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治安警戒令

 

 今は、念のため症状の出ていなかったケイトやイレーヌさんの治療もしてもらっているので、栄えある二番と三番の患者はあの2人となった。


 なんでも厨房でも重宝している細胞活性化装置が大活躍だとかで、体内の血液の透析を行う過程で、免疫力を強化させているので、直ぐに治療が済んだとか。


 まあ、透析しているので2時間はかかったが、こればかりはいくら進んだ技術でも変わりがないらしい。


 でも、何故クローさんが毒の治療に詳しかったかと言うと、あの臓器売買に無理やり協力をさせられている時に何度も扱ったことがあると言っていた。


 海賊たちに無理やり協力させられた初めの頃は海賊たちは末期がんや服毒自殺者、ガス事故などで死にかけた連中をどこでどう仕入れてたのかは不明だが、この治療ポッドを使って、解毒後、臓器を一切合切取り出して殺していたらしい。

 流石に、王国では助からない連中だと分かっていたので、ここまではどうにか自分を納得させることができたらしいが、金持ちの要求は留まるところを知らない。

 事故物件よりも新品が欲しいとかで、臓器売買の仕入れの主力が子供に移っていったそうだ。


 何も罪もない子供から臓器を取り出す罪の意識に相当悩んでいたが、今までにすでに何人も殺めていたこともあり、あの時にはほとんど心が死んでいたとも言っていた。


 俺も人のことは言えない。

 流石にあの時は俺がこの手で装置を止め、子供の命を奪ったものだ。

 自分の命が助かったとほっとしたのものの、いやな過去を思い出した。

 このことは、心の片隅に追いやり無理やり忘れようとしていたのかもしれないが、本来は忘れてはいけないものだと、自分の業を改めて認識した。


 まあ、何が幸いするか分からないが、それにしてもスプートニク伯爵は無理をする。

 死ななかったからいいようなものの、毒まで使って俺のことを暗殺しようとするとは、相当恨まれているのかな。


 イレーヌさんの治療も一段落した後に、資料を持ってクローさんが俺のことを訪ねて来た。


「司令。

 後で要求されると思い、報告書をまとめておきました」


「ありがとうございます。

 しかし、実際暗殺され掛けるとは思いませんでしたね」


「そうですね。

 普通はそういう経験はしないでしょう。

 でも、もし、司令が助からなくとも、ここでの検視だと死因不明で処理されるかもしれませんね」


「え、それはどうしてですか」


「王国では未知の毒ですから。

 それも致死量となるのが微量ですし、検出まで、相当時間を掛けないと無理ですね。

 あ、これが毒に関するデータです」


「え、これはどうして……」


「あの治療ポッドってものすごく優秀なんですよ。

 聞いたところでは、あれ一つで宇宙クルーザー1隻分くらいするらしいですよ」


「え、そんなに高価なのですか。

 そんな高価な装置を野菜に使うなんて、誰も知らないからできることですかね。

 それよりも、優秀な治療ポッドが、何か」


「ええ、あれって、分析装置まで付いているのですよ。

 分析できなければ治療の幅は減りますから。

 その装置を使って出されたデータです。

 これ上に報告しますか」


「しない訳にはいかないでしょ。

 クローさんの方から殿下に提出した格好にしておきますね。

 クローさんは私の命の恩人ですから」

 あのままお陀仏でも良かったんだが、俺ばかりか部下たちまでも殺そうとしたスプートニク伯爵だけは許せないな。


 流石に今度のことで俺も怒ったが、俺以上に怒りをあらわにしたのが殿下だ。

 トムソン室長から殿下に直接俺の暗殺未遂が報告されるや否や、殿下は王宮に対してジンク星系全域に戒厳令を引くことを要請したのだ。


 流石に人一人の暗殺、しかも未遂では戒厳令などひかれる筈も無く、ましてや惑星だけでなく星系全域などありうる筈も無いのだが、それでも監察が動いていることもあり、王宮でも無視はできずに宇宙軍にジンク星の一部に治安警戒令の発動を命令したのだ。


