映画のワンシーンのような
その後、情報を交換して今後について確認していく。
「ということで、航路管理局の宇宙港をベースに置くが、交代で地上に戻るようにしておこう」
「司令、それは何故ですか」
「幸い俺たちの艦は外からは見分けにくい。
派手な塗装もしてあるから、前部ハッチを除けば同じになっているので、ジンク星の連中には俺たちの動きが見えにくくなるためだ」
「と言うと……」
「今後も分かれて行動していこう。
でも、交代で地上に降りていれば外から観察している連中からは頻繁に地上に降りて来るとしか見えないだろうから、かなり自由に行動できるし、何より地上で捜査に当たっているトムソン室長の援護にもなるだろう。
補給については俺が本部に戻って行うから、宇宙空間で隠れて行うとしよう」
「そこまで、警戒しないとまずいですかね」
すると殿下が俺の言葉を継いで話してきた。
「あそこは、どんなに警戒してもし過ぎることはありませんね。
監査部も上層部全てを疑っていますから。
まず、危険を避ける意味でも司令の意見は妥当だと考えます。
それよりも、補給も全て本部で行いましょう」
「それは良いお考えですね。
幸い、『シュンミン』も『バクミン』もここから半日も掛からず本部にもどれますからね」
その日の話し合いで、必要最低限しかジンク星に降りないことを確認したのだ。
尤も、降りずに済むのは『バクミン』のみで、俺たちにはと云うよりも俺には関係がなさそうな話だ。
政治向きとまで言わないが、あそこには嫌なつながりもできてしまい、ちょくちょく顔を出さないとまずい。
その後『バクミン』と別れた俺は、殿下を本部にお連れして、とんぼ返りでジンク星に戻った。
ジンク星エリアに戻ると、バクミンを一旦地上に戻そうと考えたが、考えれば怪しいジンク星に降りる必要はない。
何より先の殿下との話し合いで『バクミン』がジンク星に降りる必要性がなくなったのだ。
この件は何も悪い話ではない。
移動に際して経費は余計に掛かるかもしれないが、それでも乗員の安全を考えると本部のあるニホニウムの方が遥かに安全だし、そう言った安全面の余計な経費まで考えると妥当な考えになる。
なにせ俺らは俊足を誇るのだ。
ニホニウムに戻ったとしても、大した時間ロスは無いので、『バクミン』に補給のためのニホニウムへの寄港を命じた。
それで、俺らは問題のある接続領域に入り、探索を始めた。
3日後に『バクミン』が当エリアに戻るのを確認後、『シュンミン』は一旦ジンク星に降りた。
当然、あの歓迎を受けた宇宙港では無く、俺たちが借りている出張所に併設?いや、宇宙港に併設されているのが出張所??分からないがあの辺鄙なところにあるさびれた小さな宇宙港に降りた。
「やれやれ、俺としてはこういった宇宙港の方が落ち着くのだがな」
「司令、それは私も一緒です」
艦長のメーリカ姉さんが同意してくれる。
ここでの寄港は補給のためでは無い。
補給は殿下を御連れした時にしてあるし、何より、ほとんど使っていなかったので余裕であと一月は宇宙に滞在できるのだが、敵さんの目を欺くための措置だ。
これは、この出張所にいるトムソン室長からの要請でもある。
俺たちが頻繁にここを利用して宇宙に行ったり来たりをしていないと、俺たちの意図を勘繰られるというのだ。
なので、俺たちは寄港後、最低限の人以外を残して、寄港モードとしてある。
しかし、場所が辺鄙な所とあってか、いや、あいつらの趣味嗜好が、この星に合わないだけなのかはこの際置いておいて、基地から出ようとはしていない。
食事だって、『シュンミン』で摂る徹底ぶりだ。
まあ、二人しか働いていなかった出張所に食堂を求めるのは酷だろう。
捜査員たちは、皆自炊して凌いでいるが、俺たちが寄港時には『シュンミン』を喜んで利用している。
普段は絶対に近づきすらしなかったのに現金なものだ。
流石に殿下を御乗せするだけのことはあり、食堂施設だけでなく、料理長の腕もどこの高級ホテルにも負けないと自負している。
