珍兵器の進化
俺は、準備を済ませて、階下に向かう途中で、カスミに指示を出しておく。
「カスミ。
向こうの指揮権が取れたらすぐに、減圧と、酸素濃度を下げてくれ」
「は??」
「それだけで、中は簡単に制圧できるから」
「それは……」
「カスミは知らないかな。
高山などでは急に動いてはいけないんだぞ。
簡単に高山病になる。
そして、その原因は……」
「あ、そうですね。
人は宇宙では脆弱な存在でしたね。
少しでも環境が変われば途端におかしくなりますしね。
では、気圧を半分程度まで下げておきます」
「あ、それと余裕があればでいいから、人工重力も70%くらいまで下げてくれ」
「それは……何故ですか?」
「ガチ装備だと重くてな。
重力が低いと楽になるから」
「ああ、分かりました。
ではお気を付けて」
俺は、カスミに命令を残して、メーリカ姉さんたちが待つ階下のホールに向かった。
そこには、懐かしくも感じるような光景が待っていた。
メーリカ姉さんやケイトの他にマリアたちが、あの珍兵器、『ひまわり3号』とか言っていたやつを持っている。
「懐かしいな、マリア。
今回も『ひまわり3号』が大活躍すると良いのだが」
「司令、違うよ、これ『ひまわり3号』じゃ無いよ」
「え、前に見た奴と同じように見えるのだが」
「え~~、司令はどこを見て言ってるのかな。
ここを見てよ、ここが違うでしょ。
連続射撃の不具合を改善してあるんだよ。
前の『ひまわり3号』なんか目じゃ無い性能を誇る『ひまわり6号』だよ」
え、6号、前のが3号だった筈だから、どこに行ったんだ、4号と5号は。
「あ~、司令は数字が飛んだことを気にしているんだよね。
あの後改善を加えてすぐに4号を作ったんだけど、それを機動隊に渡したら、改善要望が出されて5号にしたのを機動隊に納めているよ。
これは更にその改良版。
今は私たちの分しか無いけどね」
いつのまにか、汚染されているのかわが軍は、いや、軍を飛び越えて機動隊にまで。
俺の知らないこところで、色々とやらかしているらしい。
うちは本当に大丈夫かな。
「お前たち、準備は良いな」
「「「お~~~」」」
メーリカ姉さんの掛け声に女性らしい声で、反応があったが、どうもな、なんか違うような気がしてならない。
「チューブが繋がればすぐに飛びこむぞ。
目指すは艦橋だ。
分かっているとは思うが、後れを取るなよ」
俺も指揮官らしいことを、ちょっとだけ言ってみる。
「マリア、お前は、最初に通信ケーブルの接続だ。
船外活動用の通信端末がある筈だから、そこを使って、『シュンミン』と通信ケーブルを繋ぐ。
いいな」
「はい、わかった姉さん」
完全に昔に戻ったようだ。
まあ、カスミや他にも『シュンミン』に残って別作業をする連中は居ないが、それでも第二臨検小隊時代を思い出すような雰囲気だ。
これは嫌いじゃ無いな。
今置かれている環境よりも居心地が良かったような気がする。
マリアが通信ケーブルをつなげている横で、メーリカ姉さんはエアロックをこじ開けスタン・グレネードを放り込む。
次の瞬間「突撃~」
一斉に中に入る。周りが騒ぎ出してくる。
暗黒宙域内では、艦の周りに小型艇が張り付いたくらいでは艦中では察知できなかったらしい。
それくらい警戒するものだと思うのだが、海賊連中は、自分らは襲う側だとして、襲われることなど考えていなかったらしい。
正直、より危険が少なくなる分俺としては助かるが、さあ、俺も始めるか。
直ぐに、周りで防戦準備をしながら騒いでいた連中が倒れだす。
「カスミが無事にこの艦の指揮権を奪取したようだな。
すぐに艦橋に向かうぞ」
俺たちは途中に出会う連中を構わずどんどん艦橋に向かう。
と言っても、宇宙軍で使用していた航宙フリゲート艦だ。
ほとんど、他の軍艦と同じような造りなので、迷うことは無いが、当然『シュンミン』とは全く違う造りなので、少しばかり混乱しているのはどうも俺だけのようだ。
先頭を走るメーリカ姉さんは、わき目もふらずどんどん艦橋に向かって進んでいく。
途中、二三の小競り合いはあったが、カスミのお陰でほとんど戦闘することなく制圧できている。
制圧した傍から、拘束具で縛り上げて行く。
これは艦内配線などでよく使われている束線具を大きくしたような使い捨ての道具で、それこそ数秒で腕などを縛ることができる優れモノだ。
警察などでは未だに金属製の手錠を使っているようだが、俺たちはもっぱらこればかりだ。
何より安くて手入れ不要の使い捨てなのが良い。
縛りが終わるとその場に放置して、次に進む。
艦橋では先に艦内に飛び込んでいる機動隊対策のためなのか入り口付近でバリケードを築き、俺たちを出迎えているようだが、そんなちゃちなバリケードなどは、ケイトやマリアが持っている珍兵器を二三発ぶっ放して簡単に制圧できた。
艦橋付近で武器の使用などは、特に飛び道具など普通は厳禁なのだが、俺たちは全く気にしていない。
別に壊しても問題ないとばかりだ。
どうせ、うちまで運べば、それこそ大好きなリフォームが待っているとでも思っているのだろう。
もう、うちには要りませんからね。
拾ってきた場所に返せとは言わないけれど、うちは貰わないから。
艦橋を制圧して、すぐに艦内放送の操作権をカスミから返してもらい、艦内で制圧に当たっている機動隊員に対して、艦内放送を使い情報を送る。
機動隊員が飛び込んでから2時間ばかりしてから、アイス隊長が部下を数人連れて艦橋までやってきた。
「司令、ほぼ艦内を制圧しました。
現在は、艦内全ての状況確認と、逃亡者の捜索中です」
「ご苦労様です。
逃亡者ですか。
あれって、面倒なんですよね。
軍や普通の商船ならば乗員名簿なんかがあるから正確な乗員数が分るが、海賊にそんなのは望めませんしね」
「ええ、不審船の捜索でも言えることですが、最後までどれだけの人間が乗っているのか分かりませんから、本当に手間ばかりかかります。
前に酷いのだと、地上に降ろして解体作業にかかろうかという時に見つけた事例もあるくらいですから」
「一応全艦の捜索が終われば、一度、この艦の空気を完全に取り除きましょう。
実施前にその旨の放送を全艦に出せば、諦めて投降してくるでしょうし、よしんば投降しなければお陀仏ですから、テロなどには遭わないでしょうしね」
「警察に身を置いていた者としては、いささか乱暴な作戦だとは思いますが、そうですね。
それが良いでしょう。
自分たちの身の安全が最優先ですからね」
それから3時間後に、全ての部署の状況調査を終えて、完全にこの艦を制圧した。
アイス隊長が艦橋に来た頃からトムソンさん達捜査員は海賊船の捜査を始めていた。
全艦の制圧が済んだ後に、一度、全員が退船して、艦内の空気を完全に抜き、艦内浄化作業を行った。
1時間ばかりこの状態で放置しておけば、ネズミの類も駆除できるので、実は割と頻繁に宇宙では行われる作業の一つだ。
尤も民間客船などは、地上の整備場で行われるようなものだが、輸送船や調査船のような割とワイルドな乗員しかいないような船では宇宙空間でも行われている。
一々掃除するのが嫌だとの理由だとか。




