久しぶりの貴族パーティー
俺も、出張所長への挨拶が済んだこともあり、直ぐに宇宙へと艦を進めた。
またぞろあの伯爵、スプートニクとか言っていたか、そんな感じの薄気味悪い連中に絡まれないともいえないからだ。
俺たちが無事に宇宙空間に逃げ出すと、ちょうど本部からの連絡が入る。
「司令、マキ本部長からの依頼が入りました」
「マキ姉、いや、本部長から。
何それ?」
「はい、至急本部に戻り殿下と本部長を連れてジンク星まで運んでほしいとのことです」
「メーリカ艦長。
この話は聞いているの」
「いえ、先ほど私も聞かされました」
「まあ、無視する訳にはいかないけれど、みんなで行く必要は無いよね」
「はい、『バクミン』を残して、早速航路点検でもさせてみてはどうでしょうか。
訓練にはちょうどいいと考えますが」
俺はメーリカ姉さんからの提案を受けて、すぐに僚艦のバクミン艦長を呼び出して相談を始めた。
目立つ位置で、航路の安全点検をバクミンに行ってもらうことになった。
これにより、航路管理局からの依頼を素直に実施している体をジンク星のお偉いさんたちにアピールできる。
あやしい連中がこちらに気を取られているうちはジンク星で準備中のトムソンさん達捜査員には目が向かない。
より一層安全が期待できるという訳だ。
その上、殿下がわざわざ出向くとなると目くらましにはこれ以上ない効果が期待できる。
誰が考えたか分からないが、本当に良く考えられている。
本当にこれって、あの航宙フリゲート艦を発見してから考えていたことなのか。
ということで、俺たちは二手に分かれて、『シュンミン』のみ一旦戻り、殿下たちをお迎えする。
トムソンさん達は最近『シュンミン』には乗ってくれないが、流石に殿下をお迎えするのは『シュンミン』しかできないので、今回の送迎は俺たちのお役目だ。
俺も『バクミン』に移って探査をやりたかったのだが、それは流石に許されないとみんなから止められた。
殿下から逃げたと思われると、色々と不味いそうだ。
実際逃げたかったのだが、そこは大人の事情に素直に従った。
『シュンミン』ならこことの往復だって、大した手間にならない。
何せ、王国で一番速い宇宙船なのだ。
悪目立ちしない範囲で、できる限りの速度を出して本部のあるニホニウムに向かった。
連絡を受けてから一日もかかっていない。
星系を跨いでいたので星系間では異次元航行が好きなだけ使えるから、あっという間だ。
本当に『シュンミン』は優秀で、出せる速度を遺憾なく発揮して、直ぐに基地に到着した。
マキ姉ちゃんたちはすぐに戻ってくるだろうと考えていたようだが、それでも早く俺たちが帰ってきたので、ちょっとだけ慌てていたようだ。
それでも半日も基地におらず、直ぐに出発することになった。
ジンク星への政治向きな仕事は『シュンミン』の船内から行うことにしたようだ。
俺たちは一度首都星ダイヤモンドに寄って、色々と工作をしている殿下をお迎えして、直ぐにジンク星に向かう。
首都星に寄ったのは殿下を迎えるだけでなく、王宮監査部の極秘捜査員たちも多数お乗せするためだったようだ。
流石に王宮職員だけあって、今まで乗せて来た誰もが抵抗する船室にも素直に従ってくれた。
正直初めての経験だった。
いつもは、かなりもめて部屋割りをしなければ落ち着かなかったのだが、今回は一等客室に全員が、それもクレーム一つ付けずに入ってくれた。
まあ、どうせ明日にはジンク星に到着できるだけの話だがと、彼らを乗せた時は思っていたが、監査部のお偉いさんからの要請で、普通客船と同じだけの時間を掛けてジンク星に向かってほしいと注文を受けた。
なので、帰りは3日かけてジンク星に向かう。
途中船内で、色々と殿下や監査部の人たちから聞かされた。