尤も俺はその高級ホテルに縁が無いのだが、それでも貴族相手の艦内パーティーで招待客から一度も食事に関してクレームを貰ったことは無い。
俺は寄港すると、とりあえずトムソン室長に会いに行った。
「トムソン室長。
お約束通り、寄港しましたがあいつら外には行かないかと思いますよ」
「ああ、それで構わない。
あの大きな艦がここに降りてくることが大事なのだ。
早速、艦が見えた時に動きもあったしな」
「そうなんですか。
そんなに俺たちを警戒していますか」
「だろうな。
既にあいつらの仲間の艦が1隻不明になっているのだ。
そろそろこちらに探りでも入れて来るかな」
「うれしく無い情報ですね。
なら俺も部屋で大人しくしていようかな」
「そうもいかないよ。
すでに、あのスプートニク伯爵から非公式での招待を受けている。
悪いが付き合ってもらうよ」
翌日、早速俺はトムソン室長に引きずられるようにジンク星の繁華街に連れて行かれた。
この星一番のホテルにあるロビーで待ち合わせているとかで、見た目から俺のような庶民は入るなって感じのオーラ全開のホテルロビーで伯爵を待つ。
それほど時間を待たずに伯爵は数名の部下を連れてロビーに現れた。
俺とトムソン室長は伯爵たちと挨拶を交わした後に、少し立ち話。
伯爵はこの後予定があるとかで、忙しそうにその場を去っていくが伯爵が連れて来た人たちは残る。
なんでも治安関係のキャリア官僚だとかで、この後少しトムソン室長と話がしたいとかで今度はトムソン室長も連れて行かれて、俺は1人この場に残された。
訂正、俺の他、伯爵に仕える侍従の1人が、俺をアテンドするとかで、ラウンジで酒でもと誘ってきたが、流石にこれ以上こんなけばけばしい場所……ホテルに対して失礼な表現を訂正して…お門違いな場所で、酒など楽しめないので、俺はあらかじめトムソン室長に言われているバーに侍従を連れて行くことにした。
少し、侍従と揉めたが、それならアテンドは結構だと断ろうとしたところ侍従が折れて俺に付き合うことになった。
ホテルが繁華街にあっただけに、歩いて直ぐに目的のバーを見つけた。
見るからに怪しげな空気を漂わせているが、雰囲気の有るバーだ。
中に入ると既に話が通っていたのか一人いるバーテンダーが言葉数少なく俺たちを奥のボックス席に案内してくれた。
そこで侍従と酒を飲みながら世間話を小一時間ほどした頃か、バーの入り口付近が騒がしくなり、数人の男が入ってきた。
「ナオ・ブルースは居るか」
「は?
ナオは私ですが、あなた方は」
俺のことを名指しで探していたのは、この星の私服警察官だった。
「ナオ・ブルース。
貴様をこの場で緊急逮捕する」
「え、何、容疑は何ですか」
「容疑……か。
容疑は…不法薬物の使用と所持だ」
「あの、先ほどあなたの身元を確認させていただきましたが、この星では詐欺容疑など知能犯罪を取り締まる部門が薬物の取り締まりをされているので」
「あ、いや、だから、緊急逮捕だと言っている。
情報が垂れ込まれたので、私が来たのだ」
「それはご苦労なことだとは思いますが、令状はお持ちですか」
「だから、現行犯の緊急逮捕だと言っているだろう」
「それは困りましたね」
「ああ、貴様は困ることになるな」
「あ、いや、私は令状なしには逮捕されるわけには行きません。
どうでしょうか、任意同行に応じますから、警察署で調べませんか」
「あ、いや、……
社会的な意味で公になると貴様も問題が出るだろう」
「いや、密室でのやり取りの方が問題でして。
うちの上司はとにかく嫌いなのです。
闇取引が疑われる行為すら罰せられますから。
ちょうど良かった。
店の方で警察を呼んでくれたようですから」
「警察官は私だ。
今更呼ぶ必要はない」
と、目の前の私服警察官は言っているが、既にバーの入り口には制服を着た警察官が2人入ってきた。
バーテンダーとは顔見知りの制服組警察官はバーテンダーに事情を聴いている。
バーテンダーは口数少なめに顔を使って俺たちに注意を向ける。
その間、一切グラスを磨く作業は止めていない。
うん、映画に出てきそうな場面だ。




