今度は毒殺?
いつもはひっそりとしている宇宙港だが、既にそこには先客が待っていた。
殿下が依頼した監察官を乗せた殿下のクルーザーが端に留められていた。
着陸後に、俺はイレーヌさんを伴って事務所に入る。
事務所の中はちょっとした騒ぎになっている。
広域刑事警察機構の捜査チームの他に王宮監察部のチームが二つも本部を置いている。
尤も、捜査室の面々も査察官がほとんどが出払って仕事をしているから、ここには指令役の人たちがひっきりなしに入って来る情報の整理に追われていた。
俺はちょうど目の前を通り過ぎたトムソンさんを捕まえて状況を訪ねた。
「トムソンさん。
お忙しそうですが、その後何かありましたか?」
「何かありましたかって、それどころじゃ無いよ」
トムソンさんは俺を見ると急に俺に近づき、話してくる。
「ちょうど良かった。
司令に聞きたいことがあったんだ」
かなり慌てた様子のトムソンさんは俺を引っ張るように部屋の中に連れて行った。
俺を席に着かせると同時にグロ映像の写った端末を俺に渡してきた。
え、何、いきなりど左衛門ですか。
「この人で間違いないか」
「トムソンさん??
いきなり何を……」
「ああ悪い、続きを見てくれ。
生前の写真も最後にあるから」
そう言われて俺は、端末を操作して最後までグロ映像を見た。
正直見たくないものばかりだったが、最後だけは見覚えがある。
「あ、この人」
「やはり、この人で間違いないか」
「え、ひょっとして、トムソンさんは俺が前警察に御厄介になった時のことを言っていますか」
「ああ、司令を捕まえようとしたのはこいつで間違いないか」
「ええ、この人だと思いますよ。
でも、その前の……」
「ああ、昨日水死体で見つかったよ」
その後トムソンさんが少しづつゆっくりと話してくれた。
何でも、第13課の監察チームが到着するや否や、俺のことを調べ始めたというのだ。
一応、俺が前に教えられた手順に沿ってのようだが、監査チームは俺の身柄拘束のための証拠を集める体で捜査を始めた矢先に、俺のことを捕まえようとした刑事さんが行方不明になったとか。
俺が任意同行でお邪魔した警察署に対して、件の刑事さんを呼び出してもらったら、一向に呼び出しに応じないから、不審に思った警察の方も調べると、俺との件の後の足取りが全くつかめないとかで、捜索依頼をかけて暫く放っておかれたとか。
この星では現場に出張る刑事の行方不明は珍しくもないのだと。
どんだけ治安が悪いのかと正直不安になることをトムソンさんは言っていたが、潜入捜査を平気で行うらしいから別段誰も気にしていなかったところに、昨日港で打ち上げられている彼を地元の人が見つけたとか。
地元警察は事故として処理をするようだが、それを監察官が止めて、司法解剖に回しているらしい。
珍しくもないとはいえ、あまりにできすぎたことで、流石に監察官も事件性ありとして捜査するようだ。
尤もトムソンさんが言うには、監察官は大手を振って警察に捜査に入れるから仮に事故だとしても事件性ありとしていただろうと言っていた。
まあ、トムソンさんも「口封じだな」とも言っていたが。
あまりに物騒だ。
そこで、昨日からここも警戒態勢を引いてこの件に掛かりきりになっている。
今、先行してトムソンさん達と一緒にここに来た第11課も含めて、この件を最優先で捜査しているので、ここが今の様に慌ただしくなっている。
正直また宇宙に逃げ出したくなってきた。
ジンク星の治安関係の人たちは別段変わりはないそうだが、上層部は何やら動いているらしい。
そこまではここでも掴んでいるが、この後どういうことをこちらにしかけて来るかは不明なので、俺にも十分気を付けるように言ってきた。
どのように気を付ければ良いのか俺には全く分からないが、トムソンさんも相手が何をしてくるか不明なので、こちらとしてもやりようがないとも言っていた。
はっきり言ってトムソンさんにもわからないらしい。
まあ、俺もこの星でやらなければならないことなどあまりないので、基地内で過ごしていたら、あのスプートニク伯爵からお呼び出しだ。
正直、完全にクロだろう、あの人。
そんな人に呼び出されても行きたくはないのだが、呼び出しの名目が、海賊相手に関して地元の宇宙治安部隊との会議を開きたいと言っている。
宇宙治安部隊、これはこの辺りを領している貴族が持つ私設の軍隊で、俺たちが鹵獲したフリゲート艦も、宇宙軍からこの部隊に譲渡されていることになっていた。
そう言う名目なら、流石に顔を出さないといけない立場らしい、俺は。
俺は秘書のイレーヌさんと、護衛としてケイトを連れて町に出た。
会場は、前に待ち合わせをしたこの星一番のホテルだが、あそこってあのスプートニク伯爵の息が掛かっている場所だろう。
絶対に何かありそうだ。
ホテルに着くとバンケット会場に会議を開けるように設定されているとかで、直ぐにその場所に案内された。
普段は宴会やら結婚式やらを行う場所らしく、かなり豪華な造りだ。
こんな場所では成果の出る会議など俺にはできそうにないと思ったが、貴族を招く会議では割と当たり前とか。
そういえば殿下と回った時にも、こういう場所ばかりだった。
でも、あの時もただの挨拶程度で、会議とは言えないものばかりだったが。
会場には既に俺以外のメンバーはそろっていたので、約束の時間前だが、会議は始まった。
酒を飲みながらの会議って、意味あるのか。
それでも、今までの海賊取り締まりについて説明して2時間の会議は終わった。
無事にタクシーで基地まで着いた、そう、タクシーの中までは無事だったと言えるとは思うが、基地について30分も経たずに俺は倒れた。
当然意識まで飛んでいたので、この後のことは覚えていないと云うよりも知らない。
基地は大騒ぎになったが、『シュンミン』には優秀な部下たちが全員そろっていたので、俺は事なきを得た。
ケイトとイレーヌさんも、俺の後で健康診断をしてもらうと、両者からも毒が検出されたと報告された。
毒の効き目は人それぞれのようで、多分、会議で出された酒に混入していたと思われる。
なにせ俺は周りから相当酒を進められて、かなり酔っていたことまでは覚えている。
それに何より、ケイトやイレーヌさんと俺とでは鍛え方が違う……自分で言っていて恥ずかしくなるが、そうとしか言えない。
これは主治医のクローさんの見解でもある。
そのクローさんが言うには、俺は運が良かったらしい。
完全な治療であったようで、俺に使われた毒について、今の王国では『シュンミン』もしくは『バクミン』でしか治療ができないだろうとまで言っていた。
王国では知られていない毒のようで、解毒剤が王国には無いことになっている。
まあ、この毒を持ち込んだ連中は持っているだろうが、俺を毒殺しようとしている連中が俺を助けるために使うはずがないと思うので、まずあの時に俺は死んだことになる筈だった。
さらにたちが悪いことに、この毒は遅効性で、ホテルでは多分問題無いだろうが、帰りのタクシーか、基地内で殺そうとしたと思われる。
これを使った連中は相当たちの悪い方法を選んだようだ。
でも流石にクローさんだけあって、簡単に治療してくれた。
クローさん曰く、「この新設された治療ポッドの栄えある一番患者は司令になりましたね」だって。
何が栄えあるだよ。
でも、クローさんはこの治療ドックを何度も使ったことがあり、しかも体内の毒素の治療も相当数経験済みだったとかで、俺の症状を見るとすぐに治療してくれたそうだ。




