怪しい艦影
「「「わお~~~」」」
「「「「お~~」」」
「これは、明らかに宇宙船にしか見えませんね」
「カスミ、君から殿下に報告を続けてくれないか」
「はい、艦長。
では皆様に私からこの映像について報告します」
カスミはそう言ってから、報告を続けた。
まあ、殿下は前から『シュンミン』の艦橋にちょくちょく顔を出してクルーたちと直接話して回ったので、カスミも殿下には免疫が付いているから、問題無く報告を続けられた。
でなければこの席に着いただけで、固まって使い物にならなかったに違いない。
「隣に、先に判明しておりますロストした宇宙船の外観写真です。
これはメーカーが出しておりますカタログから持ってきておりますから、実際のロスト船の塗装などを含めた外観に若干の違いがあることは先に留意願います」
そう言ってから、隣に貨物専用宇宙船の横から見た外観写真を並べてみる。
明らかに見た感じが違う。
ロスト船の方はずんぐりとしているのに対して、問題の映像に移っている船影はスリムだ。
「確かに違うわね。
どちらかと言うと客船よりも軍艦に近いのかしら」
「はい、殿下。
殿下の言われる通り私もそう考えて、軍艦とも比べました」
カスミはそう言いながら三種類の軍艦のブラックシルエットを映し出して、艦種の特定にかかる。
「この、今出しましたブラックシルエットは宇宙軍で使用中の軍艦の艦種から代表的なものを選び比べております。
見てお分かりの通り、先の映像は航宙フリゲート艦に一番近いかと思い、もう少し詳しく調べましたが、現有艦ではありませんでした」
「何故そう言い切れるのか」
「はい、殿下。
それは、シルエットの特徴ある部分の比較です。
多くは全体像だけで判明できますが、より詳しくは、突出しているレーダーやその他観測機、それに主砲など多くの特徴が出ますので、その部分を比較します。
今回は、全体像だけで、現有艦と一致するものがありませんでした」
「そうなのか。
もし、艦種だけでもわかれば、もう少し捜査の仕様もあるのだが……」
「トムソン捜査室長。
現有艦にはありませんでしたが、現在私どもが簡単に入手できるデータを集めて調べましたところ、それらしきものが見つかりました」
カスミはそう言いながら更にいくつかブラックシルエットデータを映し出した。
「ほ~~~、これは」
「はい、過去使用されており、現在は廃艦となった艦や、他の国の使用する艦船の内、データが簡単に入手できるものを集めて比較したところ、この三種類がより近いかと」
「それで、どれだと考えているのか」
「このシルエットデータだけですと、どれも怪しく見えますが、先に述べました、他の部分を比較しましたところ、10年前に最後の艦が除籍となった『トワダ』型航宙フリゲート艦が最も近いかと。
今回得られたデータがどうしても不鮮明でありますので、一致率で65%と決して高い数値ではありませんが、私は『トワダ』型と断定します」
「カスミ君。
君の説明では、断定するにはどうしても根拠が薄く感じるが、そこをあえて断定するには他に理由があるのかね」
「そのことついては私から説明申し上げます」
俺はそう言って、カスミからバトンを引き継いだ。
これは、以前データを検討しているメンバーで、この会議前に一度集まって検討しているためだ。
その際に、今と同じ話になったので、非常に簡単ではあるが、端末を叩くだけで得られるデータから『トワダ』型の航宙フリゲート艦10隻全部の除籍後の履歴を追ってみた。
10分と掛からず、どう見ても怪しくないかっていう艦が見つかった。
最後の除籍された『トワダ』型10番艦『シラカバ』だ。
これ、軍から除籍後、惑星系の地方政府に近隣治安維持用として譲渡されている。
その譲渡先がなんと、俺たちが捜査し始めたジンク星を含むデライト星系政府だ。
だが、その後をいくら調べても、一切の情報を得ることができていない。
それ以外の『トワダ』型航宙フリゲート艦は6隻が解体処理をされていることが公文書上でも確認できたし、残りの3隻もそれぞれ譲渡先での活動が少なくとも一回以上は確認できているのだ。
10年も前の話だが、軍から除籍後譲渡されたはずだが、実際には譲渡先は受け取っていないのではないかと疑いたくもなる。
それに、今回の件だ。
それらを合わせれば一致率65%もあれば怪しい以外に無いという結論に、俺以外のその場にいた全員が一致した意見だ。
