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船を貰ろうた、そして初仕事も


 部長はいらいらしながら俺の報告を聞いて、報告が終わり次第、俺らを外に止めてあるコーストガードの車に乗せた。

 しかも全員を分乗させてどこかに連れて行く。


 しかし、ここはいつでも慌ただしい職場だと感じながらも、俺は何も言わずに黙って連れて行かれた。


 なにせ、部長の顔に浮かんでいる眉間のしわはもはや絶対に取れること無いだろうと思われるくらいにくっきりと深く刻まれている。


 余計なことを言って叱られるのを喜ぶほど俺はマゾじゃない。

 俺らを乗せた車は王宮近くにある政府の合同庁舎の高層ビルに入っていった。


 俺らはそのまま高層ビルの高層階にある大きな会議室に連れて行かれた。


 会議室ではひな壇が作られており、ひな壇には偉そうな人が座っている。

 いや、ひな壇だけでなく、ひな壇に対面するように置かれた椅子には俺のことを尋問してきた総監が最前列に座って、その後ろには見たこともある人も多く、多分全員がコーストガードのお偉いさんだと思われる。

 それ以外にも背広を着た偉そうな人も多く、いったい何が始まるのか不安にすらなる。


 はっきり言って場違い感半端ない。


 俺らを発見した総監が声を掛けて来た。


 「お前ら何をしている。

 こっちに来て座らんか」


 俺らを座らせた総監もかなり心労が溜まっているような顔をしている。

 そう言えばコーストガードのお偉いさん全員に疲労感が漂っているのだ。

 つくづくここはブラックな職場だ。

 彼らの様子からそれははっきりと窺える。


 俺はさっさと殉職をするので良いが、俺の部下、特にメーリカ姉さんなどはこの先大変だなと正直彼女たちに同情をした。


 なにせ、あのケイトやマリアの面倒を見るだけでどれほど苦労を強いられるか、少し一緒に居た俺でもそう思うのだから、上層部がこれほど疲れるような職場だ。

 この先どれほどの無理難題が言われるか分かったものじゃない。


 俺はこの後どんなことが言われるか気にもせずに素直に同情していたのだ。


 どれくらい時間が経ったのだろう。

 5分と経っていないと思うが、急に会議室が静かになった。

 その後会議室に作られたひな壇の奥にある扉が開き、きれいな女性が入ってきた。

 みんなの様子から貴族の関係者だろう。

 コーストガードのお偉いさんに関係する貴族のご令嬢だろうか。

 本当にきれいな人だった。


 女性がひな壇中央に到着すると、一拍の間を開け女性の紹介が始まった。

 「ダイヤモンド王国第三王女、マリー・ゴールド・フォン・ダイヤモンド殿下だ」


 それを聞いた全員は一斉に頭を下げ礼をする。

 こういった席での礼儀作法など知らない俺らは、周りに合わせて遅れながら頭を下げた。


 すると、王女殿下が声を掛けて来た。


 「皆さま、頭をお上げください。

 此度陛下より、王国の英雄たちに勲章を授与するお役目を頂きました。

 王国は皆さまの御働きで救われました。

 陛下に代わりお礼を申し上げます」

 その後何故王宮での授与にならなかったかの説明もしてくれた。

 かいつまんで言うと、俺らは勲章を貰えるらしいが、その理由がどうも完全に国民にオープンにはできないようだ。

 そのために隠れての叙勲式になったことを詫びていたが、別にそんなの構わないと俺は思ったのだ。

 隠れての叙勲だが、全く秘密にする訳では無いときちんと説明してくれる辺り、この王女様は人の良い方なのだろう。

 なんでも直ぐの官報には発表できないが、ほとぼりが冷めた頃にきちんと官報にのせるので、俺らには不利益は無いとまで説明してくれた。


 いったいこの場合の不利益とは何だろうとは思ったが、流石にそこまでの説明は無い。

 まあ俺などが気にする内容じゃないのだろう。


 一連のお話の後に、メーリカからひな壇に呼ばれ一人ずつ勲章を手渡される。


 「メーリカ准尉殿。

 貴方は先の海賊との戦いにおいて国民の生命財産を身をもって守ろうとする英雄的な働きにより、王国は国民に対して面目を大いに保つことができた。

 ここにそれを賞して『英雄に贈るダイヤモンド賞』を授与する。

 なお、受賞者が奇跡的に生還したため、一階級の昇進も併せて命じる」


 その後ケイトやマリアと云った階級の高い順番に呼び出され一人ずつ勲章を渡された。