 俺がゆっくりとポッドで寝ている間にここまで事態が進んでいたのには驚いたが、殿下も分かっていて演技しているのではと勘繰りたくもなる。


 何せ、今の状態は殿下や監察関係者にとってこれ以上に無い状態なのだ。


 今この町に軍より発令されている治安警戒令とは、戒厳令とは違い市民生活には直接影響はない。

 何ら市民生活に制限が加えられるものでは無いが、軍関係者が治安部門の上位になり、軍からの全ての命令を受けざるを得ない体制のことだ。


 これは特権を有する貴族に対しても有効で、一般兵士と言えども、貴族に対して命令を発することができる。

 必要と有ればこの星系を有する辺境伯でさえ軍関係者の命令を聞かなければならないのだ。

 尤も、実際にはあり得ない状況であるだろうし、もし仮にそう言う場面になった場合でも、普通は丁寧にお願いをする格好になるだろう。


 でも、軍に隠れて監察官は遠慮なく捜査をするだろうが、とにかく、脛に傷を持つ上層部はたまったものでは無い筈だ。


 逃げ出すものまで現れたのだ。


 逃げ出すと言っても財産全てを持って夜逃げなどできる筈も無く、直ぐに用意できる現金や宝石類を持って他の星系や外国に出張や旅行に出るものが後を絶たない。


 それも、宇宙軍がこの星に来るまでで、宇宙軍が来れば宇宙港は軍の管理下に置かれる。


 先にも言ったが、一般市民の出入りに関しては何ら制限は行われないのだが、宇宙港のそこかしこにフル装備の軍人が警戒している。


 また、出入国も軍が直接確認を行うことになるので、貴族などが相当な理由もなくこの星から出ることも憚られることになる。


 なので、今この辺りはちょっとゴタゴタしているらしい。


 俺は、あれ以来基地から出ていないので直接周りの雰囲気を知ることはできないが、基地に出入りしている捜査員や協力してくれる警察関係者などの様子からも伺われる。


 宇宙軍は宇宙軍で、今まで人事の大幅な変更などもあり、どうにかやっと機能できるまでになったばかりで、王宮からのこの命令だ。


 面倒ごとは誰でも嫌がるのは、古今東西を通して人の普遍的な性質なのだろう。


 命令は首都星にある軍本部で受けているが、命令を受けた軍本部は今ごたごたしている第一艦隊に対して面倒な命令を出したくはない。


 そこで、大きな失点をしたばかりで、弱みを持つ第二艦隊に対して命令を発したのだが、第二艦隊も第一艦隊同様にごたごたしている。

 いや、ある意味第一艦隊よりも混乱は酷いともいえる。


 そこで、頭の良い参謀たちは考えた。


 今軍の中で、一番混乱の無い部門はどこか。

 そう、唯一軍警察だけは今までの粛清の嵐からは一切被害を受けていなかった。

 この先の捜査でどうなるかまでは分からないが、末端はまず無いだろう。

 話を戻して、第二艦隊参謀部はすぐさま基地の置かれている星に駐在している軍警察に上から来た命令を丸投げした。


 参謀やその上に当たる司令部に直接の命令権は無いので、丸投げでも丁寧なお願いの形を取る。


 それでも、軍警察も軍の本流に当たる司令部からの依頼は無下にはできない。

 それに今回のお願いの出どころは王宮であることも知らされているし、何より仕事の内容が治安関係とあっては、軍警察の範疇にも属する。


 ジンク星系は一応第二艦隊の管轄圏内であることもあって、首都星軍警察本部に確認後に、この依頼を受けることになった。


 第二艦隊も、流石に移動手段を持たない軍警察に対して、航宙イージス艦1隻に航宙フリゲート艦4隻からなる一個戦隊と同時に暴動などに備えて、戦隊に所属する上陸戦隊1個中隊も併せて派遣を決めさっさとジンク星に送り出した。


 第二艦隊としてはこれ以上面倒ごとに関わりたくないのか、今回ばかりは仕事が早かった。


 俺がポッドから出て最初に受け取った報告書には、メインとなる宇宙港に宇宙軍第二艦隊所属の先行突撃戦隊が到着したことだった。


「ねえ、これって挨拶居るのかな」

 俺は秘書に報告書について質問をしてみた。


「通常ならば挨拶は必要ですね。

 ただ、今回の場合こちらから相手を呼びつけることになるでしょうから、もし、司令が気に入らないのならば呼ばなければ良いだけです」


「え、俺の方から出向く必要は無いの。

 だってあちらのお偉いさんの方が職位は上だよ」


「ええ、司令の階級は宇宙軍では大尉のままですし、ここ広域刑事警察機構軍でも少佐ですから、先方の戦隊司令よりは階級は下になりますね。

 ですが、司令は今やこの国で三番目に生まれた軍のトップでもあることから、儀礼的なことは気を付けないと殿下の体面を傷つけることになります。

 今回の場合は、非常時ですし、指揮権の問題も発生してしまうために、司令の方から出向く訳にはいきません。

 まあ、向こうもこちらから呼び出さなければ来ないでしょうからお相子ですね」


 俺はイレーヌさんの意見を受け、何もしないことを選択した。


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― 新着の感想 ―
[一言] 殿下の要請で宇宙軍が出張ってくるとなれば、頭の黒いネズミはたまったものじゃないでしょうから。脛に傷を持つスプートニク伯爵の周りは、一挙に離反が始まってるのでしょう。 その内勤勉なカリン艦長が…
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