最大級の厄介事かも
コランダム王国もそのあたりを理解しているから、今回のような大掛かりな謀略を仕掛けてきているのだ。
尤も、帝国のコクーンをフェノール王国が盗み出すとは考えなかったのか、想定よりも早くに帝国がその謀略に絡んできたので、俺達でもこの謀略の大筋が見えてきたが、それにしてもアミン公国に手を出した段階で……あ、すでに公国内の貴族たちは取り込まれているかもしれないか。
考えれば考えるほど、状況は悪くなる。
無茶だとは思うが、やはりフェノール国王の逮捕を速やかに行い、事実を公にするしか無いか。
幸いなことに、あの計画は帝国の賛同を得ている。
ダイヤモンド王国には、計画すら打ち明けていないが、国王陛下には殿下の方から伝えるようだし、法的にも俺が刑事警察機構軍の長に任命された時に口頭でフェノール王国の首都侵攻の命も受けてはあるので、問題は……ないのかな。
あれって、素直に受けてもいい話では無かったはずなのだが、それでもそれを根拠に置かざるを得ないのも、全ては皇太子殿下のサボタージュが原因だ。
本当に皇太子を殴りたくなってきた。
尤も、俺が殴りに行っても簡単に返り討ちに合うのだろうが、それでも気分的にはどうしようもない。
本当に、政治って、なんでこんな七面倒なことばかりなのだ。
早く俺は本懐を遂げて、カッコの良い台詞を残し……そういえば最近はそんなことを考えることも無くなってきたかな。
どうでもいいが、俺達のような庶民が幸せに暮らせる世の中を見てみたいものだな。
これは心の底から願う、俺の素直な気持ちだ。
帝国の皇帝との面会はこれ以上にない成果を持って終わった。
俺達と一緒に来た帝国の王子殿下は、このあと皇帝陛下と詳細な打ち合わせがあるとかで、ここで分かれることになる。
皇帝陛下と分かれる時に陛下というよりも宰相から、一つのお願いを王女殿下はされていた。
「では、司令。
参りましょうか」
「え~と、どちらに向かえば……」
我ながら情けない問いを発してしまったが、これから向かう先がわからない。
このまま本国に戻り、作戦遂行の準備をすればいいはずなのだが、その前にやり忘れたことがありそうで……
「あら、これは私としたことがすみませんでした。
首都に戻る前に、途中にあるアミン公国に向かいます。
少し遠回りにはなりますが、ちょうど通り道に当たりますから、しばらく会っていなかったお姉様に会ってご挨拶でも」
殿下は、えらく悠長なことを言い始めるが、先程の皇帝陛下との会談で話を聞いている俺には背筋が寒くなるようなことだとすぐに理解した。
アミン公国の内情を簡単に探り、その後の展開の修正を考えているようだ。
しかし、その後殿下がこぼした言葉は、俺の想像の更に上を行く。
「先ほど帝国に宰相から、アミン公国での外交交渉の件で地ならしを頼まれましたのよ。
アミンの政府がコランダムに取り込まれているようならば、外交交渉の場としての提供を拒むだろうと言われました。
私もそう考えますから、アミン公爵夫人のお姉様にあって、そのあたりを直接確認して、できれば公爵にその許可をいただきたく考えておりますの」
王女殿下の考えは、十分に理解できた。
すでに公爵自身がコランダム王国に併合を望んでいるようならば、すぐに別の手を打たないとまずいが、そうでなければ王女殿下の姉上の命すら危なくなる。
いわば革命のようなことが起こりそうだと言っているのだ。
最悪は、公爵一家を俺達の『シュンミン』に乗せてダイヤモンド王国まで亡命させる必要まで出てきたのだ。
一体全体、この宇宙はどうなったというのだ。
決して平和だった訳では無いが、ここまで混沌としていたはずはない。
それが……これもそれも、皇太子がさっさとこの争乱を終わらせないのがいけない。
いや、国王も無能な皇太子なんかを討伐軍の長に任命したのが事の始まりだ……あ、俺の考えは不敬だったな。
皇太子は決して無能ではないぞ。
ただ、視野が国内の貴族抗争に囚われすぎているだけなのだ。
我が国内だけの問題で収まっていればそれでも何ら問題は……それでもないはず無いか。
しかし……
「司令、行きますよ。
いくら司令ご自慢の『シュンミン』が早くても、私達に残された時間は限りがありますから」
殿下に久しぶりに怒られた。
今まで俺のいらん考えを見透かされて睨まれたことは多々あるが、怒られたのは久しぶりだ。
だが、確かに俺達には時間がないのは事実だ。
さっさと艦に戻り、それこそ最大速度で向かうことにしよう。
王女殿下は俺をおいてさっさと『シュンミン』に向かって歩いていった。
現在、『シュンミン』は帝国内をアミン公国に向けそれこそスピード違反で捕まりそうな速度で向かっている。
帝国宰相から依頼もあるので、俺達を咎めるものは現れなかったが、尤も俺達を捕まえるにはどこぞで待ち伏せしか手はないだろうが、それでも久しぶりに快適な船旅だ。
先のことを考えない限りにおいては。
アミン公国に入るとすぐにアミン公国の首都星系に入る。
もともと小さな国なので、それはそうなのだが、アミン公国内で姉を尋ねる名目で帝国からさんざん知らせてはあるが、このあと平和的にすべてが片付く保証はどこにもない。
ダイヤモンド王国唯一の同盟国なのだから、面倒な事前交渉などはされないのが普通だが、今回ばかりは緊張する。
下手をすると革命真っ只中の首都に飛び込む可能性もある。
俺は艦長のメーリカ姉さんを自室に呼んで話をする
「艦長、悪いが俺の部屋で少し話したい」
メーリカ姉さんを俺の私室に呼んで話を始める。
流石にまだこの段階では革命がどうとかの話を他の乗員に聞かせるわけには行かない。
マリアが知ればそれこそお祭り騒ぎをしそうで怖い。
なので、声が伝わる作戦検討室ではなく、俺の私室で艦長と話をするのだ。
「司令、やはりアミン公国のことですよね」
「ああ、気がついたかとは思うが、最悪も考えないとな」
「革命ですか……それとも」
「革命も面倒だが、それ以上に厄介なのが、あちらがすでに国ごと取り込まれている場合だな。
流石に王女殿下を拉致……ありうるから怖いが……」
「考えすぎとは言いませんが、まず大丈夫でしょう」
「その理由は?」
「もしそうならば王国の諜報部が掴んでいないはずはありませんし、何より直接の危機感を持つ帝国が知らないはずはありませんしね。
あの時の話では、皇帝陛下直属の組織、確か『影』でしたか、そこからだけの情報のようでしたから、まだ水面下と考えるほうが合理的です。
まあ、安全を見越して準備だけはしておくほうが良いでしょうが」
「頼めるかな」
「はい、無駄になるとは思いますが、ケイトに組織させて待機させておきます。
最近、荒事から遠ざかっておりましたし、ちょうどいいかもしれませんね」
「勘弁してくれ、俺は荒事は苦手なんだよ」
「ええ、司令が荒事が苦手なのは存じておりますが、嫌っているとは知りませんでした」
「は?なんで……」
「だって、司令って自分からどんどん危険の中に入るのお好きですよね」
あ、俺の死にたがりのことを言っているのだな。
これって、俺に対する抗議……違うか、今回はとにかく大人しくしてくれというやつだよな。
「ああ、わかったよ。
荒事にならないよう、俺も最善を尽くそう」