 ルーキーのリョーコが最後となりこの『英雄に対するダイヤモンド賞』の授与は終わった。


 ここまで来た時に会議室内は少々ざわつきだした。

 俺が授与されていないとか何とかの声が聞こえてくる。

 俺が貰えるはずは無いのだ。

 俺は総監に説明を求められた時にもきちんと説明してある。

 ケイトに殺され掛けて、気を失っていたので何もしていないと。

 只俺は彼女たちの上司なのでこの場にいるだけだと、この瞬間まで思っていた。


 そうしたら、最後に俺も呼ばれた。

 お情けで何か貰えるとのことだったので、俺もひな壇に上がった。

 近くで見ても綺麗な人だ。


 見とれていると、王女殿下は叙勲を始めた。

「ナオ・ブルース少尉。

 貴殿は英雄諸君を束ね、困難な任務を誰一人の犠牲も無く成し遂げた、その英雄たる資質と行動を讃え、ここに『英雄に贈るダイヤモンド十字賞』を贈る。

 この賞は王国が特に功在りと認めた者にだけ贈られる他の十字章と同様に将来その身をもって王国に特別の忠誠を誓うことを望む者にだけ贈る賞となる。

 汝は王国に忠誠を誓うか」


 流石に俺だって空気を読むよ。

 今まで王国に対して忠誠心など感じた事は無いが、ここでは誓わざるを得ない。


 「この身をもってすべてを捧げ忠誠を誓います」

 俺はそう言うと頭を下げた。

 すると王女殿下は俺に頭を上げるように言ってきたので、ゆっくりと、おっかなびっくりとだが頭を上げた。

 すると王女殿下は俺の直ぐ傍まできて、自ら勲章を俺に付けてくれた。


 これには俺も畏まらざるを得ない。

 いくら孤児院出身だと言ってもこれがどれほどの名誉な事かくらいは理解している。


 これで一連の授与式が終わったようだ。

 解散かと思っていたのだが、王女殿下がひな壇脇にある席に着いて、何かを待っている。

 すると今度は総監がひな壇に上がり俺を呼ぶ。


 俺は呼ばれるまま、もう一度ひな壇に上がり、総監の言葉を待つ。

 総監の横には人事部長が、良く卒業式に卒業証書などを入れてあるあの綺麗な箱を持って立っていた。

 

 俺は何が始まるのか興味を持って見守る中、総監がいちまいの書類を手にして読み上げる。


 「ナオ・ブルース少尉。

 只今を以て貴殿を中尉に昇進することを認め、貴殿自ら鹵獲してきた航宙駆逐艦をコーストガード所属とし、船体ナンバーKSS9999、船名『シュンミン(春眠)』の艦長代理を命じる。

 貴殿は3か月以内にこの『シュンミン』を現場で活躍ができるように準備するのが初仕事となる。

 頑張ってくれ」


 何だ『シュンミン』って、聞いたことないがきちんと軍艦に付けられる船体ナンバーも貰ったようなので、正式な軍艦なのだろう。

 それの艦長代理?

 え?

 俺が艦長代理だと。

 ならいったい艦長は誰が来るのだろうか。

 ちょっと待て、おかしくないか。

 俺の上に艦長が来るのなら俺は副長に任命される筈だ。

 だとすると、俺は先の回航と同じように艦長が来るまでのつなぎと云う事か。

 それで俺にあのオンボロ艦を整備させる命令が出たのだな。

 しかしコーストガードもずいぶん思い切ったことをする。


 俺が考え事をしていたので、人事部長が小声で俺に言ってくる。

 「何をしている」


 あ、式典の最中だった。

 俺は慌てて辞令を受け取る。

 「謹んで拝命します。」

 俺の動作がおかしかったのか、王女殿下は笑っておられた。

 しかし、これって、かなり面倒ごとにならないかな。

 ドックに運んで終わりじゃないよな。

 だって三か月の猶予まで付けられたということは何かしら俺もやらないといけない。

 ………

 あ、ひょっとして俺一人でやらされるのか。


 最後の心配だけは杞憂で終わった。

 俺の小隊員全員も今まで通り俺の指揮下に置かれた。

 なんだ、今までと変わりがないだけか。

 職場があのオンボロ駆逐艦に変わっただけだ。

 そう思ったら急に肩の力が抜けた。


 まあ、いつも通りのんびりやるよ。


 式典が終わり王女殿下や来賓?と思われるお偉いさんたちが会議室から出て行く。


 王女殿下が部屋から出て行くときにちょうど俺の傍を通った。

 その瞬間に王女殿下は俺に小声で「近いうちにお仕事を頼みますのでよろしくお願いしますね」と言い残してから去っていった。

 一体全体何のことだ。

 疑問ばかりが俺の頭の中を走り抜けていた。


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