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別れたはずの部下たちが


 おれは渋々勲章をしまって、マキ姉ちゃんの話を聞いた。

 順番が逆になってしまったが、マキ姉ちゃんは順を追って説明してくれた。

 まず、彼女たちについてだが、あの『シュンミン』の整備について艦長代理である俺の下に就いて主に事務手続きをしてくれるそうだ。

 その後については未定のようだが、そのままあの艦の運航管理を地上ですることになるだろうとも言っていた。


 同じ時期にドック入りした航宙フリゲート艦にも総務部から人は就いたそうだが、あっちは新たに一つの課ができたとも聞いた。


 同じコーストガードの船なのに大きさの違いか明らかに待遇の差があるのは面白くはないが、これも上の事情があるようで、俺は直ぐにかかわらないことに決めた。

 俺は殉職を望んではいるが厄介ごとは遠慮願いたい。


 駆逐艦を貰ってからいきなり就いた部下が事務職員だ。

 しかも、俺の人生における最初の先輩とも肉親ともいえる存在のマキ姉ちゃんだとは、人生の偶然とは面白い。

 ………

 あれ、今のフレーズってちょっとカッコ良くない。

 『人生の偶然とは面白い』なんて、決まったよね。

 俺もどんどんこんな格好の良い事を考えられるようになってきたな。

 この調子なら、最後に渋く決められるかな。

 『俺は艦と共に逝く。

 達者でな』

 なんてこんな感じで、うん、この言葉も決め台詞の候補に入れておこう。


 こうなるともはや手遅れ、後は成るようになるだけで、これ以上症状が悪化する前に殉職することを……


 マキ姉ちゃんの説明の間にこんなことを考えていたら、しっかり叱られた。

 この辺りは格好が悪い。

 もう少し精進が必要だ。


 「もう、話を聞いていたの。

 整備ができなかったり、間に合わなかったりしたらナオ君の功績に傷がつくのよ。

 下手をすると降格もあるとも聞いたわよ」


 「でもさ、マキ姉ちゃん。

 今の話だと、予算と事務職員を付けるから、後は勝手にやってくれとしか聞こえなかったんだけど」


 「職場では上司と部下なのだから『マキ姉ちゃん』はやめて。

 ブルース主任と呼んでね」

 「え、マキ姉ちゃんは主任なんだ。

 すごいね。

 学校を出てから4年くらいしか経っていないよね。

 俺と5つ違いだし、学校も大学なら俺よりも1年多く4年生だから」


 「ええ、そうよね。

 この話を頂いた時に昇進したのよ。 

 コーストガードに入ってからちょうど4年で昇進したから同期では一番早かったようね。

 でも、ナオいやブルース中尉にはかないませんよね」


 「そうなんだ。

 よく分かったよ、昇進おめでとう。

 でも同じブルースでは周りも混乱しそうだし、俺も自分で言いにくいからこれから仕事場ではマキ主任と呼ばせてもらうよ。

 それでいいよね、マキ主任」


 「ええ、では私はナオ艦長代理とでもお呼びしましょうか」


 「それでいいよ。

 それよりさっきの話だけど、どうなの。

 あの船の整備を『勝手にやって』って事だよね。

 これって、ここでは割とよくある事なの」


 「そんなことありません。

 初めてです。

 正直私も少々困っております。

 船の整備なんか知りませんし、艦長代理の指示に従えとしか指示を受けてもおりません」

 

 俺をマキ姉ちゃんとの会話の最中にマキ姉ちゃんの部下の一人が電話を持ってきた。


 「すみません、主任。

 部長よりお電話が入っております」


 マキ姉ちゃんは部下から渡された電話を受け取り何やら話し込んでいる。

 電話を終えると俺に向かって言ってきた。


 「艦長代理。

 あの船の乗員の一部が決まりました。

 お手数ですが直ぐに面談をしてほしいと総務部長からの要請です」


 「分かった。

 どこに行けばいいのかな」


 「11階のC会議室です」


 「あれ?

