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身元引受人

 

「どうしましたか」


 警察官の1人が聞いてきたので、私服警察官に代わり俺から説明を始めた。


「なんでも、この人が俺のことを緊急逮捕すると言っているのだが、令状もなしに逮捕される訳にはいかず、いや、そう言えば、俺不逮捕特権とか言ったかそう言うのがあるので、ここで逮捕されるとまずいんだわ」


「まずいのはお前だ」

 先の私服警察官はすっかり怒り心頭の様だ。


「いやいや、俺をここで逮捕すると、あなた方が非常にまずい立場になるようですよ」

 俺はそう言って、前に貰ってから一度も開いたことに無い手帳サイズのハンドブックを取り出して説明してみた。


「なんでもスパイなどから情報が抜かれることを避けるために与えられる特権であるようですね。

 犯罪を犯しても捕まらない訳では無いようで、令状を王宮に送れば、監察部が審議後に私の身柄を確保して、その後は軍法会議に掛かるのだと言っていたな。

 以前に、私は軍により監禁されたことがありましてね、国が大騒ぎになったことがあったのですよ。

 その後、俺には責任が無い筈なのにしっかり監察部からお叱りを受けましたから、覚えております。

 まあ、かなり古い法律のようで警察官でも忘れ去られているかもしれないと、言っていましたね。

 あ、あの時の監察官は警察とは言わずに官憲と言っていましたが」


 俺の周りにいた警察官は例外なく固まった。

 『これはやばい』って感じなのだろう。


 まあ、ここまで大騒ぎになったので、うやむやにはできなくなり、結局制服組の警察官の乗ってきたパトカーに乗って警察署に向かった。


 警察署では署長自ら出迎えてくれて、署長室で取り調べになり、薬物検査及び持ち物検査を済ませて完全に容疑は晴れた。


 その際、俺のことを捕まえようとしていた私服警察官の顔は真っ青になっているが、これはあれだな。

 どこで情報が漏れたのか知らないが、俺にたかろうとでもしていたのか。

 正直気の毒に。 

 前に監禁された時は、まだ俺たち広域刑事警察機構軍は無く、戦隊も正式な軍では無かったので不逮捕特権は持たされていなかったが、俺のことを叱った監察官は準ずる地位にあるので、そんなことは断れと言っていた。


 ものすごく理不尽なことを言われたことをものすごく良く覚えている。


 署長直々に捜査したことになり、私服警察官は俺に何かをしようにもできずに、困ったことになるようだ。


 まあ、令状もなしにいきなり緊急逮捕は不逮捕特権が無くてもまずいだろう。


 暫くすると、あの出張所から俺の秘書官が身元引受人として俺のことを迎えに来た。

 警察署長の前で秘書役のイレーヌさんは担当した警察官と二三やり取りをした後に、無事に俺は解放された。

 警察署長からは散々謝られたが、彼も巻き込まれただけの被害者であるし、加害者はいったい誰って感じのちょっとした事件だった。


 警察からはパトカーで送ろうかとの提案も受けたが、流石にこれは俺の方が遠慮して、タクシーを呼んでもらい、そのタクシーで基地に帰っていった。


 俺が警察署でかなり時間を取られていたこともあり、一緒に出掛けたトムソンさんも既に基地に帰っていた。


「あ、トムソンさん」


「ナオ司令。

 聞きましたよ。

 とんだ災難でしたね」


 そこから飲み直しじゃないが、軽く酒を飲みながらトムソンさんとイレーヌさんを同席させて話した。


 近くにキレイどころが居るのだから、彼女が嫌がらなければご一緒したいと思うのは男なら誰でも抱く感情だ。

 ……いや、トムソンさんは違うようだ。

 酒を飲みながらだが、仕事モードだ。

 警察署での様子をイレーヌさんから聞いていた。


「司令、嵌められましたね、私たちは」


「私たち??」


「ええ、あの後の話し合いですが、何も別室でするようなものではありませんし、司令も同席しても構わない内容でしたしね。

 いや、司令にも聞いてもらいたかったようなものまでありましたし、私と司令を別けるために、と云うよりも司令を1人にさせる口実のためですね」


「俺を1人にして何するんだよ。

 海賊にでも売り飛ばそうってか」


「とにかく司令の身柄を押さえるのが目的でしたね。

 警察署に出向いたことは司令のファインプレーでしたね。

 尤も警察署長もグルでなければの話ですが」


「え、そんな大事」


「ええ、なにせ今回のことは治安部署のトップが仕掛けてきましたから」


「スプートニク伯爵か。

 そういえば彼が俺のことを呼び出したわけだしな。

 それも、大した理由もなしに……

 そう言うことか」


 どうもこの星は殿下の云う通りかなりやばいらしい。

 それも警察の上層部が敵側のようで、本当に気を付けないとまずいことになりそうだ。


 俺が警察に身柄を押さえられたことは、イレーヌさんが警察署に来る前に殿下に報告を入れているから、本部ではちょっとした騒ぎになっていたようで、翌日本部に連絡を入れた時にはマキ姉ちゃんから怒られた。


