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鳴りやまないアラート


 それから30分かけて慎重に船を接舷させた。


 「メーリカ姉さん、頼むね」


 「任せて、隊長」


 「少しでも怪しいと思ったら、直ぐに逃げろ。

 最悪、この船で逃げるから。

 内火艇じゃないから生き残る可能性は全然違うし、絶対に無理はするな」


 「分かっています。

 それじゃ~、行くよ」


 「「「ハイ」」」


 艦橋のあるフロアのすぐ下の階に脱出用の入口があるので、メーリカは自分の班を連れて航宙駆逐艦から出て行った。


 航宙駆逐艦の艦橋でひたすら待つだけの時間が過ぎていく。

あまりに暇なためにナオは海賊船の監視に疲れて、壊れたパワースーツの代わりを探した。


 こういった船には必ず緊急時のための生命維持装置付きスーツが必ず準備されている。

 戦闘を目的としたパワースーツではないが簡単な船外活動くらいはできるやつだ。

 まあ、目的は緊急避難の際に船外に出られることを可能とするためなのだが、船舶基本法で艦橋には準備が義務付けられている。


 海賊が法律をまともに守るとは思えないが、それでも本来装備された奴があるかもしれないという可能性に掛けて、緊急備品の格納されている場所を探した。


 艦橋内中央艦長席の下に緊急備品が保管されていた。

 これは艦長を守る目的で、艦長専用の物だろう。

 しかし、封印が相当古い。

 封印の年代が読めないが、下手すればこの船が作られた時に収められたやつかもしれない。

 だとすると半世紀近く前のものだ。


 使えるのかな~。


 「艦長、メーリカ姉さん、大丈夫ですよねって、あれ、何しているんですか」

 「ああ、姉さんなら俺を簡単に殺せても、あの人はそう簡単には死なないよ。

 尤も実際に手を下したのはケイトだが」


 「何を言っているんですかって、それより何か探しているのですか」


 「ああ、船外活動ができるように、緊急用のスーツをな」


 「避難用スーツですね。

 そんなところにあるのですか」


 「ああ、この船は軍艦だろう。

 軍艦は艦長を守る仕組みが沢山施してある。

 この緊急備品も艦長用だ。

 最後まで指揮をとれるように、艦長席で事足りるように工夫されているもんだ。

 ほらあった。

 しかし、相当に古いな。

 これ使えるのかなって、使って大丈夫か」


 マリアたちとそんなたわいもない会話で時間を潰した。



 そのころメーリカは、海賊船に接舷した右舷から乗り込んでいた。


 「全員乗り込んだな」


 「「「ハイ」」」


 「ラーニ、悪いが半数を連れて後部格納庫から侵入。

 侵入後、可及的速やかに艦橋を目指せ」


 「ハイ」


 「途中何があるか分からない。十分に周囲を警戒せよ」


 「分かりました、姉さん」


 「ケイトは3人を連れて、そこのハッチから艦橋を目指せ。

 警戒は十分にな」


 「残りは私に付いて艦橋まで外から行く。

 艦橋脱出用ハッチから乗り込む。

 とにかく全員で艦橋を目指す。

 艦橋の占拠が最重要だ」


 「「「ハイ」」」


 「では、作戦開始」


 メーリカの号令で一斉に散らばっていく。

 隊長とも意見が一致したことだが、この船には誰もいない筈だ。

 もし、予想通りなら艦橋に一番乗りできるのはメーリカだが、残りもそれほど時間を空けずに艦橋までくるはずだ。


 全員がそろえば、警戒も十分にできるだろうから、今起こっている不可解な現象もその理由が分かるだろう。


 メーリカは無重力空間の特性を利用して、どんどん艦橋に外から宇宙遊泳などを使って向かう。


 ラーニも後部ハッチに着くと、そこは既に内火艇などが出払った後なので、後部ハッチは全開だ。

 しかし、内部は薄暗い。

 ラーニは付近を警戒後に偵察を出した。

 直ぐに偵察が戻り安全を一応確保して全員が乗り込んだ。


 最初にまず安全の確保だ。

 人の隠れることが可能な場所は全て確認後、初めてゆっくりと周りを見渡した。


