非公式会合
会議室に入ると、奥中央にはすでに人が座っていた。
俺達と一緒に、いや、先に王子殿下が入ってもその人が座っているとなると……
「陛下!」
やはり、王子は陛下に頭を下げる。
俺達もと考えていると、うちの王女殿下は、悠然と構えている。
王子の挨拶が終わるのを待ってから、王子からの紹介を待っている。
「陛下。
無線で報告しました件ですが、ダイヤモンド王国の第三王女殿下をお連れしました」
「ダイヤモンド王国、第三王女のマリー・ゴールド・フォン・ダイヤモンドと申します。
陛下のご尊顔を……」
「堅苦しい挨拶はこの際いいだろう。
そこの者が申した通り、私がグラファイト帝国の皇帝だ。
ことは急を要していると聞いている。
まずは座ってもらおうか」
「はい、その会議に入る前に、説明させる必要もありますので、うちのものを紹介させてください」
「座ってからでも良かったのだが、王女殿下が申されるのならば」
陛下のお許しをいただいた王女殿下は俺から紹介を始めた。
一応、王女の紹介はメーリカ姉さんのところまでで終わらせたが、それでも完全に別人と化しているケイトがそばにいる。
いや、あれは置物だな。
今日は多分でなく、使い物にならないだろうな。
そもそも、大国のグラファイト帝国の皇帝陛下を、目と鼻の先までの距離で拝めるなんて、早々あるはずがない。
うちの貴族連中でも無理なところをスラム出身のしかも、たかが少尉の分際でなんて陰口が聞こえてきそうだな。
王女殿下の紹介が済むと帝国の士官が俺達の椅子を引いてエスコートしてきた。
うん、これは俺も経験があるぞ。
前にホテルで食事した時にホテルマンが椅子を引いてくれたのを覚えている。
しかし、こういう上品な場での経験に俺とたいして差がないはずのメーリカ姉さんの堂の入り方と言ったらなんと言ったら良いのだろうか。
俺は負けた気がしたが……そもそもメーリカ姉さんに勝てたことなどなかったし、よしとしておくか。
大体俺は上品とは全く縁のない生活をしていたのだが、王女殿下に連れまわされたので、多少の経験はさせてもらったが、いまだにホテルでもぎこちなくなったのを覚えている。
ここでは、ホテルでの時より以上にぎこちなく見えたのだろうな。
俺でもそう感じているのだから、正面から見ている皇帝たちから見たら差も滑稽な姿に見えたかも……これって、外交的にまずかったかな。
やはり俺が『シュンミン』の当直として……
俺がそんなことを考えていると、陛下の声が聞こえた。
「そこの者も座るが良い」
あ、ケイトが完全に固まった。
そりゃそうか、帝国の陛下からお声がかかれば俺でも固まる自信はあるな。
「陛下の御前だとはいえ、今回はあくまで非公式。
この席での話し合いなど存在しないのだから、構わず座ってください」
陛下の隣りにいた人が優しくケイトを促す。
ケイトは壊れたロボットのように帝国士官が引いてくれた椅子に座る。
やはり完全に今日はつかいものになりそうに無いな。
俺たちが座るとすぐに核心から話し合いが始まった。
「すると君等だけでフェノールを潰すというのかね」
「いえ、潰すわけではありませんし、そんな事できません。
ですが、乾坤一擲といいますか、計画があります」
「その計画とは。
ここで聞かせてくれるのだろう」
「はい、ですがせっかく立案者がそこにおります、彼から説明させます」
「ほ~、すると、彼があの海賊たちを少数の兵力で魔法のように潰していたという……」
「ええ、ですので、説明させてもよろしいでしょうか」
王女殿下はそう言うと俺に話を振ってきた。
なんか陛下がとんでもないことを言っていたようだが、それ以上に殿下が俺のことを持ち上げるものだから異常にハードルが高いのですが……
まあ、覚悟はしていたけど……どう説明したものか。
あれ、かなり分の悪い……分が悪いかな?
帝国の協力があれば、特に王子の全面的な協力があればほとんど成功はするが……政治向きな件が残るよな。
そもそも俺の計画というのは、一国の王室を攫って裁判にかけるのだ。
一応、ダイヤモンド王国も法治国家の体をなしている。
きちんと法律に基づいて行動するのだから、その後は隠しようがない……全く無い訳でも無さそうなようなのだが、そこは貴族社会に詳しくない俺にはわからない話だ。
俺が考えるに、俺の計画通りに進めばその後に外交取引はできなくなるし、精々司法取引くらいしか道はないが、司法取引で今までの外交的懸案など解決できるのだろうか、いや、しても良いのかな。
とにかく、できるだけ丁寧に計画を話して、協力を許可してもらう方向に持っていく。
王子の方は完全に乗り気なので、陛下から黙認の一言だけでもあれば、とりあえず俺の計画はなったも同然なのだが……
「という体裁を取りますので、帝国を我が国の戦争に参戦させる訳でもないので、外交上も問題はないかと」
「そんなことは不可能です、陛下」
「少し黙れ。
まだ話があるのだろう」
後ろに控えている取り巻きの一人が俺の計画を聞いて声を上げたが、陛下がすぐにそれを制した。
しかし、帝国内の空気もあまり良い状態ではなさそうだな。
そもそも、この場は存在しえない会議の場だ。
その場に随行員だとしてもそれなりの人しかいないはずなのだが、それでも俺たちの訪問を快く思っていない人が相当数帝国にいるということの証左だろうな。
そういえば、コクーンに入る時にも邪魔が入ったことだし、これってかなりやばい状況かもしれない。
「はい、お話を続けてもよろしいでしょうか」
王女殿下は、話を続けたそうにしている。
「すまなかった、邪魔をしてしまい。
まだ、計画の他にも何かあるのかね」
陛下の許可をもらい、王女殿下は、俺たちがかねてから懸念している宇宙全体を巻き込む大騒乱の危険性について説明を始めた。
「これは、そこに控える司令から聞いた話ですが……」
王女殿下は言わなくてもいいことに俺の名を出して説明している。
そう、今回のフェノール王国の侵攻についての違和感、特に大海賊菱山一家を使った帝国のコクーン強奪や、はぐれ惑星に建設していた基地などについてフェノール王国一国だけでの侵攻計画にしてはあまりに規模が大きすぎる。
たとえ、同盟国のセロイド合衆国の協力、いや、始めからセロイド合衆国も参加しての合同の侵攻計画としても、明らかに構想からして規模が大きすぎる。
「ですので、私どもが懸念していることではフェノール王国の影に別の、しかも大国が関与しているのではと考えております」
「それは、セロイド合衆国のことでは」
先ほど陛下の隣から声をかけてもらった人からもう一度声がかかる。
「はい、当然ですが、フェノール王国の侵攻には必ずと言って良いくらいにセロイド合衆国の関与がありますが、此度の件では、それだけではどうしても力量が不足しております。
明らかに規模が大きすぎます。
何せ、帝国を巻き込むことになったコクーンの件ですが、今までにない王国を挟んで反対方面からのことになりますから」
「王女殿下はいかがお考えか」
「はい、帝国が此度の我が国の紛争に関与される場合にその隙を狙う者たちが動き始めるのではと懸念しております」
「やはり、そう考えるのが妥当か……」
王女殿下の懸念について、帝国の皇帝も同様なことを考えていたようだ。
「では、影からの報告は……」
隣の人が言った言葉に、『影』とあったが、これって普通は諜報部門のことを指す隠語だよな。それを国の高官が使うかな。
俺は違和感をぬぐえなかった。




