チャンポンな部隊構成
あけましておめでとうございます。
お約束しております、期日に書き上げることができませんでしたので、まだ途中ではありますが、ストックがある分だけ投稿してまいります。
ストックが尽きる前に書き上げられれば良いのですが、とにかく頑張りますので、できた分だけでもお楽しみください。
『バクミン』から事前に移動航路を無線で送られているので、追いかけるのに何ら問題は無かった。
それに、暗黒宙域に入るまでは定期的に現在地も送られていた。
「あと2時間もあれば合流できます」
俺の考えを見透かすかのように旗艦艦長のメーリカ姉さんが俺に報告してくる。
「しかし、戦力を揃えたと言っても、ずいぶんなチャンポンですが大丈夫ですか」
こういう事に軍ではそれなりの用語があったような気がする、俺も正直習っているはずだが、そんなのは忘れてしまった。
それに俺は軍での経歴が全くない。
多分、軍でもこういうケースを経験しているような連中はほとんどいないから、ひょっとしたら目の前にいるメーリカ姉さんの様に言っているかもしれない。
多分だが、こういう場合混成などと言うのだろうが、確かに広域刑事警察機構軍と機動隊は同じ広域刑事警察機構に属しているし、常に一緒に行動もしているから問題もないが、正確には別組織になるので、俺らはいつも混成部隊での行動になるが、しかし……
今回の部隊構成は明らかに異常だと俺も思う。
何より、軍の陸戦隊が今回の主力となるが、それに加えて、軍警察までも行動を共にする。
こういっては何だが、取り締まる側と取り締まられる側とが一緒に行動するのだ。
普通なら絶対にやらない、いや出来ないケースだ。
なにせ、指揮命令系統が全く違うので、軍では命令系統の確立ができそうにない。
ただでさえ、軍は他の政府機関との合同作戦を嫌うし、何より、軍と軍警察との合同作戦など、今までは絶対にありえないことだ。
その辺りを、コーストガード時代に他所から見て軍の特徴をよく知っているメーリカ姉さんは心配している。
「ああ、今回はあまりに異常だ。
だから俺も現場に出張ることにした」
「な!」
秘書のイレーヌさんが思わず声を上げた。
絶対に反対する勢いで驚いている。
しかし、旗艦艦長であるメーリカ姉さんは、驚きはしたが少し考えているようだ。
この状況では、ある意味やむを得ない事を理解している。
でないと現場で混乱する。
軍が主導すればいいが、今回、軍の方は全くやる気を感じない。
だからと言って、機動隊のアイス隊長が軍を使いこなせるかというと、まず無理だろうし、軍も言うことを聞かないことは誰が見ても明らかだ。
なら、機動隊だけでという訳にはいかないだろう。
あのシシリーファミリーの拠点攻略の時ですら、軍の陸戦隊一個中隊の他に特戦隊を組織しての制圧だった。
尤も特戦隊には俺の同期であったルーキーたちも多数いたが、それにしたって、それだけの戦力を投入して制圧に成功したのだ。
今回は機動隊に軍警察が一緒であるから戦力的にはあの時よりも上回っているが、やる気と云うかモチベーションが全く違うのが問題だ。
あの時は少なくとも制圧の指揮を戦隊司令が行っていたわけだが、今回は中隊長自身がそれを行うかというと、甚だ疑問だ。
だとすれば、少なくとも現場かそれに近い場所で、戦隊司令クラスの指揮官が必要になる。
これは、ある程度現場を知る者にとっては、いや、ここまで見えるのはある意味相当優秀でないと無理か。
だからなのだろう、今までコーストガードでは評価されていなかったが、はっきり言って相当優秀なメーリカ姉さんは、俺が現場に出ると言っても反対するそぶりを見せない。
そんなメーリカ艦長に対して、イレーヌ秘書官が助けを求めるように声を上げた。
「艦長。
艦長からも反対してください。
何で、戦隊司令が一々現場まで出張らないといけないのですか。
ありえないでしょう」
メーリカ姉さんは少し考えてから、イレーヌさんを説得するように説明を始めた。
「確かに一々戦隊司令が現場に出張ることは異常ですが、私たちはその異常ばかりを目の前の司令に命令されて、今日まで生き永らえています。
それに何より、今回ばかりは現場に必要になるでしょう。