聞きたくない話ばかりを、本当に丁寧に手を取り足を取りと言った感じで説明されたのだ。
あのジンク星域はもう手遅れだと監査部の人たちは考えているようだ。
なので、今回はかなり周到に準備してからの作戦となるという話だ。
今回も、わざわざ殿下が乗り込んで、ジンク星上層部の方を招き、航路点検の様子をお見せする計画まである。
そう、上層部の連中の目を俺たちにそらしている間に監査部では、今あるスパイ網を拡張するという計画なのだそうだ。
トムソンさんたちの捜査については、今のところ制約は掛けないということなので、そのまま進めてもらい、もし何かしらの不具合が発生した時に限り殿下を通して協力を要請してくることまで既に取り決めが終わっている。
本当にあの短い時間でここまで準備したのか。
絶対に違うな。
まあ、俺たちは利用されているだけなのだが、殿下もそれを承知で素直に従っていることから、俺からは何も言えない。
だが、久しぶりにこの『シュンミン』を使っての貴族接待とはいささか気が重い。
まあ今回は、殿下が来ていることから、保安室全員が来ているし、貴族の接待についてはその保安室が仕切ってくれるということなので、任せることにした。
一応、メーリカ姉さんと一緒に、殿下に「マリアやケイトをこのまま艦内においても大丈夫か」とだけは聞いておいた。
殿下からは「見えないところなら問題は有りません」とだけ了解を頂いた。
この艦のナンバー2や3なのだが、この扱いは妥当だろう。
殿下も最近はあいつらの扱いに慣れて来たのか、全く動じていない。
だが俺に言わせればカリン先輩も同じ匂いがするのだから、あ、だから動じていないのか。
今まで感じたことは無かったが、ひょっとしたらカリン先輩と殿下って同じ穴の狢か。
不敬罪に問われないとも限らないので、俺は考えるのを辞めたが、ちょっとばかり背筋が寒くなった。
既にジンク星には連絡を入れているので、ジンク星のメイン宇宙港に今回は到着した時に、大歓迎で出迎えてもらった。
周りに宇宙船など駐機していないエリアに俺らは案内され、赤いカーペットが引かれている場所にタラップが付けられて、俺たちは降ろされた。
殿下を先頭に、次に俺、そのすぐ後ろを保安室長のスタンレーさんが続く、その後ろに随員の形で監査部の現場リーダーが続く。
他の監査部の捜査員は後程後部ハッチから資材の搬入に合わせてそっと消えていくそうだ。
既に監査部と広域刑事警察機構の捜査員たちとの連絡窓口が、あの出張所に置かれているらしい。
本当にどこまでも手際が良い。
俺らは艦から下ろされた後は、大歓迎を受けるためにそのまま高級車に乗せられて、この星で一番偉い辺境伯の屋敷に案内された。
その後は、いつか来た道ではないが、貴族の主催するあのパーティーに突入。
ちょっと前に会ったばかりのスプートニク伯爵が、俺たちに挨拶してきた後は彼の案内で辺境伯の前まで連れて行かれた。
この辺りの挨拶の順番やら、序列に関して、少々ややこしい。
普通なら王位継承権までもつ殿下が一番上位になるので、辺境伯ごときは殿下の前まで来て挨拶をしないといけないらしいが、殿下はあくまでも広域刑事警察機構の長官としてふるまうおつもりなので、事前にその辺りも決めていたようだ。
序列的には当然中央省庁の長官の方が地方政府よりも上位には来るが、こういったレセプションなどでは、あくまで客人としてふるまうのが礼儀だとか。
ホストである辺境伯は、ゲストの一行をお迎えする形で、あいさつを受けるのだとか。
なんだか色々とめんどくさいが、その辺りについては殿下や、そのお付きであるスタンレー保安室長にお任せだ。
俺は金魚の糞よろしく殿下の後を歩いている。




