不気味な来客
大変お待たせしました。
優に一月は越えて危うく2か月ぶりになりそうなので、まだ章全体を書き上げてはおりませんが、溜まった分だけ毎日配信してまいります。
前置きは程々にして本文をお楽しみください。
今、首都星ダイヤモンドの王宮ではある会議が開かれている。
王国全土から各星系の治安責任者を集めて、先のシシリーファミリー制圧及びそれより露見した政府上層部の腐敗案件についての報告会だ。
皇太子殿下が主催して、陛下の臨席を仰ぎ会議の開催を宣言するといった力の入れようの会議だ。
うちも当然招待を受け殿下と、マキ本部長、それにうちの軍からカリン艦長を派遣している。
招待されたのは広域刑事警察機構だけでなく、機構軍も招待を受けているので、カリン先輩を派遣したが、俺が出席するのは免れたようだ。
殿下から、陛下主催でも無い限り、軍のトップはこういった会議には出ないものとの説明があった。
その証拠に、同じように宇宙軍やコーストガードも招待はされているようだが、宇宙軍からは参謀本部から数名の参謀が交代で参加するようだし、コーストガードも事務長のみの参加だと。
色々と貴族としてはあるようだ。
めんどくさいと思うのだが、権威だとかなんだとか言っていた。
何せ、会議そのものが政治的妥協で開かれているようなものらしい。
俺の知る限り、うちの殿下の存在が皇太子殿下を始め他の王族の方々にとって、そろそろ無視できない存在になってきているようで、特に殿下の兄にあたる皇太子殿下や、殿下のすぐ上の兄にあたる何とかといった王子にとっては大問題になっているのだとかで、今回の会議が計画されたという話だ。
今回の会議は皇太子殿下が主催することは先に触れたが、この会議をきっかけとして、今後は治安責任者会議なる会議体が設けられ、定期的に開かれるようになることが決まっている。
お題目は『星系を跨ぐ犯罪の撲滅のため』の協力体制を構築するとか言っていた。
『星系を跨ぐ犯罪取り締まりのため』に作られた広域刑事警察機構が既に正式に発足しているのに、新たに会議体が作られる。
うちも、オブザーバーとして参加させられることになっている。
ここまで話すと、うちはこの会議体の一組織のように思われるが、既に正式に政庁の一つとして発足しており、その指揮命令権は陛下にしかない。
また、王国三番目の軍でもある機構軍も当然、組織の長である殿下にしか命令権は無く、その殿下に対して命令を出せるのは陛下しかいない。
皇太子殿下であっても我々に命令する権利は無いのだ。
殿下の昨今の活躍により、権威が著しく低くなってしまっている直ぐ上の兄は、この会議体の議長に就任することが決まっているが、皇太子殿下にすら無い俺たちへの命令権を当然持てるはずは無い。
しかし、国民の目からしたら、我々広域刑事警察機構がこの会議体の管理下にあるように見える。
そうなるように細工されて開催された会議である。
この会議体のお陰で、国民の目から見たら無事に順当に権威付けされているように見える訳だ。
そういった事情もあるので、一軍の長である俺の参加はありえないのだそうだ。
本来ならば殿下も参加する義理は無いのだが、先に挙げた事情により、陛下が列席するレセプションだけは参加させられている。
今後開かれる会議には当分の間は、マキ姉ちゃんが我々を代表して参加するが、そのうち専門の部署でも設けて課長辺りを参加させる予定になっている。
扱いを見ても分かるように、我々はこの会議体には何ら期待していない。
この会議体の成果物としては各星系における犯罪組織の情報になるが、そんなものは既に現場担当者から直接入って来る仕組みができている。
殿下が最初に取り組んだ押収した海賊拠点への捜査協力をしているおかげで、各星系の海賊捜査担当者たちの信頼を勝ち取っているので、何ら加工されていない一次情報が集まる仕組みが既にできている。
既に各星系の現場担当者たちとは、情報のやり取りが行われており、一々治安責任者を通してまで情報を貰う必要はない。
我らにとって、今開かれている政治ショーは意味が無いが、貴族政治の弊害から参加せざるを得ない状況なのだ。
しかも、開かれている会議の内容だが、今更ながらシシリーファミリーの件だというのに俺は違和感を持った。
その件については、別件で少し前に王宮監査部との話し合いの時に聞いたことでは、やっと世間様に発表できるまで捜査が進んだというのだ。
