アミン公国訪問
アミン公国の辺境宙域まで『シュンミン』は来ていた。
「司令、そろそろ……」
艦長は俺を促す。
俺は艦長と揃って艦橋に向かい、カスミに指示を出す。
「艦長、無線で殿下の訪問の件を伝えて、向こうに指示を仰いでくれ。
あ、その際、突然の訪問になった事を詫びておいてくれ」
「え?
詫びなんか入れても大丈夫なのですか……」
「外交上の慣習など俺は知らん。
それに、一介の警察幹部の詫びなんか国同士の詫びにもならんよ。
精々交通違反した者が取締りの警官に詫びを入れるくらいにしか思われないだろう」
「ですが、殿下のお名前を……」
「それこそだよ、俺が不敬にも勝手に使った程度のものだ。
実際に小心なものだから、何でも言い訳に使うさ」
「はい、わかりました。
カスミ……今の話を聞いていたよな」
「はい、出来るだけ言質を取られないよう、こちらからは丁寧に接します」
俺の意図が通じたようで、カスミも上手に無線を使って、アミン公国の担当者に連絡を入れている。
はじめは通常の処理をしていた向こうの担当者も、ダイヤモンド王国の王室が座乗している艦だと知ると、少し慌てたようで、少し待ってほしいと、急に丁寧に接してきた。
俺達がそんなやり取りを始めていると王女殿下が、艦橋に現れる。
入口に待機している保安員が声を上げる
「王女殿下、入室」
俺達は入口に身体を向けて一斉に敬礼姿勢を取る。
「司令、そろそろですか」
「はい、王女殿下。
現在、アミン公国担当者に向け連絡を入れて指示を待っております」
「手こずりそうですか。
何分、急な訪問でしたから」
「どうでしょうか。
同盟国の艦でもありますし、そもそも貿易等の宇宙船とかも頻繁にあるとも聞いておりますから、入国に際してはそれほど気にはしておりません」
「入国に際して??」
「ええ、外交についてはあいにく私は不勉強で詳しくは知りませんが、国賓に準ずる者の訪問に際して、受け入れ側には色々とあるのではと、愚考致します」
「あらあら、司令も言うようになりましたね。
私と出会った頃とは見違えるように、こういう場面に慣れてきたようですね。
確かに、司令の言うとおりですね。
なら私からも連絡を入れましょう」
殿下はそう言うと、カスミの傍まで行って、何やらお願いをしている。
カスミは、心配そうに艦長のメーリカ姉さんの方を振り返り、指示を仰ぐ。
メーリカ姉さんも、それを見て、大きく頷くだけだが、それで通じたようで、すぐにカスミは無線機を操りどこぞに連絡を入れて、途中で王女殿下にマイクを渡しているなどしている。
どうも王女殿下は直接王宮に無線を繋いで、殿下の姉に訪問してきた事を伝えているようだ。
今回の訪問の理由を説明している。
尤も、きな臭い方ではなく、帝国に来たついでに姉に表敬訪問で伺った事を伝えて、少しお話がしたいと伝えている。
それが効いたのか、すぐに首都星への進入の許可が降りて、俺達は指示に従って、首都星にある宇宙港に向け進入を始める。
流石にここからは安全運転だ。
スピード違反などもってのほかとばかりに第三宇宙速度まで速度を落としての進入だが、それでも先方からしたら、俺達に配慮して航路を優先的に回して来てくれているらしい。
ダイヤモンド王国より国力が劣る関係なのか、国際宇宙港とはいえ、捌ける艦船の量に制限がある関係で、どうしても付近の制限速度が遅くなるのは、割とどこでもある事だ。
まあ、普通の商業宇宙船では第三宇宙速度は巡航速度では速度でも早い方とも言われているので、それほど問題視はされて来なかった。
軍関係者からならば、文句の一つもあったかもしれないが、元々アミン公国は殆ど軍事力を有してはおらず自国防衛をダイヤモンド王国に依存している。
まあ、この辺りの宙域は大国の思惑が色々と絡むので、コランダム王国やグラファイト帝国にとっては剣呑とした宙域になるのだろうが、当事国のアミン公国にとっては安全な状況であるのは非常に皮肉とも言える
ここまでサーキットを走るレーシングカーかよというくらいの速度で飛ばしてきた俺たちにとって、いくら一般商船の巡航速度だといっても、余りの減速に徐々にではあるが艦橋内のストレスは増していくのを感じている。
「何やら、皆様の様子が……」
王女殿下も変化を感じたのか、俺に聞いてきたので、俺は説明しながら殿下を隣の作戦検討室まで連れて行く。
そうでないと、そろそろ暴走し始めそうなマリアを止める為にどぎついどつき漫才を始めるケイト達の無様を見せてしまう事になりそうだったからだ。
「ウギ~~~」
あ、始まった。




