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捕虜の引き渡し


 「私がそこのケイトたちの隊長を務めます。『アッケシ』所属第二臨検小隊 小隊長のブルース少尉です」


 「これは失礼しました。

 私は第一巡回戦隊旗艦『アカン』所属第一臨検小隊 隊長をしておりますグーズ少尉です」


 え? 

 俺に対して敬語だよ、敬語。

 ありえないでしょ。

 同じ少尉なんだから、こういう場合には先に任官したものが指揮取る筈だよな。

 先任士官とかいうやつ。

 これって軍だけってことは無いよな。

 まさかコーストガードでは無いとか……ありえないよ。


 「あの~、グーズ少尉、何故私に敬語なんでしょうか。

 グーズ少尉の方が先任だと思うのですが……」


 「確かに、ブルース少尉。

 しかし、少尉は軍からの……しかも、あのエリート養成校を出ているかと」

 はは~ん、これはあれだな。

 確かに今はというやつだな。

 あの学校を出た俺は、一応軍内でもキャリア扱いだからすぐにでも上に行くと思っての配慮だな。

 余計なお世話だよ。


 それは確かに、マリアたちに邪魔されてなければ今頃俺は大尉に2階級特進していたさ。

 そして足のない格好でふわふわ浮いてあなたに敬礼をしていたことだろうが、残念ながらマリアたちの、いやメーリカ姉さんの邪魔が入って、少尉のままだよ。

 くそ~、余計なお世話だ。


 「確かに軍からの出向ですから、ですが、いやなればこそあなたが先任ですので敬語はおやめください。

 軍に戻れば私は准尉ですからあなたの方が上官となりますし」


 「分かりました。

 では対等にということで。

 いきなりで、申し訳ないが、説明願えますか」


 「はい、では艦橋に案内しますので、歩きながら説明させていただきます」


 俺はグーズ少尉を伴って艦橋に向かった。

 途中で、約束通り、今までの経緯を説明しておいた。


 艦橋に着くころに、駆逐艦に乗っている捕虜と遺体の件も説明し終わり、グーズ少尉にその件の引き渡しについての言質を取った。

 喜べカスミ、苦労せずに引き渡すことができたぞ。


 艦橋に着くとすぐにグーズ少尉が俺に聞いてきた。


 「ブルース少尉、すまないが向こうの艦とは連絡が付くかな」


 「はい、大丈夫です。

 この艦内電話で話はできます。

 少々お待ちください」

 俺はそう断ってから、向こうの艦橋に居るカスミを呼び出した。


 「カスミ、聞こえるか」

 「はい、隊長。

 聞こえます。

 何でしょうか」


 「こちらいる第一巡回戦隊のグーズ少尉が、そっちに居る同僚と話がしたいそうだが、捕まえられるか」


「ハイ、今隣に第二臨検小隊のダリル少尉がおられますが、彼でも構わないでしょうか」


 「グーズ少尉、聞こえましたか」


 「ダリルなら申し分ない。

 悪いが代わってもらえるかな」


 「聞こえたな、カスミ」


 「ハイ、聞こえました。

 ダリル少尉、フリゲート艦の方からグーズ少尉がお呼びです。

 代わってもらえますか」


 そう言って、カスミが向こうでダリル少尉に電話を代わった。


 暫く電話口でグーズ少尉とダリル少尉とで話し合いが行われて、結論を見たようだ。


 「ブルース少尉。

 先ほど少尉の言っていた捕虜の件だが、確かに我々が扱いを代わろう。

 しかし、私の判断できる範囲を著しく超えたのも事実だ。

 ここには私の部下のほとんどを残すが、私は一旦旗艦に戻る。

 暫くここに居て貰うことになってしまうが構わないだろうか。」


 「ええ、今回のような場合、そう簡単に臨検が終わるとは思っておりません。

 戦隊司令の指示を待ちます。

 戦隊司令にそのようにお伝え願えます」


 「ブルース少尉。

 そう言ってもらえると大変助かります。

 なお、向こうの捕虜たちが居る保管庫だが、うちから兵士を監視のために出すので、安心してほしい。

 何なら向こうの兵士もこちらに引き上げても構わないぞ。

 船も我々が引き取ることもできる」


 「そのご提案、大変感謝します。

 早速で申し訳ありませんが、向こうに少数ではさすがにかわいそうなので、こちらに移動させていただきます。

 よろしいでしょうか」


 「ああ、向こうは第二臨検小隊全員が待機するので構いません。

 すぐにダリルにもそう伝えます」


 「隊長。

 私たちもそっちに行っていいって。

 これからすぐに行きますね」


 「ああ、カスミか。

 待っているよ」


 それからしばらくして、向こうに居た全員がこちらの艦橋に集まってきた。

 艦橋に居てもやる事が無いので、マリアたちだけにしわ寄せは行くが、艦橋と機関室に数人付けて、残りは士官食堂にでも行って休んでもらった。


