今、なんと言った?
「メーリカ姉さん。
聞いていたよね。
俺、明日連絡が入ればコロニーに出かけるけど良いよね」
「艦長代理ですから、ご自由になさればいいかと思いますよ」
「この場合、休日扱いにしておいた方が良いかな。
それとも公用外出になるのかな」
「お話を聞いていた限り公用外出になるかとは思いますが、艦長代理も休みが余っていますよね。
後日にいろんなところから文句を言われないように休みにしておいた方がよろしいかと思いますよ」
「ありがとう。
そうするよ。
それじゃあ、明日ここの指揮をよろしくね」
「了解しました。
明日は朝から指揮権を預かります。
成果を期待しております」
「ありがとう、まあ運次第かな。
期待しないで待っていてね。
それより、そろそろ時間かな。
いくら急ぎとはいえ、無理させてしくじっても元も子もないから、今日の作業は終わらせよう。
艦内に伝達しておいてね」
今、艦内では全員が手分けをして艦内の整備をしている。
カスミに預けているマリア班は全員でエンジン回りの整備をしてもらっているし、残りは手の回る範囲で清掃などの仕事をしている。
俺も艦橋の艦長席周りの掃除をしていた。
あの何時の封印か分からない応急品などは直ぐに新品に換えた。
また、パワースーツも総務には文句も言われたが新品に換えてもらった。
艦長用はパワースーツも少し違うとかで、艦長代理も艦長用が使えるからとか言っていたな。
初日は、そんなこんなでみんな仲良くお掃除して終わった。
翌日、9時にマークから無線が入った。
さすが軍人、たとえ休みと云えども規則正しい生活をしているようだ。
尤も俺も早くから起きて、日課となりつつある部屋の掃除をしていたが、無線を受けたエマが艦長室に転送してくれ、長話もすることなく俺は出かけることにした。
艦橋には既にメーリカ姉さんが詰めていたので、昨日の約束通り艦の指揮権を委譲してビスマスの宇宙船停泊エリア内を巡回している内火艇を捕まえて、それに乗ってコロニーに向かった。
コロニーの玄関口ともいえる内火艇発着場は人でごった返していたが、直ぐにマークを見つけることができ、二人で近くの喫茶スペースに向かった。
まだ10時前なので、周りには人が多く出ているが、喫茶スペースは割と空いていた。
直ぐに店員に中に案内されて、席に着いた。
「ナオと会うのはなんだか久しぶりに感じるけど、まだあれから一月もたっていなんだよな」
「俺もマークとは久しぶりな感じがするよ。
マーク、なんだか雰囲気が変わったか」
「変わったのはナオの方だろう。
俺の方は学校時代とほとんど変わらない生活さ。
それより、昨日の依頼の件だけど、親父も何だかコーストガードのことは知っていたよ。
コーストガードに新たに2隻の船が入るんだって。
そのうち1隻はうちで作ったやつだとか」
「ああ、海賊がどこからか分捕ってきたのを俺らがその上前を撥ねた」
「なんだそりゃ。
まあいいか。
それよりも、偉く急な話で、まともなドックには空きが無いだろうという話だ」
「それじゃあ無理なのか。
悪いな、つまらないことで煩わせて」
「オイオイ、話は最後まで聞けよ。
そこで確認したいのだが、世間一般でまともでない所と思われているドックでも構わないかという話だ」
「どこでも構わないぞ。
ドックが使えるのなら」
「オイオイ、お前が勝手に決めても良い事か」
「ああ、そうだな。
法律的なこともあるし、一応事務方に聞いてみよう。
まともでない処だとして、どういう処ならあるんだ」
「いわゆる解体屋だ。
ドックは下手な造船所よりもしっかりしているし、何よりそこの経営者の腕はぴか一だ。
俺も子供のころから知っている処で、親父の友人でもある」
「そこなら安心だな」
「だから勝手に決められないだろう。
確認はどうするよ」
「今ここで電話かけて聞いてみるよ。
悪いな」
そう言って携帯端末からコーストガードの本部にいるマキ姉ちゃんを呼び出した。
「マキ姉ちゃん、ナオだけど良いかな」
『あらどうしたの』
「ちょっと確認だけど、例のドックの件。
あれって条件があるの」
『どういうことなのかしら』
「昨日話した友人が傍にいるけど、彼が言うにはいわゆる解体屋のドックなら使えそうだと言うんだ。
そこでも良いかな」
『この際だからどこでもいいわよ、本当に使えるのなら。
理想を言うと、A級整備の証明書の発行ができるところなら文句はどこからも出せないからベストね』
「分かったそこで話を付けるよ。
決まったら電話する」
『分かったわ、待っているわね』
「マーク、どこでも良いらしい。
でも確認だけど、そこってA級整備の証明書の発行ってできるの。
なんでも、あれがあればどこからも文句は出ないという話だ」
「多分大丈夫かと思うけど、今お前はどこに確認していたんだ」
「俺のところの事務方の親分」
「へ?
