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マークでダメなら降参だ


 船は航宙フリゲート艦の時とは違って、封印されて保管されていたので、エンジンも止めてあってすっかり冷え込んでいた。


 予備動力を動かして必要な電力を得るか。


 「カスミ、悪いがマリアが戻るまで、マリアの班を預かってくれ」


 「ハイ、しかしどうしますか」


 「マリアに前に聞いたが、この船もかなり整備がなされていなかったんだよな」


 「ええ、こんな状態ではいつ壊れても不思議はありませんね」


 「まだどこのドックに入れるか決まったわけじゃないが、ドック入りさせないといけないよな」


 「ハイ、それ以外にないかと」


 「なら、応急でも構わないが少なくとも首都宙域内のどこにでも行けるくらいまでは整備しておきたい」


 「でも、ここでは無理かと」


 「ああ、それならビスマスまで行こう。

 あそこで設備を借りて日常点検位ならできるだろう」


 「それがいいですね」


 「そういう事だ。

 そうと決まればすぐにでも移動だ。

 メーリカ姉さん。

 動かすぞ」


 「了解しました。

 ラーニ、ケイトの代わりにあんたが操縦席にね」


 「ハイ、メーリカ姉さん」


 「では、ひとまずビスマスに向けて出発」


 「目標、スペースコロニー『ビスマス』。

 通常航行1AUで発進」


 「目標スペースコロニー『ビスマス』、速度1AUにて発進します」


 ビスマスに着くと、カスミたちは自身の伝手を使って資材や工具を借りて整備を始めた。

 俺はここから首都星ダイヤモンドにあるコーストガードの本部にいるマキ姉ちゃんと頻繁に連絡を取っている。

 内容はどこのドックにこの船を入れるかだ。


 だいたい素人が簡単にドックの手配などできない。

 尤もコーストガードのお偉いさんたちもそれを見越しての人事なのだが、真面目なマキ姉ちゃんは必死にドックを探している。


 とにかくいろんな方面に顔が利く総務部にいてもそう簡単なことではない。

 だいたいコーストガードの場合、全てが軍へのお願いで整備しているので、こういった事務手続きなんかやった事が無い。

 しかも今回の場合には既に1隻の整備を軍に頼んでいる。

 ただでさえ余裕のない軍の整備部門としても、計画以外の整備など1隻入れることができただけでもすごい事なのに、もう1隻は明らかに無理だ。


 軍の総務部門なら、こういう時には民間へ整備の仕事を回すのだが、そう言った協力もしてくれない。

 どうやら俺が絡むのが面白くないとのことで、一切の協力が無いと連絡のたびにこぼしていた。

 「だいたい素人の私たちにドックの手配なんか無理なのよ。

 上は何を考えているのよ。

 伝手(つて)の無い私たちには無理だと分かっていてこの仕事を回したのよ。

 男の(ひが)みはみっともないと思わない、ナオ君」


 完全に愚痴だ。

 しかも公的な場所なのに口調が昔に戻っている。

 こうなると俺は(なだ)めに回るだけだ。


 「伝手があればいいのかな」


 「そうよ、伝手があればって、孤児である私たちに絶対にある筈が無いのを分かって仕事を回したのよ」


 「それなら、ダメもとで俺が聞いてみても良いかな」


 「へ??

