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けったいな異動命令


 中に入ると、これまた以前にお会いした人が苦虫を噛んだような難しい顔をして待っていた。


 「待っていたぞ諸君」

 待っていたのは俺らの方だ。

 二日とはいえ、何で俺らが軟禁されねばならないのか分からない。


 「お待たせしました。

 本部よりの呼び出しにより第三巡回戦隊航宙フリゲート艦『アッケシ』所属第二臨検小隊参上しました」

 

 「うむ、では始めようか。

 ナオ・ブルース少尉」

 「ハイ」

 「貴殿を特例により、航宙フリゲート艦『アッケシ』より出撃した時点まで遡り、アッケシ所属から外れ、首都宙域警備隊本部、総務部付きへの異動を命ずる。

 また、総務部内において小隊の編成を命じる」


 ???

 「何をしている」

 訳の分からない辞令を目の前で読まれたので、困っていたら怒られた。

 「は、謹んで拝命します」

 怒られたので慌てて拝命してその場を下がった。


 「メーリカ准尉」


 「ハ」


 「貴殿を航宙フリゲート艦『アッケシ』より出撃した時点まで遡り、アッケシ所属から外れ、首都宙域警備隊本部内に作られる小隊に異動を命じる」


 「ハイ、謹んで拝命します」


 続いて、第二臨検小隊全員への辞令が読み上げられて、この場は終わりのようだ。


 「以上だ。

 明日からは君たち用にここに部屋を用意するので、そこに上番するように。

 何か質問はあるかね」


 質問があるかじゃないだろう。

 全く分からないよ。

 いったいどこから質問したらよいか……


 「あの~、質問してもよろしいでしょうか」


 「何かね、確か君は……」


 「カスミです。

 第二臨検小隊マリア班軍曹のカスミです」


 「カスミ君。

 質問は何かね」


 「ハイ、私たちは明日から何をすればよろしいのでしょうか」

 カスミの質問はまさにこの場に居る全員の疑問だ。

 ナイスだ、カスミ。


 すると、只でさえ苦虫をかじったような顔をしていた係の人は、更に険しい顔をしてから答え始めた。


 「君たちは私たち総務の人間の仕事を知っているかね」


 「ハイ、現場のサポートですか。

 裏方のような仕事をしてくださると」


 「確かに私たちは君たちラインの裏方だ。

 スタッフと言い換えても良いが、その裏方の仕事とは、どんなものか教えよう。

 良いかね、我ら総務はここ首都宙域警備隊の雑用係だ。

 それも無茶振りされるありとあらゆることをさせられる。

 そう、今の君たちのような立場の人間の対応も含めてだ」


 「は~~」


 「君たちは明日からここで待機して、上から命じられることをこなすだけだ。

 安心しても良い。

 そう長くは待機させられないだろう。

 すぐに仕事が上から降って来る。

 それまで気長に待っていてくれ。」


 そう言う係官は今まで苦労してきたことを思い出していた。


 彼の名はボードン・フォン・ブルーギルと云うブルーギル男爵家の三男だ。

 相当優秀だったのだろうか、彼はナオ・ブルースが推薦を貰っていたあの第一王立大学のキャリア官僚コースの出だ。

 一応貴族階級に属していたことから順調にキャリアを重ね、ステータス的には劣ると言われているが首都宙域警備隊で官僚をしている。

 流石に彼くらいの家格では首都に居ることすら難しいのに首都宙域警備隊の本部で総務部長の職に就いていることからも運と実力を兼ねそなえた稀有な人物と云えよう。


 そんな彼ですらここ最近胃に穴が開くほどの心労を重ねているのだ。

 その主な原因は今から二日前に起こった。

 いや、正確にはそれ以上前に起こった事件のとばっちりを彼が受けたのが二日前の事だった。


 それはナオたちを乗せた第一機動艦隊が首都にあるファーレン宇宙港に帰って来たところから始まる。


 「部長、総監がお戻りになります」


 「そうか、分かった」


 「総監から指示が無線で出ておりました」


 「なんだ、指示とは、あまりいい予感は無いな。」


 「我々のところに来る話で良い話なんかありませんよ。

 部長の予感は確定でしょうね」


 「いいえ、副部長。

 それは違うかと」


 「ほう、では良い話だというのか」


