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応急措置


 ラーニは今まで連れていた7名をそのまま借りて、艦橋の下の階にあるエアロックエリアに向かった。


 「どうやら、ここは普通に使えそうね」

 ラーニがエアロックの操作パネルをいじり、ドアを開けた。

 ドアのすぐ横に、緊急避難などで使うためのワイヤーユニットがあり、それも問題なく使えそうだった。

 「私がこれを使って、向こうに跳びますね」

 ラーニがワイヤーユニットを使い、自身のパワースーツにワイヤーフックを取り付け、備品として保管してある宇宙空間移動装置をつけ、航宙駆逐艦に向けジャンプした。


 そこからが大変だ。

 ラーニはこちらのエアロックエリア前にあるステージに着くと、直ぐワイヤーを所定の場所にフックを掛けてワイヤーを張った。


 そこから手にしたライトで合図を送ると、ワイヤーに滑車のような装置を使って次々に仲間が移ってきた。

 ちょうどワイヤーを挟んで両方の船に分かれて人が配置に着いた。


 そこまでしてから、ニーナが中に入り俺に向こうの状況を伝えてきた。


 「向こうの船には海賊は発見できませんでした。

 艦橋の占拠には成功したのですが、異常なまでのアラートが発生しており、状況が分かりません。

 とにかく艦橋のアラートを止めなければ、全く分からない状況です。

 メーリカ姉さんが言うにはマリアの班がこないと手に負えないと」


 それを聞いたマリアが俺に聞いてくる。

 「隊長、どうしましょうか」


 「行くしかないだろう。

 しかし……」

 俺はしばらく考えた後、マリアに聞いてみる。

 「マリア、この船とあの船の間で通信ができないか」


 「え?

 それはちょっと……無理かも。

 この船もそうだけど光通信はできそうにないよ」


 「光でなければどうだ。

 確か、ニーナたちはワイヤー装置で移動してきたのだろう。

 救助活動などで、有線通信を使うこともあると聞いたことがあるぞ。

 この話はかなり昔からある筈だから、この船にも装置がある筈だが、どうだろう」


 「マリアさん。

 私見ましたよ。

 エアロックエリアに、その緊急避難用として確かにありました」


 「それなら大丈夫ですね。」


 「よし、ならこの船には俺の他二人いればいいだろう。

 残りは向こうに移動して姉さんを助けてやってくれ」


 「それなら私が残ります」


 「え?

 カスミが残ってくれるのなら安心ね。

 でもあっちがちょっと心配かも。

 行ってみなけりゃ分からないか」


 「そうか、ではカスミ悪いがここで俺とお留守番だ。

 残りは移動開始だ。

 あ、あのワイヤー移動装置はいつでも使えるようにはしておいてくれ。

 何かあったらすぐにこっちに逃げられるようにな」


 「分かりました。

 エアロックエリアにも人を残しますね」


 「ああ、そうしてもらえると良いかな。

 あ、全員と連絡が付くようにしておきたい。

 電話の傍にいてくれ」


 「分かってます」


 1時間後、ナオたちが占拠した航宙駆逐艦からマリアたちが航宙フリゲート艦に移っていった。


 マリアたちが艦橋に入るとすぐに、鳴り響くアラートの音だけを消すことに成功した。

 その後マリアたちの班全員で、アラートの解析とその処置をはじめた。


 ちなみに俺は、宇宙空間に出る可能性も考え、結局向こうのフリゲート艦から避難用スーツを持ってきてもらった。

 あっちの船の方が断然新しく、この避難用スーツも今軍で使用している物と同じものだった。

 正直あの古いものでは怖くて外に出られなかったと言う訳だ。

 ニーナが言うには、あっちのエアロックエリアの脇にあるロッカーに多分使われた形跡の無いものが多数保管されていたという。


 海賊たちがこの船をどのように入手したのか気になるところだ。


 マリアたちが艦橋内の警告音を止め、じっくりと原因を探すと、とんでもないことが判明した。

 「隊長大変、大変」

 マリアから電話が入る。

 「なんだい、マリア。

 また騒いで、何がそんなに大変なのか。

 海賊本隊が戻ってきたとでもいうのか」


 メーリカとも電話で話せるようになっている。

 いや~、連絡が付くだけで離れていても安心できる。

 あ、いや、まだ駄目だ。

 また、マリアが何かを見つけたようなので連絡が入ったからだ。

 

