ボッチ
酒を少しだけ頂きながら、とにかく無事にパーティーが終わるのを待つ。
口数少なく、余計なことは言わないと、決めていたが、それでも面倒な輩は寄って来る。
ご婦人に無礼を働く訳にはいかないので、平民の出であることを最初に断ってから、俺の初仕事でもあるコーストガード時代の海賊との戦闘の話をかなり端折って話す。
まあ、これだけでも時間は潰せるし、割と評判もいい。
コーストガードのお偉いさんがやらかしたことは一切話さずにいるから、後で文句も言われない。
なので、今では俺の定番と言うか、これしか話題が無い状態だが、何度も会う人などそうそういないから大丈夫だ。
無事に解放されても安心はできない。
俺たちは一旦『シュンミン』に戻り明日に備える。
明日は俺たちがホストだ。
艦内パーティーを開きながら、航路の安全点検の様子を地元有力者に披露する。
まあ、明日に予定を組んだのは殿下の安全を考えてのことでもある。
パーティーの後、殿下を連れ帰るのに、角の立たない名分が欲しかったのだ。
この星には、殿下が安心して滞在できる場所など無いと見ている。
これは王宮監査部とも一致した意見だ。
一番安全なのが『シュンミン』の艦内という訳だ。
普通なら、軍艦の艦内では不便もあるから殿下のような方には敬遠されがちなのだが、『シュンミン』だけは異なる。
平民からは敬遠されるが、内装が王国一番を誇った豪華客船から持ってきているだけあって、快適そのものだ。
俺などは未だに慣れないが、殿下は快適に過ごされているようだ。
それに何より、一同が戻れば、一旦外界との接触を断つために、航行モードと同様に全ハッチを閉じているから、たとえテロなどにあっても、まず艦内にいれば問題ない。
最悪、緊急発進してしまえば宇宙船でもなければテログループも追ってこれ無いし、たとえ追いついても、この艦を攻撃できるだけの物は無いだろう。
そう言う事情から、パーティー後にスプートニク伯爵に無理を言って全員を『シュンミン』まで送ってもらった。
流石に貴族だけあって、顔色一つ変えていないが俺たちの意図は気が付いているだろう。
ゲストとして、歓迎のためのパーティー後、直ぐに艦に戻るなんて行儀のいい話ではないだろうし、辺境伯たち地元の人たちにとってはゲストを十分におもてなしできないと恥に感じてしまうかもしれない。
尤も、既に黒認定されている人たちばかりなので、恥など感じていることなど無いだろうが、それでもだ。
そういった事情もあるので、角の立たない大義名分が必要だったようだ。
そのために本当に久しぶりに殿下座乗艦としてのお仕事を受ける羽目になった。
俺たちが、歓迎のパーティーを受けている間に、艦内の清掃は艦長の指示の元かなり丁寧に行われている。
ゲストの動線に当たる部分については徹底的に確認がされて、一切の情報の漏洩の無いように注意されている。
それとケイトとマリアの軟禁エリアの準備もだ。
今回は艦橋もゲストを案内する関係で、マリアは機関室から出ないようにとの指示が殿下から出されているし、ケイトについては流石に艦橋にいないとまずいので、艦橋で立ち入る範囲を決めている。
それら準備を全て済ませて迎えた翌日、朝から辺境伯を始めスプートニク伯爵など、この星系の主だった貴族連中がやってきた。
俺は、殿下と一緒に中央ゲートで皆を待ち受け、挨拶を交わす。
その後は、慣れたもので、ゲストを多目的ホールに準備している座席にと案内していく。
今までなら、この後俺は艦橋に移り、指揮を執るのだが、艦長職を解かれた関係もあり、殿下と一緒に、多目的ホール内で座席につき出航を待つ。
前にも話したが、別に大きなGを受ける訳でもないが、慣例によりシートベルトを付け、艦長からの指示を待つ。
