君は何をしにここに来たのだ
「ですが……」
「この『シュンミン』から無線を借りて、君たちが見たことを連絡すれば済むだろう」
「ですが……」
「君たちはここに何しに来たのだ?」
どうも、今回陛下に同行しているメンバーにも陛下の思惑にそぐわない者たちも相当数混じっているようで、彼らはそのあたりから時間稼ぎにでも使わされたのだろう。
「一つ聞くが、本当に君はここに何を目的で来たのだ」
「と、当然陛下の安全の確保のために調べに来たのですが」
「あの~、何を知りたいのでしょうか。 何なら、この艦の指揮権一時的ですがお渡ししますが……」
「え!?……」
「そんな面倒はいらんよ、司令」
「そうですね。 良いですから、君のIDからコクーンの司令に繋いでください。 私から直接お話します」
「それは……」
「仕方がないですね」
なんだか、同じ国の人たちなのだが、全くお役所仕事で話が合わないようだ。
その時に、お隣の艦橋から報告が入る。
「司令、少しよろしいでしょうか」
このときばかりは、カオリの報告はよそ行きだ。
いつもなら『司令、大変、早く来て』くらいいいそうなものだが、流石によその王室が居るとうちの乗員たちも態度が良くなる。
「どうした」
俺はそう言いながら扉を開けて艦橋に入っていった。
すると目の間のコクーンからトラクタビームが出されており、通信でコチラを呼び出している。
「確かに、これは……」
「司令、どうしましたか?」
そう言って俺のあとから艦橋に王女殿下が入ってきて、その後ろから帝国の王子もこちらを覗いていた。
「カオリ、通信を開いて呼びかけに応じてくれ」
俺はカオリにそう言ってから王女殿下と、隣から覗いていた王子殿下に向かって、状況を説明している。
二、三のやり取りがカオリとコクーンとの間でかわされたあと、俺にもう一度報告が入る。
「司令、コクーンからです。 トラクタビームに乗って来艦されたしとのことでした」
「王子殿下。コクーンからの指示ですが、このまま指示に従ってもよろしいでしょうか」
「司令、あちらには陛下が座乗しておられる。どう考えても指揮権はここの誰よりも強いよ。 今、ここからコクーンと話せるかな」
「カオリ……」
「すぐにお繋ぎします」
カオリはそう言うと、隣りに座っていたカスミがヘッドセットを持ってこちらにやってくる。
「王子殿下、こちらをお使いください」
「ありがとう」
王子はカスミからヘッドセットを受け取ると、すぐにコクーンと無線でやり取りを始めた。
途中で語気が強くなったのは……多分気のせいだ。
だが、その時に『シュンミン』に内火艇でやってきた士官は顔色を悪くしていた。
ああ、そういうことか。
俺達への嫌がらせが陛下にバレたと焦っているのか。
こういう輩は、本当にどこにでも居るな。
「司令、お待たせして申し訳ない。 すぐに前進させて、中に入ろう。 私でも、あまり陛下を待たせたくはないしね」
眼の前の王子は、そう言いながらヘッドセットを艦長のメーリカ姉さんに返しながらサラッと怖いことを言い始める。
俺が、待たせたわけでもないのに、なんだか悪者にされそうで怖い。
『シュンミン』に残る当直に、俺がなってもいいかな……
「司令、大丈夫ですよ。 王子殿下も、多分陛下も別な方に対してのお怒りなのでしょうから」
うん、王女殿下は俺のことを逃がすつもりはないようだ。
俺の居残り計画はこの時点で頓挫した。
その後は実にスムーズに俺達はコクーンの中に入ることができた。
コクーンの護衛をしている二個戦隊は、その陣形を全く変えてはいなかったが、もともとこの『シュンミン』は小さな艦なので、艦同士の隙間があれば難なく通れるが、コクーンからあからさまにトラクタビームが出ているのにもかかわらず、全く俺達を通す気がないようにも見受けられる。
別に歓迎してくれとは言わないが、それでも上下の間で意思の疎通ができてないとか、別な国の高官が居るのにそんな態度をとっても良いのかな。
俺達を乗せたコクーンは大きなハッチを開けていて、その中に吸い込まれるように中に入っていった。
もうこの段階になると、操縦指揮権はコクーンにある。 コクーンのリモートに従って『シュンミン』は駐機スポットに停められた。
止まると同時に、チューブが『シュンミン』に渡されて、すぐに乗艦の準備が整う。
「王子殿下、参りましょうか」
王女殿下は、早く陛下にお会いしたいのか、王子殿下を促している。
「ああ、そうだな。 それで君はどうするね。 私達と一緒に来るか」
「いえ、私は何も指示を得ておりませんので、こちらで上官の指示を待ちます。艦長、それでも構いませんか」
先程の嫌がらせに対する意趣返しか、王子殿下は件の士官に一緒に来て陛下に会われるかね……等と嫌味を言っていた。
流石に、件の士官は断ったようだが、それにしてもこんな茶番を帝国でも見せられるとは、ひょっとしたら、上層部って、下層階級よりも大した能力がないかも……いや、違うな。
王女殿下なんかをそばで見ていればわかるが、あれは化け物だ、御学友だったカリン先輩も時々壊れるが、十分化け物の範疇にはい……あ、いや、考えませんとも。
ええ、私にはなんのことかわかりません。
俺は慌てて脳内で言い訳を始める。
なにせお隣で、急に俺のことを睨んでくるのだもの、王女殿下は。
「ええ、ではカオリ、こちらの方に便宜を図り通信の手伝いをお願いしますね」
「はい、艦長」
「では、これより本艦は駐機モードに艦内配備を変更します。当直はマリア少尉に任せて副長は私と一緒に来てください」
「あ、はい……艦長」
完全にケイトはドナドナ状態だ。 まあ、それは俺にも言えることだけどな。
「では、エスコートをお願いしますね、司令」
「は、はい、王女殿下」
俺達は艦長を先頭に下のデッキにある中央ハッチに向かった。
そこでは保安室長が部下の保安員たちを並ばせており、扉の向こうで待機している帝国兵士たちに、返礼の姿勢で俺達を待っている。
向こうはすでに歓迎のために儀仗兵のような格好をした兵士たちが最敬礼の姿勢で俺達を待っていた。
ハッチから先は帝国の王子殿下とその随行員に続いて俺と王女殿下、その後ろに艦長とケイトに続き保安員たちが並んでチューブを通っていく。
「ダイヤモンド王国のご使者の方の乗艦を許可します。 ようこそ、帝国に。我々一同歓迎いたします」
チューブの先の少し広い場所で、本当に簡単な外交儀礼の挨拶が交わされたあとに、俺達は奥の会議室に連れられた。
帝国としてもかなり時間が逼迫した対応に俺は少し驚いた。
帝国の陛下との面会になるはずだ。
だから、あんな面倒な士官まで俺達のもとに送ってきたのに、コクーン内では今までの無駄なやり取りなど一切知らないとばかりの実用本位といえば格好がつくだろうが、とにかく面倒を一切省いて話し合おうという感じがしてならない。
面倒を省くのは俺も大賛成なのだが、それでも今までのやり取りがあるので、正直どうなっているのは全く予想がつかずに、不安しか無い。