でないと仲間の機動隊までもが危険にさらされます」
「そもそも危険な現場でしょ」
「戦闘という意味ではそうですが、私が心配しているのは、無能な官僚の邪魔で起こり得る危険性についてです。
今回連れている軍が無能とまでは言いませんが、それでも戦術的な判断ができるとは思えません。
少なくとも、以前に拠点制圧した時は、軍でも戦隊司令が直接指揮を執っていましたから成功できたのではと考えています。
尤も、戦隊司令は現場直ぐ傍の艦からでしょうが現場には少なくとも航宙フリゲート艦の艦長自ら出張り指揮を執っていました。
今回は、その役を私ができれば良いのですが……」
メーリカ姉さんには分かっているようだ。
メーリカ姉さんの権限はあくまで広域刑事警察機構軍内だけにあり、外に対しては中尉階級でしかない。
しかも、軍では我々の階級を一つ下に見ている節がある。
これは、軍の天下り先でもあったコーストガードでの慣習のせいでもある。
殿下はそれを嫌い、軍からの天下りをできる限り受け入れておらず、また、出向者に対しても階級の無条件での格上げもしていない。
それでも、長らく続く慣習と言うか、軍で根付いた考えというのは無くならない。
しかも、格下扱いの俺たちに功績という面では遥かに後塵を拝している現状に対して、含むものが無い筈も無い。
それだけに、明らかに階級が上でも無い限り、軍が素直に従うことは無い事は明らかだ。
幸いと云うか、俺には出発前に作戦指揮権が付与されていることをメーリカ姉さん知っているから、反対もせずにいる。
でも、それだけでないような気がしてならない。
すると、カスミが艦内スピーカーで、報告してきた。
「艦長。
『バクミン』を発見。
あと30分で合流できます」
「そろそろ作戦の開始時間か」
「司令……」
イレーヌさんはまだ諦めていない。
メーリカ姉さんがカスミの報告を受けて艦橋に戻ると、直ぐに大声が聞こえて来た。
「ケイト。
直ぐに一隊を組織しろ。
司令が乗り込むので、司令の護衛だ。
ケイト自身が指揮を執れ」
「え、私も現場で暴れても良いの、姉さん」
「暴れるのは他の奴の仕事だ。
お前は、司令の御守……護衛だ」
声が大きいのと扉が開けっ放しのお隣での会話だからしっかり聞こえたよ。
姉さん、遠慮なく御守と云ったけど、悔しいが、いざ戦闘ともなれば否定はできない。
しかし、ケイトに再度締め落とされるのだけは遠慮したい。
その後、メーリカ姉さんは艦内電話を使って機関室を呼び出している。
「マリア。
この先、艦での戦闘は期待できないから、暇だろう」
「え、姉さん。
暇と言えば暇になるけど、私に何か用でも……」
メーリカ姉さんの口調が完全に昔に戻っているので、元の部下たちもそれにつられて昔の口調で答えて来る。
それだけ、今回の件ではメーリカ姉さんも緊張して余裕が無いのだろう。
何分、自分にはほとんど危険性はない。
しかし、上司である俺の命が、誰がどう考えても非常に危険になるのだ。
自分では何もできないことにイライラしながら次々に指示を出していく。
「ああ、ケイトと一緒に司令をお守りしながら敵地に乗り込む。
私が行けない代わりをしっかり2人で補え」
「え、それって。
私もあっちに乗り込んでも良いの」
「良いのではない。
司令と一緒に行って、しっかりお守りするのだ。
どんな手段を使っても良いが、一つでも司令に傷を付けて見ろ、五体満足で帰れると思うなよ」
え、メーリカ姉さん。
何を言っているの。
誰が聞いても、まともな組織内でかわされる会話じゃ無いよ。
「分かった。
それじゃ、新兵器を持って行っても良いよね。
ラフレシア2号を使うけど、問題無いよね」
「ああ、あれか。
……
まあ良いか。
許可する。
だが、何度も言うが、お前たちは司令の御守だ。
それを忘れるな」
今、マリアの口から今まで聞いたことのない花の名前を聞かされたが。
それに何より、メーリカ姉さんのあの間が気になる。
絶対まともなものでは無いだろう。
しかもラフレシアって、あれって大きな花だよな。
大きいだけでなく、あの花の持つ特徴が、あの独特な悪臭が酷いと聞いたことがあるが、そんなの実際にしかも閉鎖された空間で使って大丈夫なものか。