艦長じゃ無いのか」
「あの艦には今のところ艦長はいないよ。
いるのは精々艦長代理だけだ。
尤もほとんどお飾りだけどもな」
「オイオイ、上層部の批判をこんなとこで言ってもいいのか。
それも周りを憚らず」
「大丈夫だよ。
大したことない奴だからね。
それよりほかに確認することあるの」
「いや、それじゃあ今の質問を聞いてみるよ。
今の時間なら親父に直に電話が通じるしな」
………
「こっちから直接連絡すればいいんだね。
分かった、ありがとう」
「今親父と話が付いた。
さっきの件だけど、そう言った法的な書類なら問題ないんだと。
何ならキャスベル工廠からも添え状も出せるとも言っていた。
こっちからドックに直接連絡しないといけないが、親父の方からも直ぐに先方に電話してくれるらしい。
それより、親父の奴面白いことを言っていたぞ」
「面白い事??」
「ああ、さっき技術的なことに関して腕はぴか一と話しただろう。
その話の続きなのだが、親父の友人でもあるあそこの経営者はちょっと変わりものでな。
仕事を選ぶらしい。
つまらない仕事は一切受けないので、親父からもなかなか仕事を任せられなくて困っているんだとか。
そのために経営はいつも火の車だそうだ。
そこで、うちから救済の意味で船の解体を任せているんだけど、つまらない仕事をするくらいなら解体の方が良いと言って憚らないんだと。
でも、一旦面白いと興味を持つととことんやる職人肌なんだそうだ。
その面白い仕事に天婦羅船の改良などが多いとも言っていた」
「え?
天婦羅船??
なんだそりゃ?」
「中身と衣が違う船だ。
要は、中身が最高水準の技術で作られていても、外見がオンボロだとか。
親父が自慢していたのが、若い頃に親父と一緒にあの有名な『千年のハヤブサ』号と云う船を造ったと言っていたぞ。
オンボロな輸送船の形なのに、中身は王国最速な船だとか。
しかも、廃船から部品を集めての造船だから驚くよな。
気難しいが安心して今回のような無理な仕事も任せられる人だと」
「それは助かるな。
できればすぐに結果が知りたい。
連絡してくれるか」
「オイオイ、本当に大丈夫か。
お前の処の艦長代理に聞かなくても良いのか。
悪いことは言わないから、ここで聞いておけよ。
それくらいの時間なら俺は待つから」
「だから大丈夫だよ。
だって、俺がその艦長代理だからな」
「え?
ナオ、今お前何と言ったんだ」
「だから、俺も信じられないが、俺が航宙駆逐艦『シュンミン』の艦長代理だ。
いきなりこの間、そう言われた」
「それはおかしいだろう。
だってお前、まだ少尉だろう。
どこの世界に少尉が艦長代理をするんだよ。
いくら小型艦とはいえ、艦長なら最低でも大尉の階級はいるだろうし代理と云っても中尉の階級じゃないとまずいだろう。
いくら左遷部門のコーストガードとはいえ、そんな無理はできないはずだよ」
「ああ、俺もそう思う。
本当にびっくりする人事だよな。
だいたい学校を出てまだ一か月もたっていないのにな。
それを、いくら海賊を相手に勝ったからと言って、いきなり昇進させるのはやりすぎだろうとは思うよ。
しかも俺は部下に落とされて、ただ伸びていただけなのにな」
「なんなんだよ。
いったい何があったんだ、この一か月の間に何が起こった」
「まあ、色々とな。
しかし、何でもあまり公にできないと云うか。
ところでマークは今日は休みだろう。
船に案内するから付き合えよ。
船の中なら少々きわどい話をしても大丈夫だろう」
「良いのか、勝手に俺なんか連れ込んで。
許可取らないといけないんじゃ」
「だから誰に許可を取るんだよ。
今のところあの船には俺よりも偉い奴はいないよ。
さっきも言ったがお飾りだけども俺があの船の艦長代理なんだよ」
「ああ、なるほどな。
それなら納得だよ。
俺は夕方の当直に間に合えば大丈夫だ。
付き合うよ。
ここじゃもう話せないよな。
俺もかなり一杯一杯だ」