俺はその辺りを隠さずに、あくまで推論だとは言いながら断定したことをみんなに丁寧に説明した。
「オイオイ、またお役人かよ。
多分この場合、上級の貴族が関わることになるぞ。
しかも10年も前なら、今現場にいる者は覚えているのも少ないから、ちょっとばかり厄介かもしれないな」
「そう言うことなら、注意して取り組まないといけませんね。
前のシシリーファミリーの時の経験もありますし、最悪政府上層部全てが汚染されていることも考えないといけませんね」
「はい、殿下。
これは簡単にあちらの地方政府に、こちらからの捜査協力は頼めませんね」
「トムソン捜査室長。
あなたの方は大丈夫かしら」
「100%安全とは言えないでしょう。
ですが、他での扱いもそうですし、どうしても地べたを這いずり回る捜査員にとって、海賊相手の部署はどこも窓際なんですから、そこまで汚染されていることは考えないようにしております」
「それは何故」
「窓際まで仲間に入れる価値がないからです。
自分らの儲けを減らしてまで、仲間に入れる理由がありません。
窓際は居ても、全くの脅威は無かったでしょうから」
「今は違うと」
「はい、ですから、急に回されてくる連中には気を付ける必要はありますが、少なくともシシリーファミリーの事件以前から所属している者は信用して問題は無いかと」
「そうですか」
「ですが、友人関係などもありますから情報の扱いには十分に気を付けます」
「分かりました、でしたら私は監査室の方に協力要請を非公式に出しておきますか」
「話は変わりますが、その不明艦をどうするおつもりですか、司令」
「もちろん、乗り込んで調査する必要はあるでしょうね」
「そうなると、今度は私たちにも活躍する機会はありますね」
そう言ってきたのは、最近ほとんど話す機会が少なくなっているアイス機動隊長だった。
機動隊が全く活躍していない訳では無い。
『シュンミン』にも『バクミン』にもそれぞれ15名からなる小隊が詰めており、不審船の臨検時は、機動隊頼りだ。
現在、臨検時に不審船に向かう内火艇には機動隊員1個小隊15名に捜査員5名、それに保安員1個分隊10名の定員30名ぎりぎりで向かうことにしている。
ちなみに内火艇の操船は機動隊に任せている。
ちなみに、宇宙に出る隊員たちはそれぞれの部署で、人選は任せているが、ほとんど各部署の最小の部隊編成のローテーションのようだ。
そんな訳で、今まで不審船検挙などの成果でも機動隊は十分なものを上げてるが、機動隊を預かる隊長としてはどうしても華々しい肉弾戦が無いと物寂しいものがあるのか、今度ばかりは海賊相手に大立ち回りが期待できると目を輝かせながら俺に言ってくる。
「任せてほしい。
どんな海賊相手でも後れを取るようなことは無い。
うちも殿下にお願いして秘密兵器も準備しているし、その訓練も終わっているから、期待してくれ。
尤も、最終の指揮権は君にある訳だし、それを侵すつもりは無いから安心してくれ」
「いえ、そんな心配はしておりませんよ、アイス隊長。
しかし、秘密兵器ですか……」
なんだかぶっ飛んだものでなければいいが。
会議は終わり、直ぐに行動することになった。
今回は機動隊の本体である精鋭の中隊60名も乗りこむことになった。
その際、先にアイス隊長が言ってた秘密兵器も『バクミン』に積み込むことになると聞いた。
会議直後にその積み込みが始まった。
とにかく異様な内火艇って言えばいいのか、これなんですか。
「凄いだろう。
我々は宇宙空間で乗り込むことが唯一の仕事のようなものだから、それに特化したものを用意してもらったよ。
この改造には君のところの、えーと確か……」
「ひょっとしてマリアですか」
「ああ、そうそう、マリア少尉だ。
本当に彼女には世話になったよ。
俺たちの要望を聞いて、隣のドックの社長やサーダー研究所長に話を持って行ってもらい、うちらの要望以上の物ができたと自負しているよ」
マリアだけでないのか。
どんなんだよ。
でも、見た目に異様だが、今改造って言ったよな。
ひょっとしてあれか。これもあれなのか。
「でも、今までなら考えられないことだが、本当に低予算で、こんなものまで作ってくれるのだから、他の部署も考えればいいのに」
いえ、組織の長の殿下がでたらめを認めてくれるからできるんです。
普通なら絶対にできません。
それに、これって法律上でNGが出るだろう、地上で使うのには。
宇宙だって、かなりきわどいことになりそうなのに。