 「いえ、『良い話ではない』じゃなくて『絶望的な話』の間違いかと」


 「なんだね、それは」


 「ハイ、なんでも今回の一連の騒動で、王室も動いているかと。

 既に王室の査察部が調査を始めたと聞いております」


 「そ、その話は誠か」


 「ハイ部長。

 既に警察本部内に捜査本部も立ち上げられました」


 「そ、そうか。

 ここでおびえていても始まらないか。

 すぐに会議の準備をするぞ。

 関係者を大会議室に集めてくれ」


 「ハイ」

 こんな会話から彼の不幸は始まった。


 総監が本部に帰ってくるまでに大会議室には本部内で働いている関係者は全員が会議室で待機していた。


 総監は自室に入ることなくこの会議室に入り、会議が始まった。


 「ただいま諸君。

 例の輸送船襲撃事件だが、海賊を蹴散らし海賊船二隻を鹵獲した隊員を無事に連れ帰ることができた。

 その際に今回の一連の出来事を私自身が彼らから確認することができたので、秘書から説明させる。」


 「ハイ、では私が総監に代わりましてご説明させていただきます。

 尚、現時点でのメモはおやめください」


 「悪いが、機密事項に触れる恐れがあるので、従ってくれ。

 方針を決めるまでだ」


 「では、説明に入ります」

 秘書はそう言うとナオから聞いた顛末を説明した。

 最後まで聞いたものの中から声が上がった。


 「今聞いた話だと、先に上がった報告とで差異が生じたな。

 実際に作戦に当たった者からの報告なので、こちらの方が正しいとは思うが、そうなると重大な問題が生じるぞ」

 そう言ったのはコーストガードで査察部門を率いる監査部長だった。


 「ええ、しかし今の説明で合点も行きましたね。

 隣から来た輸送船からの報告にも合致します」

 そう、隣とは警察本部のことで、同じビル内に本部を構えている中の組織だ。

 宇宙空間の出来事はコーストガードのテリトリーになるが、輸送船は港に入った後に港内の公安部に被害報告をしたのだ。

 この公安部を管轄しているのが首都警察本部だ。


 普通なら、この公安部は被害届を受け取ったら、そのまま担当であるコーストガードにこの案件を回して終わるのだが、今回はそうもいかなかった。


 まず、襲われたのがあまりに不自然だったからだ。

 レーダーも使えない宙域で襲われるには、あまりに偶然が重ならない限り、事前に航路を把握していないとできない。

 しかし、この輸送船は王国の重要な資源を運んでいる関係上、航路については完全に秘密にされている。

その秘密が何故漏れたかという疑問があったために、公安部署に調査を依頼したのだ。

 次に、実際に襲われていた時に、第三機動艦隊が付近にいたのにもかかわらず、救援もせずに離脱したことだ。

 これは明らかに業務放棄だと抗議も付けて被害届が出されている。

 

 普通ならコーストガードと被害者とで主張が異なる場合には、被害者側が襲われたことで混乱しているという理由で、コーストガードの主張が取り上げられて終わる。

 しかし今回の場合はそうもいかなかった。


 まずは被害届がコーストガードだけで扱われずに他部門も経由しているので、被害届そのものをごまかすことができない。

 また、被害届にコーストガードの業務放棄もあり、外部特に王室の査察部が出張ってきたこともその理由だ。


 こうなるとコーストガードも何もしない訳にはいかない。

 コーストガードとしても、この時ばかりは動きが早かった。

 いつ何時王宮から何かを言われるか分からない状況では、自身でも調査して火消しに走らないといけないとばかりに事件が発覚してから直ぐにコーストガード内の監査部が動き出したのだ。


 直ぐにアッシュ提督本人から事情聴取を行い、その後すぐに順番にポットー戦隊司令、ダスティー艦長にと事情聴取を別々に行って一応の報告書を作っていたが、先に挙げたように、被害に有った輸送船の報告とは異なっていた。

 そのためにナオたちが保護されるまではこの先の進展はなかったが、第一巡回戦隊がナオたちに接触したことで急に事態が動いたのだ。


 どうやら本件は被害に有った輸送船の方に真実が含まれていたのだ。


 それを総監が直に確認したので、コーストガードとしても決着を付けなくてはならなくなった。


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