 ナオ君、伝手あるの」


 「ああ、ダメもとだから、期待しないでね。

 俺の士官学校時代の友人でキャスベル工廠の関係者がいるから、そいつに聞いてみるよ」


 「キャスベル工廠って、あの大手でしょう。

 すごい」


 「だからダメもとだからね。

 期待しないでね」


 俺はそう言うと一旦無線を切った。

 しかし、あいつは今どこにいるのかな。

 こういう時にはきちんと手順を踏んだ方が良いので、軍の広報部に関係者との連絡窓口があったことを思い出した。

 俺は直ぐに軍広報部に無線を繋ぎ、マークへ連絡を取れるように依頼した。


 その日の夕方に艦橋にいた俺宛てに無線が届く。


 「艦長代理。

 第一艦隊輸送護衛戦隊のマーク・キャスベル准尉から艦長代理宛てに無線が入っております」


 「ああ、マークからか。

 ずいぶん早かったな。

 悪いが直ぐに繋いでくれ」


 「ハイ、お繋ぎしました。

 通話をどうぞ」


 「ナオ、どうした急に連絡をくれて。

 何があったのか」


 「や~、マーク。

 久しぶりとまでいかないな」


 「ああ、宇宙港で別れてからまだ一月もたっていないぞ。

 それにしては元気そうだな。

 心配したぞ」


 「悪い、悪い。

 実はマークに相談したいことができたので連絡したんだが、今大丈夫か」


 「ああ、今は待機中だ。

 軍広報から連絡が来た時には驚いたが、私用だと言うので、待機時間まで待ったんでな、今になった。

 急ぎの話か」


 「急ぎと云えば急ぎかな。

 実は、急に古い船をA級整備までしないといけなくなったんだよ。

 しかも、その船は航宙駆逐艦ときているから、困っているんだ。

 軍艦しかも既に王国内では使われていない艦種の駆逐艦ときては整備できるドックなんか俺は知らないよ。

 俺は孤児なので民間のドックなんて一つも知らないから、どこに頼んでいいか分からないんだ」


 「そりゃそうだ。

 普通は知らないよ。

 そんなの孤児でなくとも、下手すりゃそこらの貴族でもできない相談だ」


 「うちの総務でも無理だとこぼしていたからダメもとで聞いてみたんだが、どうだろうか」


 「急ぎなのか」


 「ああ、整備を3か月以内でと命令されている」


 「それはきついな。

 俺も直接知る訳じゃないから、親父に聞いてみるが返事は明日以降になるぞ」


 「ああ、構わない。

 ところでマークは今どこにいるんだ」


 「まだ、訓練航海中だよ。

 ちょうど明日にはスペースコロニー『ビスマス』に入港するんだ。

 ほら、そっちから依頼のあった海賊狩りだけども訓練を兼ねてそれをしている最中なんだ。

 ナオも近くだろう。

 第三巡回戦隊の母港ってそこじゃなかったっけ」


 「いや、『ビスマス』は第三機動艦隊の母港だ。

 巡回戦隊は惑星の方に母港がある。

 でも俺は今ビスマスにいるから明日会えないかな」


 「ちょうど良かったよ。

 入港すれば交代でだが、3日間は休みが貰えるんだ。

 明日入港したら連絡するからどこに連絡すれば良いかな」


 「それじゃあ、ここにしてくれ。

 航宙駆逐艦『シュンミン』宛てに無線をよろしく」


 「いきなり無線しても大丈夫か。

 その、上司に睨まれたりしないかな」


 「大丈夫だ。

 ここには俺より上の人居ないから」


 「そうか、それじゃあ、明日また」

 と言って無線が切れた。


 「艦長代理、今の人は」


 「ああ、俺の同期で仲の良かったマーク准尉だ」


 「訓練航海中だと言っておられたようでしたが」


 「ああ、俺らは先月卒業したばかりだからな。

 普通なら艦隊付きとなって、予定の空いている船に乗せてもらって実践訓練をするらしい。

 俺の場合、何故だか知らないが異常だったようだよ」

 「その異常がまだ続いているようですね」


 「ああ、ひと月で昇進なんて俺は聞いた事が無い。

 しかも小型とは云え船一隻を任されるなんて、こんな人事を決めた人の常識を疑うよ」


 「それって上層部批判では」


 「違いないね。

 それよりも、うまくいけば明日にでもドックの目途が付くかも」


 「え、ひょっとして今の」


 「ああ、彼はキャスベル工廠の一族の出だ。

 おじさんが社長だとか言っていたな。

 彼の父親もお偉いさんなんだと。

 そのお偉いさんに聞いてくれると言ってくれたから、そこが無理ならこの仕事は無理だな。

 明日無理なら俺が本部に出向いて降参してくるよ」


 「そんなことをしたら艦長代理の経歴に……」


 「別に気にすること無いよ。

 無理なら無理というだけだ。

 誰かが責任を取らないといけないのなら、その長が取ればいい。

 この場合、艦長が居ないから俺になるだろうがね」


 「アハハハ。

 ご冗談を。

 それでは期待しながら明日の結果を待ちましょう」


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 木馬並の大改装されたら笑ってしまいそう。
[良い点] 古今東西、未来永劫、軍管民、どこでも伝手って大事なんですね
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