問題の勲章
ナオたちは、その後宇宙港から輸送船に乗って、ルチラリアに向かい、ルチラリアでは飛行機や鉄道を乗り継ぎ軌道エレベーターまで到着した。
「隊長、疲れましたね」
「ああ、こんなに面倒だとは思わなかったな。
エレベーターはすぐにでも動かしてくれるらしい」
「ええ~、少し休みましょうよ」
「こんな辺鄙な場所じゃ休む処なんかないだろう。
さあ乗るぞ。」
軌道エレベーターの終点にある監視衛星まで直通で向かった。
途中にある観光スポットなどのステーションは通過させたが、通過中にマリアたちにかなり恨めしそうな顔をされた。
「休む場所あったのに~」
だと。
確かに観光スポットだからそれなりに楽しめたかもしれないが、そもそも宇宙に出ることを生業としている俺らに宇宙観光なんかで楽しめるものか。
時間も無いことだし、諦めてもらったが、後々まで言われそうだな。
監視衛星には俺らの使っていた内火艇が、残っていた。
どうも、あの船を管理している兵士たちが今でも使っているようだ。
内火艇の操縦士に行き先を告げ、航宙フリゲート艦に向かった。
航宙フリゲート艦の後部格納庫に内火艇が入ると、中で管理していた兵士が挨拶にやってきた。
「本部からの命令により、この船の回航を任されたブルース少尉だ。
責任者にお会いしたい」
「現在、この船の管理を任されております、ビスマス基地警備隊所属 第2警備小隊隊長のジャドー少尉です。
ブルース少尉の件は基地より指示を受けております。」
「では、早速だが引き継ぎをお願いします。」
ナオたちが到着した時には艦内ではすっかり引き継ぎの準備ができていた。
後部格納庫で引き継ぎが終わり、ナオたちが乗ってきた内火艇で帰っていった。
このフリゲート艦を小隊30名で管理していた訳では無く、10名ずつ3交代で管理していたようで、艦内には10名しか乗っていなかった。
なので、引き継ぎから退艦までが本当に速かった。
よほどここは居心地が悪かったんだろうか。
ナオはこの場で全員を集め、配置を決めた。
もうマリアたちの班だけで機関室には入れない。
メーリカ姉さんとも意見が一致したので、機関室はメーリカ姉さんの班の方が多くなるように配置を決め、一番怪しいマリアは艦橋だけの勤務として、一緒に艦橋に向かった。
「隊長、この扱い酷くはありませんか」
「酷くない、当然の措置だ。
早く艦橋に行って、出航させるぞ」
艦橋に入ると、なんだか懐かしい感じがする。
ここを離れてから数日しか経っていないし、何よりこの船に乗ってからもそれほどの時間が経っていない。
それでもここでの時間の内容が濃かったのかとても懐かしい。
「隊長、いや、艦長代行。
準備が整いましたよ」
「あ、悪い。
隊長でいいよ。
どうせ2~3日だけのことだ。
それでは出航するか」
と云いながら艦長席に付いた。
「エンジン、予備エンジンですが始動します」
「予備エンジン始動。
エンジン出力正常に上昇中」
「艦内各部、航行に必要なものはオールグリーン。
いつでも出港できます」
「では、メーリカ准尉。
出港させてくれ」
「了解しました隊長。
目標、首都星ダイヤモンド・衛星の月へ。
マリア、発進。
通常航行、速度2AUへ」
「メーリカ姉さん了解しました。
目標、首都星ダイヤモンド・衛星の月、速度2AU」
無事に航宙フリゲート艦を発進することができた。
運航計画は民間の航路を利用すると連絡してある。
なにせ、メインエンジンが壊れていて長距離を予備エンジンだけで移動するので、いつ何時遭難するか分かったものじゃない。
特にうちの場合、中から壊しかねない連中がいるので、笑い事じゃ済まされないので、遭難しても民間に発見してもらえる航路を選んだ。
そんな航路をゆっくりと進む。
そんな俺らの横を民間の輸送船などが倍近いスピードで抜かしていく。
中には軍艦が亀の歩みのような速度で移動しているのをからかうような無線を入れて来る船もあるのだ。
「隊長、この船は3AUまでなら安全に出せるので、出しましょうよ」
「いいんだよ、安全に運ぶのが最優先だ」
「くやしいよ。
民間のぼろ船にバカにされるのなんて、隊長はどうとも思わないの」
「バカにされても良いの。
安全が大事。
だいたいお前らがエンジンを壊していたから心配なんだよ」
「でも今の速度だと、惑星ダイヤモンドまで4日はかかるよ」
「4日かかっても良いよ。
想定の範囲だ。
だいたい旗艦での数時間の移動が異常なんだよ。
普通は数日かかる筈なの」
「それって貧乏旅行だよ。高速船なら半日で着ける筈だよ」
マリアとのくだらない会話からでも予定の日数が分かった。
計画を本部に出した時に計算しなかったかって。
俺がその計画を見ていないだけだ。
全部カスミが出していた。
できる部下がいると大変助かる。
そんな感じで4日間は本当暇な時間だった。
暇だが平穏な時間を過ごせたのは、ひとえにマリアを機関室に入れなかったのが良かったのだろう。
最初から知っていればあの時に機関室に入れなかったのに。
運よく問題にされなかったから良かった。
しかもだ、問題を発見されそうなドックに入れるのに立ち会えるので、ごまかしもお願いできよう。
このまま平和が続くことを祈ろう。
殉職を諦めたか?