出港から5分もすればジンク星の管制権を離れるので、それと同時に自由行動を許される旨の放送が艦内に入る。
俺は、ホール内のゲストに向かい、シートベルトを外すよう促してから、別室に案内していく。
第三多目的ホールには既に艦内パーティーの準備が整っている。
この後は殿下や保安室長であるスタンレーさんに任せて俺の仕事は一応終わる。
後は適当に雑談しながら、ホール内にあるスクリーンに映し出された宇宙空間の映像を使って、俺は安全点検の様子などを説明していく。
実に簡単な仕事だ。
社会科見学の添乗員にでもなったような感じだが、言葉使いだけは注意している。
なにせ相手は貴族だから、何を理由にいちゃもんが付かないとも限らない。
すると、案の定と言うか、スプートニク伯爵が俺に近づき話しかけて来る。
「司令、お仕事とはいえ、大変ですね。
何もない場所の点検なんか、それこそ歴戦の勇士でもある司令の仕事では無いでしょうに」
「伯爵。
仕事に優劣はありません。
それに何より、宇宙を航行する民間船の安全を確保するのが私たちの仕事ですから、これも十分私たちの仕事だと考えております」
「ご立派なお考えで」
伯爵はそう言ってきたが、心の中で舌打ちをしているのが何故だか俺にもわかった。
俺の妄想かもしれないが、この伯爵は俺たちを早く追い出したいのに違いない。
余計なことをと思うのだが、今のような何もない空間を航行することははっきり言って、俺の仕事が増えないので大歓迎だ。
中途半端なことの方が遥かに俺にとって迷惑なことだ。
何かあるたびに、とにかくものすごい事務仕事が発生するのだ。
平和ならそれに越したことは無い。
何かが起こるのなら、大海賊とのバトルの方がはっきり言ってそっちの方が良い。
一気に決着もつくし、海賊を撲滅するという俺の使命も果たせるし、何より、殉職の可能性まであるのだから。
まあ、今回の艦内パーティーもあと数時間この辺りを航行して終わりだ。
俺たちが、この辺りを点検していると同時に『バクミン』には暗黒宙域に出向いてもらっている。
とにかく今回は地元勢力に俺たちの意図は悟られないように、別れて行動することが多くなっている。
連絡は密にしていくが、多分、敵基地でも発見するまでは別れての行動になるだろう。
数時間後に、遊覧飛行……もとい、体験航行これも違うか、社会科見学を終えた。
スプートニク伯爵を始め主だった連中は満足げに艦を降りて行ったが、本当に満足しているかは不明だ。
とにかく、今日の予定は終え、もう一度『シュンミン』を宇宙空間に出していく。
ジンク星の監視エリアから離れた所で、『バクミン』との会合予定がある。
『バクミン』が探索していたことの報告を受け、これからのことを相談するためだ。
真面目なカリン先輩だけあって、俺たちを乗せた『シュンミン』は約束の一時間以上前に会合ポイントに着いたのだが、既にバクミンはそこに待機していた。
両艦は暫く並走しながら、チューブを渡して繋げ、カリン先輩を待つ。
殿下の部屋で、メーリカ姉さんを交えて打ち合わせを行う。
「どうでした、地上の様子は」
カリン先輩は殿下に気安く聞いてくる。
「どうもこうも無いわよ、カリン。
いつも通りの屑連中の集まりだわ」
オイオイ、いきなり噛ましてくる殿下の言葉に俺もメーリカ姉さんも一瞬固まった。
「あらいやだわ。
今のは無しで。
忘れてくださいね」
「そうですね、司令。
それにカリン艦長も。
内輪の話ということで」
「ああ、私たちしかいなかったしね、カリン艦長」
メーリカ姉さんとカリン先輩はずいぶん気安く話をしている。
かなり親しい間柄になったのかな。
俺はまたボッチに逆戻り……見栄を張りました。
元々からボッチでしたよ、くそ~。




