは出来つつあるなw
直接戦火を交える前には、必ず、諜報工作員の暗躍という『冷たい戦争』が起きますよね! 第二次大戦前の日米などは、米国CIAが公表しているベノナや、ソ連崩壊時に元KGB幹部が持ち込み、英米両国で解読をして…
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