即席のチーム
「ちょっと待ってくれ。
司令殿は、今ここに集まった連中だけで海賊の本拠地に乗り込むつもりか」
「集まっただけと言っても、私が指揮できる人なんか一人もいません。
ですから要請を出すだけですが、同僚でもある機動隊の皆さんは参加で良いですよね」
「ああ、そのつもりだ。
ナオ司令。
しかし、今回ばかりはちょっと不安はあるがな」
「不安ですか」
「ああ、敵さんの規模が見えない以上、不安はあるな。
なにせ今度の相手はあの菱山一家だろう」
「え、菱山一家」
「「「え~~」」」
「「「そんなの聞いていないぞ」」」
アイス機動隊長の発した一言で、周りが騒ぎ出した。
「え、皆さん聞いていなかったの。
とっくに常識かと思っていたけど」
「まだ、そうと決まった訳ではありませんが」
「よしてくれ。
それしか考えていないのだろう」
「一応、菱山一家の線は濃厚かとは思っておりますが、それ以外にシシリーファミリーの残党とか、他の海賊の線も捨てた訳では」
「ああ、分かったが。
司令はこの人数で大丈夫と考えているのか」
「一応最悪には備えますが」
「具体的には」
「場所が暗黒宙域であるので、今回の作戦では多少の無理は効きます」
俺はそう切り出してから説明を始めた。
暗黒宙域である以上、まず飛び道具は俺たち以外にはあり得ない。
なら、奇襲ならば敵基地内に橋頭堡は作れるだろう。
その上で、敵の反撃を見てから考える。
無理そうならば作った橋頭堡を放棄して逃げ出せばいいだけだ。
送り込んだ人が完全に撤退するのを待ってから、魚雷攻撃で、基地ごと粉砕することも考慮に入れていることを話した。
「既に私は司令の指揮下にあります。
是非お連れ下さい」
俺の説明を聞いてか知らないが、あのシャー少尉がうれしい事を言ってくれる。
「直ぐに準備できますか」
「ええ、私の小隊以外に同僚の小隊も、召集が掛かった時に集まってはおります。
だが……」
「パワースーツの準備がまだと言うのですね」
「恥ずかしながら」
「ここにはお持ちでないとか」
「いえ、ここに来る時に持ってきているのですが、あいにくコンテナの中に仕舞ったままでして、出したことが無くて、その時間が……」
「ああ、それならコンテナごと『バクミン』に積んでください。
移動中に準備して頂けたら問題は有りません。
それに突入は2番手以降になりますから」
「それは……」
「あ。いや、決して軍警察の皆さんのお力を疑っている訳では無いのですが、私たちの突入方法が異常でして、その……」
「司令、私から説明しましょうか」
流石にできる人は違う。
アイス機動隊が困っている私に代わって機動隊の突入について説明してくれた。
「アイス隊長。
今回はその他にも新兵器を積んできましたから、それも試しますね」
非常に嬉しそうにカリン先輩も不気味なことを言い始める。
「後で、その新兵器についてきちんと説明を聞くことにするから。
それよりも、陸戦隊の皆様には、私からお願いしかできませんが、いかがしますか」
「あの、私は一介の小隊長でしかなく、その……」
「ああ、それでしたら、私から戦隊司令にお願いをしておきましょうか」
「いえ、報告は必要ですが、それよりも少しお時間を頂けないでしょうか。
準備の方はすぐにでも出来ますが、中隊長に報告と許可を求めたく……」
「あまりお時間は掛けられませんが、分かりました。
カリン艦長。
機動隊及び軍警察を乗せたら先行して向かってくれ。
できる限り早い段階で状況を知りたい」
「分かりました。
現地で、情報を収集して司令の到着をお待ちします」
カリン先輩の力強いお言葉で、この会議は終わった。
部屋から出て行く面々を見送っていると、トムソン室長がボソッと一言。
「俺からは5人までしか出せないが、連れて行く」
え、来る気があったの……
「司令、第11課も半分の10名を預けます。
好きに使ってください。
しかし……」
そうだよな。 監察官は監察するのが仕事だ。
荒事も時にはあるだろうが、宇宙空間での荒事など想定すらしていないだろうから、準備の方が間に合わない。
具体的にはパワースーツを持っていない。
なので、活躍するとしたら、敵基地を制圧後の調査になってからだ。
でも、協力を申し出てくれたことには正直感謝しかない。