と言っても、今回治安責任者たちに発表される内容はほとんどが国家機密に属している。
なんでも、これ以上伯爵以上の上層部に関わることは無いとのことで今回発表する運びになったとかで、目の下に隈を作りながらもどや顔で俺に教えてくれた。
今頃はその成果を集まった貴族連中に発表していることだろう。
しかし、あのシシリーファミリーは相当上層部に食い込んでいたようで、直接間接を合わせると相当数の高官が今回処分された。
直接かかわっていたような連中はほとんどが極刑にされたようだが、間接的にかかわった者や、監督責任を問われた者たちはその罪の重さによって、軽いものでは強制隠居や廃嫡、順に降爵やお家御取りつぶしなど、多岐にわたっており、その処理をやっと終えたことで、今回の会議で発表できる運びとなったそうだ。
尤も、それらの多くが極秘扱いで、今回は閲覧のみ許された発表で、お家御取りつぶしなど明らかに国民の目に留まる範囲のみ何重にもオブラートをかぶせた上で国民に発表されている。
会議では、それら隠された処分を閲覧だけではあるが彼らには包み隠さずに公開している。
この会議に集まった連中は皆清廉潔白な者だけではないことくらい、王宮も理解しており、これ以上悪事に手を染めるなという脅しともとれる情報公開となっている。
なので、叩けば埃の出る連中は、できる限り俺たちとの接触を避けようとしているのが見え見えだが、驚いたことに叩かなくとも埃をまき散らしながら歩いているような連中は逆に積極的に俺たちに近づいて来る。
特に俺に接触してくるような連中は要注意だ。
そう、殿下がダイヤモンド星に行っている間、俺は休暇を楽しめる……筈はなく、事務仕事の他に偉そうな連中の相手もしている。
いや、偉そうでは無く、本当に偉い人たちとの面会がそれこそひっきりなしに俺の予定を埋めていく。
俺もできる限り地元の有力者たちとの面会には応じるようにはしているが、それ以外の面会希望者もとにかく多い。
ほとんどは事務方の方で断っているのだが、この後、俺には断り切れずにいた大物との面会を控えている。
次の重点捜査地域の治安責任者でもある伯爵が、会議が開かれている最中にも関わらず、わざわざ俺を訪ねて来たということで、俺も会わない訳にはいかず、面会する運びとなった。
「初めまして、伯爵」
「お初にお目にかかります、機構軍長官殿」
俺の挨拶も多分、礼儀にかなっていないだろうが、それ以上に驚いたのは相手の方だ。
明らかに俺の方を上席として扱っている。
まあ、受けている職責では多分それは正しいのだろうが、それでも俺は孤児院出身の平民だ。
しかも宇宙軍ではたかが大尉、機構軍でもまだ少佐の扱いだから、伯爵の権威から考えると今の挨拶はありえない。
だから俺は面会など嫌なのだが、そこをあえてやってきた伯爵の真意が測りかねる。
「今大切な会議のさなかと伺っておりますが、そんな中、わざわざ私のような小者に会いに来て下さるとは光栄の至りと言うか、私のような庶民にとっては畏れ多い気もします。
あいにく、私は先にも申しました通り平民の出ですから、貴族社会における礼儀を弁えておりません。
できましたら、その辺りお含みおき下さり、失礼の儀お許しください」
「いえ、私の方がいきなりお訪ねしましたこと、お許しください」
この後の面談がどうなったか俺はよく覚えていない。
たった30分の面談だったが、俺にとって非常に長く感じたことだけは覚えている。
とにかく、不気味だった。
最近はお偉いさんとの面談にどうにか慣れて来たところではあったが、伯爵クラスの大物との面談はそうあるものではない。
今までの経験上では、俺単独での面談となると、せいぜい地元有力企業のお偉いさんクラスだったのだが、あの伯爵、名前すら覚えていないが、何をしたかったのかさっぱり分からない。
多分世間話だけをして終わったようなのだが、いったい彼の目的が分からないまま終わった。
この作品を楽しんでくださる読者の方にお詫びします。
危うく二月以上の間隔を開けてしまう処でした。
一つの章を5万字を目安に創作しておりますが、ようやく3万字近くたまりましたので、あまりお待たせしてもと思い、途中で投稿することにしました。
たまった分がなくなる前に、残りも書き上げるよう頑張ります。