 「隊長は良いのか」


 メーリカが俺に聞いてくるから俺は答えた。

 「ああ、こんな機会でもなければ艦長席に座れないからな。

 それにやる事は無いがここに居ない訳にはいかないだろう。

 士官が居なければ交代でもって云う手もあるが、仮にも士官がいる以上士官は残らないとな。

 その士官だが、ここには俺と姉さんしかいないから交代してもらうかもしれないが、最初は俺がいるから遠慮せずに休んでくれ。

 あ、サチは当番として艦橋に残っていてね。

 機関室にはマリアが残る人間を決めるだろうから。

 そうだろう、マリア」


 「ハイハイ~。

 私が残っているから大丈夫だよ。

 機関室は任せてね。

 と言ってもこっちでもやれることは限られているけどね」


 「隊長、大丈夫です。

 私がマリアの暴走は止めますので安心してください」


 「ひど~~い、カオリ。

 私暴走なんかしないから」


 「分かった分かった、任せるから何かあったらすぐに連絡してくれ」


 「ハイハイ、了解しました隊長」

 最後に心配になる会話をしたのがなんだかな~。

 まあ、どうせ待つだけだ。


 それから3時間後に、やっと動きがあった。

 なんと、進路を塞いでいた二隻のフリゲート艦が動きだした。


 ゆっくりと、非常にゆっくりとだがこちらに向かってくる。

 この船に二隻とも近づいてくるがどういうつもりだろう。

 一応艦内放送で知らせておくか。


 「え~、こちら艦橋。

 外の様子に変化アリ。

 フリゲート艦二隻が本艦に接近中。

 衝突は無いとは思うが、一応衝撃に備えるように。

 以上」

 これでいいだろう。

 あの海賊たちもエンジンを壊したのだ。

 それこそいきなり衝撃でもあったら、マリアが機関室で何をしているのか分からないのに、下手すりゃ爆発だってあり得る。

 それだけは避けておきたい。


 俺の放送の後にみんなが艦橋に集まってきた。

 正直みんな暇だったのね。


 「何だい何だい、何があったのか」


 「隊長、何か聞いていますか」


 「いや、何も」


 すると艦橋に今まで詰めていたサチが二隻の接近のコースを計算して、教えてくれた。


 「二隻は本艦を含む二隻を挟むように接近中。

 多分ですが、接舷するようです」


 「接舷か」


 「何か分かったのですか、隊長」


 「二隻の接舷なら、理由は限られる。

 まあ、捕虜たちの引き取りだろうな。

 あの駆逐艦ではここからそう遠くには行けそうにないしな」


 「どうやらそのようですね。

 二隻は間もなく接舷します」


 『ゴ~~ン』『ゴゴゴ~ン』

 二隻とも接舷したようだ。


 二隻の接舷から20分ばかりしたら、艦橋にさっき来たグーズ少尉またやって来た。

 「ブルース少尉。

 驚かせて申し訳ない。

 無線が使えないので、こうなってしまったことを詫びよう」


 「グーズ少尉、申し訳ありませんが接舷した理由をお教え願えませんか」


 「ああ、あの船に乗せてある海賊の遺体と捕虜の収容だ。

 人数が人数なもので、接舷させてもらった。

 うちのはチューブが使えるのでな。

 人数を運ぶには接舷するしかなかった」

 確かに捕虜だけでも内火艇の定員以上はいたのだ。

 内火艇で、護衛を入れて輸送しようものなら何往復もさせなければならないかわからない。

 レスキュー設備のチューブが使えるのなら、それこそさっさとチューブをつなげて移動させるのが合理的だ。


 しかし、チューブが使えるのなら実施するのに、なぜここまで時間が掛かったのだろう。

 俺が不思議に思っていると、グーズ少尉がすまなそうに俺に言ってきた。


 「作業をするのに時間がかかったことをお詫びする。

 なにせ、巡回戦隊だけでは判断が付かずに本部に問い合わせていた為、その返事を待ったのだ」


 「そうですか。

 なら我々もじきに解放されますね」


 「いや…… 

 申し訳ないが、君たちの処遇については、もうじきここに到着する第一機動艦隊の総司令官に任されていると聞いている。 

 我々は、移送が済み次第この宙域を離れるが、ブルース少尉は第一機動艦隊の到着を待ってほしい。

 これがその命令書だ。

 発行は第一巡回戦隊司令だが、正式な命令書なので、指示に従ってくれ」


 そう言うと胸から一通の命令書を取り出して俺に手渡してきた。

 これまたご丁寧に、艦内のプリンターを使って、その上に司令官のサインまである書式に則った命令書だ。

 ここまでされると、俺たちには選択権は無い。

 俺は命令書を読み、グーズ少尉に敬礼後に、命令を受諾した旨を伝えた。



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