 「メーリカ姉さん、冗談でもそんな怖いこと言わないで。

 あ、それどころじゃないです。

 この船危ない」


 「だからなにが危ないのだ」


 「この船の生命維持装置や人工重力発生装置などがバッテリーだけで動いています。

 そのバッテリーも警告発しています。

 充電残量が警告領域になっていると」


 「どれくらい保ちそうか」


 「分かりません。

 ただ、この船まだ新しいから、今の軍での仕様で考えますとあと数時間てところですか」


 「あと数時間か。

 仕様上ではという話だと5~6時間くらいは持ちそうだな。

 とにかく、予備動力だけでも稼働させないとまずいな」


 「そうですね、もうこの艦橋だけでどうにかなるレベルじゃないですね。

 それにやれるとこもそんなになさそうです」


 「マリア、どうにかなりそうかな」


 「分かりません。

 一度動力ユニットに行って確かめないと」


 「そっちの艦橋も留守にはできないな。

 手分けすることになる」


 「まだ電力が供給されていますから艦内電話が使えますよ」


 「分かった、連絡が取れるのなら手分けしてくれ。

 艦橋にはマリアの班から操縦などに詳しいものを二人位残して、あとここの警戒として姉さんの所の半分ってところかな」


 「そうだね。

 ここには私が残ろう。

 ケイト、半分を連れてマリアを守ってやってくれ」


 「分かりました姉さん」


 海賊の使っていたフリゲート艦に移ったマリアの班は全員でこの船の動力ユニットが収められている機関室に移動した。


 「あちゃ~、これは酷いね。

 とりあえず手分けして、まずアラートを止めないといけないね。

 マニュアルは見つかった?」


 マリアは機関室に入ると開口一番に仲間に声を掛けた。

 「マリアさん、ありました。

 きちんと法規通り、エンジン制御盤の横のロッカーに収められていましたよ。

 今、封印を外しますね」


 このロッカーは古くは宇宙全体が一つにまとまっていたころから踏襲されている宇宙船基本法に準拠して、遭難時のレスキューがエンジンなどの操作ができるように保管が義務付けられている奴だ。

 そのために、普通はこのマニュアルは使われることなく、しっかりと封印されている。

 この封印は物理的にしか取れない。

 早い話がすぐ脇にある斧で、ロッカーのカギを壊すのだ。

 

 なぜここまでされているかというと、エンジンコントロールの際に、制御する人間を識別するキーがあるが、担当者以外の人間でも、この場合レスキュー隊員を想定されているが、そのレスキューに来た人間がエンジンなどの重要な操作ができるように暗号カードも一緒に入っている。

 これが無いと、資格の無い人間ではどんなに知識があってもエンジンなどは操作できない。

まあ、ハッカーのような連中から見たらこの保安装置はざるだと言われているが、それでも、攻撃などの武器に関する以外の制限がこれにより解除できる。


 なので、このような場合には最初にこれを確保する必要がある。

 マリアたちも、ここに入った時に最初にこれを探したのだ。


 「ありがとう。

 ではこれを使って、マニュアル通りにエンジンを停止させるか。

 え~と、最初に、これをマニュアル・モードにしてから……」


 「マリア、調子はどうだ」

 艦内放送で艦橋からメーリカが声を掛ける。


 「あ、メーリカ姉さん。

 今始めたところ。

 これから一旦エンジンを止めるね」


 「え、エンジンが止まってるんじゃなかったっけ」


 「実際にはエンジンは動いていないよ。

 でもシステム的にはエンジン稼働中なの……

 え、ええ~」


 「どうした、マリア。

 何があったのか~」


 「エンジンの出力操作が変なの。

 出力148%になっている。

 これじゃあ、壊れても不思議じゃないよ。

 いったいぜんたい海賊さん達は何をやっているんだか。

 直ぐに止めますね。

 カオリ、燃料操作弁1番から順番に止めて行ってね」


 「ハイ、マリアさん。

 では一番止めますね。

 続いて二番………八番止めました。

 これで全部止めましたよ」


 「カオリありがとう。

 エンジンを停止します。

 メインスイッチをオフにします。

 メーリカ姉さん、隊長、聞こえますか。

 エンジンを止めるの成功しました。

 これで本当の原因を探れますよ」



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