 「ラーニ、どう思う」


 「確かに異常だな」


 「異常ってもんじゃないよ。

 何このアラートの数。

 警告灯が全部ついているじゃん。

 こんなの見た事が無い」


 「ああ、こうなるとマリアたちじゃないと分からないな。

 まあ、私は姉さんの命令を素直にこなすだけだ」


 「そうだね。

 艦橋に行けばもう少しわかるかも」


 「ああ、それじゃあ前進。

 艦橋に向かうぞ」


 ラーニは7名の仲間を連れてどんどん奥に入っていった。


 艦内はいたるところで警告のアラート表示が点滅している。

 空気のあるエリアに入ると、今度は音も加わり、かなりやかましい。


 これはラーニの処だけが経験したことでは無く、ケイトたちも同様で、艦橋ハッチから中に入るとすぐに空気のあるエリアになったが、同じように警告ばかりだ。


 「ケイト、不安にならない」


 「十分に不安だよ。

 でも、隊長のために頑張るしかないよね」


 「あなたはそうでしょうね。

 危うく隊長を殺しかけたのだからね」


 「それも2度よ」


 「もうそれ以上言わないで。

 それよりも、早く艦橋に行こう。

 何かわかるかも」


 艦橋にいち早く突入できたのは、メーリカだった。

 どこからも邪魔をされずに、艦橋の窓に取り付けた。

 窓から覗くと艦橋内は薄暗くあり、奥に人が残っていても見えなかっただろう。

 それ以上にメーリカが気にしたのは壁一面にある計器類が一斉に異常を知らせるアラートを発していることだ。


 「これは変だな。

 まあ、いつまでもこうしていては埒もあかない。

 そこから突入するよ」


 メーリカが艦橋横にあるハッチを開けて中に入る。

 続いて数人が中に入り、ハッチを閉じる。

 ハッチ開閉時に艦橋内の空気が外に吐き出されたが、それも収まり、艦橋内の気圧も元に戻ると、メーリカはアラートが発する警告音が気になりだした。


 「これはまいったね、話もできそうにないよ」


 「姉さん、何か言ったの」


 すぐ横に居たバニーがメーリカに聞いている。

 本当に会話に苦労しそうだ。


 そうこうしていると、ケイトが艦橋に入ってきた。

 途中には誰も居なかったようだ。

 本当に予想通りの時間に入って来たので、メーリカがケイトの直ぐ横に行き、耳元で会話を始めた。


 「誰も居なかったようだね」


 「ハイ、姉さん。

 途中どこでも警告音ばかりで、それでも探しましたけど、誰も居ませんでした。」

 「どうやら船内はどこでも警告ばかりかね。

 これは、早くにマリアたちを連れて来ないといけないね」


 「ラーニがここに着いたら呼びにやるか」

 今艦橋に居る全員で手分けして、せめて音だけでも止めようと、コンソールをいじり始めた。


 それからすぐにラーニたちも合流した。


 「メーリカ姉さん。

 到着しました」


 「あ、ラーニ。

 途中どうだった」


 「誰も居ませんでしたね。

 これは総員退船の命令が出されましたね。

 とにかく慌てて逃げ出したような跡ばかり、後はここと同じアラートの嵐ですね」


 「原因は分かりそうか」


 「全く。

 マリアでも呼ばなければお手上げですよ」


 「だろうな、私もそう思う。

 悪いがマリアを迎えに行ってはくれないか」


 「良いですけど、うちの内火艇でも使いますか」


 「いや、ここからワイヤーを張らせよう。

 ワイヤーを使って人を連れて来させてくれ。

 それなら簡単に行き来ができそうだ」


 「分かりました。

 下のエアロックエリアから私たちが外に出て、向こうの艦橋にあるエアロックエリアの間にワイヤーを張ります。

 直ぐに準備します」


 「ああ、確か向こうの船にも脱出用にワイヤーユニットがあったから、こっちにもある筈だ。

 それを使えばすぐにでも張れるだろう。

 残りは付近の警戒だ。

 まだ安全が確保されていない」


 「「了解しました」」


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