現場で、色々と政治向きなことを判断しないといけない時には、丸っと責任を……
そもそも俺は現場であたふたするのに向いているだけの小市民だ。
一緒ならばこれ程心強い事は無い。
「分かりました、同行願います。
こちらからお願いした位ですから、感謝しかありません」
急に基地内が慌ただしくなってきた。
先の陸戦隊の小隊長も、慌てて宇宙港に車を走らせている。
面倒だが、宇宙軍戦隊司令にも一言入れておかないとまずいか。
あ……良い事思いついた。
「監察課長。
俺の方から応援でこちらにいる戦隊司令に状況を説明しますから、監察の方から戦隊に向け応援の依頼を出してもらえませんか」
「え、それは……」
「ええ、敵さんが逃げ出さないとも限りませんので、状況と、もし逃げ出すとすれば予測されるエリアも併せて伝えておきますから、そちらの方に出張ってもらえないかと」
「ああ、そう言うことですか。
なら、最初に私から話を通しておきます。
その後の情報を、ナオ司令の方から軍に情報だけでも出していただけますか」
俺にとっては最高の提案だった。
だって俺の指揮下でこの作戦は行われないと、目の前の監察課長が言ってくれる。
これは、いわば王宮が指揮する作戦だ。
これ以上、俺の悪目立ちは無くなるし、もし空振りだとしても言い訳も立つ。
いや~~、良好な人間関係ってこういう時に役立つんだよね。
俺の方は、殿下に作戦の骨子を説明しておこう。
ああ、監察官の多大なる協力についても併せて報告しておくか。
俺が殿下にどう報告するかを考えていると、先の監察の課長さんは自分の携帯端末を取り出して、目の前で使い始める。
いきなり戦隊司令に、それも携帯端末でお願いするのか。
俺が驚いていると、どうも違う。
聞こえて来る言葉が乱暴だ。
後で知ったことだが、この人、宇宙港に詰めている第13課の課長に連絡を取っていたようだ。
この課長って、目の前にいる人の後輩で、先輩後輩の間柄だというので、先のような感じだった。
だって、絶対にあれ、お願いしていなかった。
口調そのものは柔らかかったが、命令だよ、どう聞いても断れない感じだった。
それだからなのか、第13課の課長も相当無理をしたのか、こちらに詰めている宇宙軍の戦隊指揮権を、どうすればできるか俺は知らないが、事実上の指揮権をもぎ取っていた。
その上で、陸戦隊の指揮権を俺に投げ寄こしてきた。
俺も経緯が良く分からないまま、そんなことになったので、俺は急ぎ宇宙港に第11課の課長と一緒に向かった。
宇宙港では宇宙軍総出では無いかと誤解するような盛大な出迎えを受けながら初めて戦隊司令と面会した。
少しやつれている様にも見えるが、俺は何も見ていないことにした。
いったいどんな手を使ったのか少し怖くもあったが、俺はありがたく陸戦隊の指揮権を頂いた。
正直良かったよ、俺の階級が大尉まで上がっていて。
陸戦隊中隊長も階級は大尉だったのだから。
これが少佐でも微妙だが、俺の広域刑事警察機構軍での階級が少佐だから、無理押しでどうにかするが、相手が中佐だったら、それこそ俺にどうしろというのか、そこまで考えてから指揮権を俺に渡せよと言いたかったが、流石に言えないわな。
目の前にいる監察官の人たちが、宇宙軍戦隊司令に行った同じ手段を俺に使わないとも限らないが、いったいどうやって指揮権をもぎ取ったのか。
いや、余計なことに首を突っ込まない。
好奇心は猫をも殺すじゃないが、知らないなら、知らない方が幸せってこと、世の中には割と多い。
しかし、いきなり中隊を預かるのだ。
俺がお世話になっている基地まで陸戦隊の中隊を丸々移動となると手間ばかりで大変なので、俺は準備が終わった『シュンミン』をこちらの宇宙港まで回してもらった。
『シュンミン』の方はすぐにこちらまで来てくれたので、ガチ装備の宇宙軍1個中隊をそのまま『シュンミン』の後部格納庫から入れて、直ぐに『バクミン』を追いかけた。
ちなみに、俺たちについてくることになっている監察官の10名は、すでに『バクミン』で出発済とのことだ。
あ、指揮権を無理やり奪った第13課の課長さんは、こちらも宇宙軍の戦隊に同行して宇宙に行くそうだ。
流石に第11課の課長さんも行きたそうにはしていたが、まだまだジンク星でやる事があるとのことで、残って指揮を執ると言って、宇宙港で俺たちと別れて行った。




