帝国の隠れた事情
「すぐに、ここにお通ししてくれ」
「はい、では……」
王女殿下は扉のすぐそばにいたようで、イレーヌさんはすぐに王子殿下を部屋にお通ししてくれた。
「すみません、王子殿下。
進路変更の件だと思い、ここにお通ししましたが、部屋を変えますか」
「いや、その必要はありません、司令。
それにちょうどよく、王女殿下も同席されているようで、ここでお話ししましょう」
「では、こちらに」
俺がそう言って俺の隣の席の椅子を引いて王子に着席を進める。
王女殿下はすぐにおつきのマーガレットさんにお茶を頼んでいる。
お茶を待つまでもなく、俺は話を切り出した。
「先ほど無線で帝国から進路変更の指示を頂き、今しがた進路を変えたばかりです」
「すでに話が入っておりましたか。
司令、それに王女殿下。
予定しておりました陛下との会見の件ですが、大幅に変更になります」
「お会いできませんか……」
「いえ、4~5日後の面会を想定しておりましたが、明日に変わりました」
「「「明日」」」
「王子殿下。
これから向かう先には小惑星すらないエリアだと聞いておりますが」
王子殿下は俺の疑問に答えるように、状況を説明してきた。
「わが国では、先のコクーン盗難よりも、隣国との緊張の方が重点を置かれております」
「王子殿下には失礼に当たるかもしれませんが、隣国との緊張関係は、その国にとって一番の関心事になるかとは思いますが。
何せ、安全保障に直接かかわってくる問題ですし」
俺は、コクーン盗難当時の司令をしており、あの盗難が殿下の経歴に大きく傷をつけていることを理解しているので、一応断ったうえで、正論を述べた。
「ええ、そうなのでしょうが、私は隣国もこの件、コクーンの盗難……いや、ダイヤモンド王国とフェノール王国との騒乱に関与しているように思われて仕方がありません」
「それは……」
「どうも、かなり深部で繋がっているようで、帝国の情報部はそのあたりを調べております。
皇帝陛下も、同じお考えですが、他は違います。
まあ、この情報はかなり秘匿されておりますので、分からないことも無いのですが、先のコクーン盗難について我が国内の貴族も一部関与が認められており、そこも調べますと隣国からの手が入った痕跡までも見つかりました」
「そうなると、皇宮内はかなり緊張があるのでは」
「ええ、ですのでここで王国の王女殿下をお招きするのも刺激が強すぎると言いますか……」
隣国との騒乱に発展するために俺たちがここまで来ているので、殿下が乗り込むことで更なる緊張を高めてしまうのは本末転倒だ。
王子殿下も同様なお考えのようだが、王子殿下の御話では一部情報を知る者たちも同じ考えを共有しているらしい。
「ですが、お会いしない訳にも……」
「ええ、ですので今回の目的地の変更があるのです。
少なくとも王国との国境付近の状況の視察に行く計画もありましたので、皇帝陛下はコクーンを使い移動中です」
「コクーン?」
「ええ、私のコクーンの一回り小さなものですが、帝国内に大々的に発表された我が国の技術の威信を誇るものです。
尤も、技術的には後から作られた私のコクーンの方がはるかに大きく高性能ですが」
要は王子の話す内容は、首都だと目立つので。宇宙空間でひっそりとお会いしましょうということらしい。
現在皇帝陛下は、俺たちが調べた時に見つけた一回り小さなコクーンを使い、護衛に戦隊を二つ率いてこちらに向かっているらしい。
合流地点が、先ほど指定の合った場所になる。
そこで、コクーン内で陛下との会談になると王子殿下は話してくれた。
「一応お聞きしますが、陛下は隣国との緊張をさらに高めるご意思は無いと考えていいのでしょうか」
「ええ、それは隣国の関わり合いがある以上絶対に避けなければなりません。
これはこの情報を持つ者全員変わらないと考えております」
王子殿下は、王女殿下の問いに対して力強く答えてくれたが、先の言いようは帝国内では主戦論もかなりの勢力も持っていそうだ。
しかも、どうも主戦論者の中に隣国からの手が伸びてきている者もかなりの数がいそうだ。
話を聞けば聞くほど、きな臭く、それも陰謀と呼ぶには規模が大きすぎるような気がする。
まず、ここで俺たちが想像する大騒乱が起これば帝国だけでなく、緊張状態にある隣国やその周辺国だってただでは済まないし、だれが利益を得るのか全く見てこない。
せいぜい死神だけが商売繁盛するくらいか。
王子殿下との話し合いも1時間ばかりで終わった。
それぞれの部屋に皆帰っていった。
最後に残ったのは艦長のメーリカ姉さんだけだ。
「艦長、今の話をどう思う」
「司令、私に聞かれましても……私は自分の見える範囲でしか、戦えませんので、遠く帝国やその隣国のことなど考えが及びません」
「まあ、普通はそうだよな。
だが、王族というものはそう簡単に許されないのだろう。
考えを放棄することは逃げにあたるとでも考えているようだ、あの王女殿下は」
「それは難儀なことですね。
ですが私がいくら考えても、そこまで広い範囲は妄想すらできませんよ」
「ああ、それは俺も同じだ。
今となっては、出たとこ勝負でもするかという気持ちが強いが、それでもこのフェノールとの騒乱をすぐに解決する気持ちだけは変わらない。
そうでないと破滅する未来しか見えてこないしね」
「私には、それすら……ですが、私は司令に命じられたことを最高のパフォーマンスで示すだけです」
「それだけで十分に心強い。
まだ、面倒ごとは多そうだが、今日はいろいろとありがとう」
「それでは失礼します」
メーリカ姉さんはそういうと作戦検討室から出て行った。
俺も自分の端末を閉じて、作戦検討室から出て、すぐそばにある自室に戻る。