 そこって……」


 「ハイ、艦長代理の元部下たちです。

 元の部下全員がそのままあの艦に配属になるそうです」


 なんだかな~、お決まりの様で、これって厄介ごとをまとめてって奴じゃん。

 ここでの俺らの扱いがどのようなものかが良くわかるな。

 ………

 あれ、それじゃあ、マキ姉ちゃんたちも俺に巻き込まれたという訳……


 「何を気になさっているかは存じませんが、大丈夫です。

 私は自分の仕事をするだけですから、出世がどうとか気にしておりません。

 それよりも艦長代理と仕事ができる方が何よりうれしく思います」


 「今の言葉をいつもの口調で言ってもらえたらもっと嬉しかったけど、ありがとう。 

 あまり待たせる訳にもいかないし、何より、あいつら退屈を一番嫌うしな。

 直ぐに行こう」


 俺はマキ姉ちゃんとその部下を連れて11階のC会議室に向かった。


 中に入ると、既に総務部長は退室されており、あいつらしかいなかった。


 「隊長、私たちまた一緒だよ。

 喜んで」


 「マリア、何言っているんだ。

 お前はもう少し言葉を選べ。

 それにもう隊長じゃないだろう」


 「あ、そうでした。

 艦長代理、これからもよろしくね」


 全く変わらない連中だ。

 しかし、人のことは言えないが、こんなんで大丈夫かと思う。

 下士官になる連中も不安だろうが、一番の不安はマリアとケイトが士官になるということだ。

 しかも俺の部下だと。

 正直不安しかない。

 そんな俺を察したのかメーリカ姉さんが型通りの挨拶をしてきた。


 「色々と思うところはありますが、私たち一同、艦長代理の下で働くよう辞令を受けました。

 当面は艦内での役割までの指示はありません。

 『シュンミン』付けとなっております。

 総務部付き航宙駆逐艦『シュンミン』への配属です。

 よろしくお願いします」


 「唯一の救いはメーリカ姉さんが残ってくれて、あいつらを放し飼いにしなかったことかな。

 こちらこそ前途多難だがよろしくな」


 「で、この後のことですが、私たちは艦長代理の指示に従えとしか聞いておりません。

 どうしますか」


 「俺に出された命令はあの船の整備だ。

 とにかくあの船に戻ることからかな。

 主任、あの船に戻る手配を全員分頼めるかな」


 「全員分と云いますと、私たちもですか」


 「ごめん、その辺りが良く分からないんだよ。

 事務職員の扱いはどうなるのかな」


 「艦長代理」


 「何かなカスミ……え~と軍曹になるんだっけか」


 「いえ、曹長になります。

 それより、事務の方も一度『シュンミン』に来てもらったらどうでしょうか」


 「カスミ、それいいアイデアだよ。

 現状を知ってもらえば事務員の目からも色々とアドバイスも貰えるかも。

 何より予算をバンバン使っても怒られなくなりそう」


 「マリアの言い分はこの際置いておいて、カスミの意見には私も同意します。

 幸いあの船に我々だけでは十分に余裕がありますから、ドック入りするまで位はあっちでも仕事ができるかと思います。

 どうでしょうか、マキ主任」


 「連れて行ってもらえるのなら、お願いします。

 ただ、こちらでの仕事も残っておりますので、一緒という訳にはいきません。

 2~3日遅れても良いと言うなら連れて行ってください」


 「ああ、それなら大丈夫だ。

 どうせ、そこの二人も後組みだし、何なら一緒に来ると良い」


 「は?

 どういう事でしょうか」


 「あいつら二人はこの後士官新任研修に出される。

 なので、あいつらは置いておかれるので、あいつらと一緒に来てくれ。

 多分船は移動させていると思うから今よりは便の良い場所に居ると思うし、その方が楽だよ」


 「分かりました。

 艦長代理たちはいつここを発ちますか」


 「俺は直ぐにでもいいが、メーリカ姉さんはどうかな」


 「私の方はこの後の予定はありませんので構いません。

 それになにより仕事の期限が決められていますし、時間を潰したくはありませんね。

 艦長代理とご一緒します」


 「ならそういう事で。

 手配を頼みます」


 「え?

 私たちは置いて行かれるの?」


 「人聞きの悪い。

 お前らは勉強なんだよ。

 しっかりと勉強してから来ればいいよ。

 どうせ3か月はまともに仕事にならないのだから」


 「いやいや、その3か月があの船を自由にいじれる時間でしょ。

 一日だって無駄にできないのに。

 私にとって貴重な3か月なの~~~」


 「ああ、分かったよ。 

 でもまあ、決まりだからな、しっかりと勉強な。

 あとは俺に付いてこい。

 船に戻るぞ」


 「「「ハイ」」」

 「そんな~~」


 結局前に回航した時と同じルートで航宙駆逐艦『シュンミン』に向かった。

 マリアが居なくても同じやり取りが繰り返される。

 「「「観光させろ~~」」」

 「無駄だ、諦めろ」


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