いいえ、諦めてはいません。
ただ事故なんかで死ぬのは納得ができない。
やはり、殉職はかっこの良いセリフを吐いてからでないと死んでも死にきれない。
まあ、今回はとにかく安全第一でいこう。
ナオたちは順調に目的地に向かっている間、首都にあるコーストガードの本部では、新たな問題が上がってきた。
今回の事件での精算は関係者の処分と、陛下よりの下賜により、コーストガードの功績に対しての国からの報いは済んだことになった。
これはあくまでも国民に対しての事だけで、一番重要な功労者への評価が済んでいない。
王宮では、軍関係者を招いて協議を重ね、ナオたち第二臨検小隊全員への叙勲で落ち着いた。
問題はどんな勲章を与えるかだが、これは軍事に詳しいものから満場一致で『勇者に与えるダイヤモンド賞』で決まった。
しかし、この勲章が問題を孕むことになる。
そもそも、この勲章は主に英雄的な行動により、仲間を助け最大限の功績を残した殉職者に与えることの多い勲章で、当然叙勲とともに昇進もセットされている。
だいたいどこの国でも殉職者への報いとして2階級特進されるものだが、これは遺族に対しての遺族者年金などで報いるためでもある。
しかし、この勲章を得たものには生前にさかのぼり2階級特進とし、除隊に対する退職金も特進後の階級に準ずるものであるように優遇される大変栄誉ある勲章である。
しかし、この勲章は死者だけに与えるものではなく、生者にも資格があれば与えられるものだ。
過去にも大変稀ではあるが生者も与えられたことがある。
流石に生者に与える場合には必ず2階級の特進ではなく、ほとんどの場合が一階級の昇進を権利として与えられた。
極々稀ではあるが曹長から士官への場合や大佐から将官への場合などでは2階級の特進もあった。
曹長からの場合では准尉を飛び越え少尉に成るように、また大佐らの場合では准将を飛び越え少将へと2階級の特進した事例がそれぞれ一例づつあった。
尤も生者がこの勲章を受けるケースが非常に少なく、かつ、現場でのたたき上げで出世してきたものしか例が無かった。
そもそも当然の結果で、この勲章を受けるほとんどの場合が負け戦での殿を受け持つものに与えられてきたのだ。
死者も生者もほとんど、いや、全てがこのケースだった。
ここで誰もが少し考えればわかるように、このような時に殿を受け持つ者に俗にいうエリートと呼ばれる者がする訳が無い。
最前線で戦う猛者と呼ばれる者がその任に耐えるものだろう。
今回のケースでは、このような過去のケースよりもより鮮やかな成果を出したのだ。
少数の小隊を率いてあの強大な菱山一家のカーポネたちに臨んで完勝をもぎ取ったのだ。
しかも敵から2隻もの戦闘艦を鹵獲すると言った誰もが分かりやすい成果までおまけに付けてだ。
この勲章の主旨から見ても、これ以上に無いだけのことをしたのだ。
本来ならば国を挙げて勇者を賞するところなのだが、それをやると、コーストガードの瑕疵も表ざたになる。
コーストガードのことを国を挙げて積極的に庇う意味がある訳では無いが、政府の一機関であるために、やむを得ず庇わざるを得なかったのだ。
そのためにも、王室は英雄たちをきちんと賞する気持ちのようだ。
そこで、勲章の種類も決まった段階で、コーストガードに対して内定を知らせた。
組織内で、彼らをきちんと評価せよという意味を込めてだ。
この知らせも、王宮に勤める管財の課長から同期の総務部長へのリークという形で情報を流されたのだ。
その辺りの腹芸はこの人たちにはお手の物で、きちんと総務部長には王室の意図が伝わった。