 警察から解放されたのならすぐに連絡を入れろと言うのだ。


 俺は、本部に報告が行っていることなんか聞いていなかったし、え、酒が入っていたが、あの時にきちんと報告したって、それならあの時俺に連絡を入れるように言ってよ。


 その日の昼過ぎに基地までスプートニク伯爵本人がやってきて、俺に詫びを入れて来た。


 警察の手違いで、申し訳ないと、だが、大げさにすることは無い事なので、本部に連絡を入れてくれと言っていた。


 俺は何のことかわからなかったが、とりあえずスプートニク伯爵の依頼を快諾して、その日は別れた。


 伯爵が何でそんな依頼をしたか分からないが、俺はすぐに殿下と連絡を取った。


 殿下が言うには、『良い口実ができた』とのことで、その日のうちに王宮に依頼して監察チームをジンク星に送る手筈を整えていたそうだ。

 その上で、殿下にスプートニク伯爵は『その監察チームを止めてくれ』と依頼したのだろうと言うのだ。


 ならそう言えよと俺は心の中で思ったが、話を続けると、でも殿下も監察部も止めるつもりは一切なく、既に首都星を出発しているというのだ。


 名目は俺の身柄の拘束のため。


 そういえば、不逮捕特権の時に警察官に話したが、俺って、警察からは逮捕できなかったんだ。

 そのためのチームを送ることになっているようだが、俺の身柄の保護のために新設された監査部特別監察チーム第13課10名が全員殿下のクルーザーでこちらに向かっている。


 既にトムソンさんと一緒に第11課の10名がジンク星で調査のために暗躍中なので、ジンク星に監察官だけで20名もの人が来ることになる。


 流石に悪いことをしていなくとも20名もの監察官が来るなんて聞いたら俺だっていやだな。


 俺は叩いたくらいでは埃は出ないだろうが、それでも重箱の隅をつつかれれば怒られるようなことはいくつも出るだろう。

 ましてや、貴族なんか、悪い事なんての基準が庶民から比べれば格段に緩くなっているだろうし、それもいくつもあるだろうから、監察官なんかとお友達になりたくは無いのだろう。


 忙しいさなかにわざわざ伯爵本人が詫びを入れてきたことを考えると、相当嫌な事らしい。

 元々俺たちがこの星にいることが既に邪魔なのだろうから、無理をしてまで俺を排除しようとしたのだろうし、この先波乱の気配が。


 君子危うきにじゃないが、ここはさっさと宇宙に逃げることにした。


 直ぐに『シュンミン』を出航させて、暗黒宙域傍の接続領域にて『バクミン』と合流。

 状況を説明後に、しばらく戦隊で、暗黒宙域の探索を行う。


 3日ばかりを探索に割いたが、広い宇宙、たとえエリアを暗黒宙域に限定したとしてもたった二隻の宇宙船ではどうこうなるものでは無い。

 まあ、これは想定済なことなので、諦めることなく、俺たちが作っている航宙図に記録していく。


 一度、戦隊の首脳を集めて打ち合わせを『シュンミン』で行った。


「どうしますか、司令」

 旗艦艦長のメーリカ姉さんが口火を切る。

 色々と状況を説明させた後に、今後について話が始まる。


「気長にやるしかないかな」


「司令、『バクミン』ですが……」


「ああ、分かっているよ。

 ここから、接続領域を経てニホニウムに単艦で戻り、補給及び休息を取ってくれ。

 俺たちの方は地上のサポートのためのデモンストレーションだ」


「デモンストレーション?」


「ああ、目立つ場所で、調査をする。

 さすれば地上のお偉いさんは俺たちの行動を気にするしかない」


「何かあったのですか」

 カリン先輩が俺に聞いてきたから、俺は警察に捕まったことを簡単に説明しておいた。


 周りからは失笑と『何をしているのかな』って感じのため息が聞こえたが、俺のせいでは無いし、一応地上の悪巧みについての憶測を話しておいた。


「下は酷いことになっていますね」

 カリン先輩がこぼした言葉に皆納得したのか頷いていた。


 この後、俺たちは『バクミン』と別れて、一度商用航路に戻り、1日だけ調査のための航行を行い間借りしている宇宙港に戻った。


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― 新着の感想 ―
[一言] まさかの逮捕2回目 まあ未遂ですけど笑 続きが楽しみです
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