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発見

 

「はい、あの調査艇には、それこそ天文台として使える様な望遠鏡を装備しております。

 当然、それに準じた装備もあります」


「それで」


「ですがあの望遠鏡の解像度だけでは不十分でしたので、今ある望遠鏡全てを使って解像度を上げてみたいかと」


 何やら難しい話を始めて来たが、横にいるマリアがそれこそ小学生でもわかるように噛み砕いて説明してくれた。


 いくつかの望遠鏡を同時に向け、得られたデータを画像処理することでより解像度を上げられるということのようだ。


 また、少々うざくなってくるのだが、マリアがどや顔をしながら、あの調査艇には測距儀用にと口径95cmの望遠鏡を調査艇の左右に合わせて2機、しかも、船体から数メートル腕を伸ばして測定できるとあって測距儀としてはかなりの性能を誇るというのだ。


 今はその性能はどうでもいい話だが、マリアとしては外せない説明だったようだ。

 ちょっとうざい。


 で、話を戻すとその望遠鏡も使えば理論上少なくとも今の2倍近くの解像度は得られるという話だ。


 そこで俺は疑問に思ったことがあった。


「カスミよ。

 望遠鏡の数が増えれば解像度が上がるというのなら、同時に『シュンミン』の持つ光学式探査装置は使えないか」


 そうなのだ。

 わが王国内にはあっちこっちにレーダが使えない暗黒宙域がある関係で、この艦には当初からレーダー以外の探査装置を積んでいる。

 カスミが務めている哨戒士は、レーダやその他を使い哨戒作業をしているのだ。今の説明ならば使わない手はない。


「え、はい。

 十分に使えますが、位置が違うためにデータを集計する際に補正作業が入りますからすぐには結果は出ませんが……」


「ああ、構わない。

 そう言うことなら、後悔しないように、ここでできることをしようじゃないか。

 メーリカ艦長。

 一つミッションを頼まれてくれないか。

 どうせなら同じ装置を積んでいる『バクミン』を使おう。

 全部使ってデータを収集してほしい」


「はい、了解しました。

 これより直ちに司令御下命のミッションに入ります」

 そう言うとメーリカ姉さんは『バクミン』にいるカリン先輩とミッション開始のための打ち合わせに入った。


「マリアよ。

 どうせ暇なら、カスミの手伝いでもしてろよ。

 手伝いくらいならできるだろう。

 何より、あの調査艇についてはカスミよりもマリアの方が詳しそうだからな」


「え、はい。

 初めから手伝うつもりでしたよ」


 嬉しそうにそう言うと、直ぐに何やらカスミと話しながら端末を操作し始めた。


 もう俺にここでやる事は無くなったので、今度は一人で、隣の作戦検討室に戻った。


 後はミッションの成果をここで見守るだけだ。


 既に真っ暗になっている艦載機の状態を表示していたモニター上にはミッションのためのいろんな情報が映し出されている。


 戦隊前方で測定をする調査艇の正確な相対位置を始め、『シュンミン』と『バクミン』の位置情報も入力され、補正データが作られていく。


 どちらの艦にも優秀なオペレータが乗務しているので、急なミッションではあるが、何ら問題なく準備が進められていく。


 マリアやカスミは本当に楽しそうに作業をしているが、他の艦橋にいるメンバーは急なミッションでやや緊張しているように思われる。


 そんなことを知ってか知らずか、マリアはみんなの緊張が面白かったんだろうな。

 こともあろうにカウントダウンまでも始めている。


「測定開始まで5…4…3…2…1…測定。

 終了」


 大声で怒鳴っていた。


 絶対にイベントとして楽しんでいるようだ。


 すると艦橋から、これまた大声でカスミが怒鳴って来る。


「司令、測定が終了しました。

 結果は情報を加工しないと分かりませんが、ここでの作業は終了しましたので、撤収して構いません」


 いくら近い距離だからと言って、普通なら艦内電話を使って報告するもんだと俺は思うが、これも最初から変わらない習慣のようなものか。


 だって、俺の方も大声で艦橋に返している。


「艦長。

 ミッション終了だ。

 撤収後、ニホニウムに戻ろう」


 当然メーリカ姉さんからの返事も同じように大声で帰ってきた。


「了解しました。

 カリン艦長にも伝えます」


 新たなミッション終了から撤収が完了するまで1時間を要した。

 艦載機が戻るのに要した時間だ。


 しかし、急なミッションでも、通常の無線が使えなくとも艦載機に対して命令が出せたことは、画期的なことだ。


 これにより、俺たちは暗黒宙域内でも十分に作戦行動がとれることを期待できる。


 直ぐには無理でも訓練だけはしておきたい。


 カリン先輩も同様で、撤収が済んでいないのにもかかわらず、早速報告書を俺に挙げて来た。


『暗黒宙域内での艦載機を使用した作戦の可能性について』という提言書まで付いていた。


 どこまでぶれずに、艦載機好きなんだ。

 だが、この提言では無いが、これは海賊相手に相当なアドバンテージを持つことができる。


 今後の戦術の一つとしておこう。


 カリン先輩がその報告書を持って内火艇で『シュンミン』に乗艦してきた頃にはカスミが速報としてだが、例の情報を処理した映像を持ってきた。


 俺は作戦検討室でカスミやマリアなどこのミッションに関わった連中と一緒に両艦長を交えてその映像を見ることにした。


「このボヤ~とした点ですが、移動速度が異常ですし、移動する方向も私が最初に怪しいと思った時とは違っております。

 多分、人工物、それも宇宙船のようなものでは無いかと」


「カスミ哨戒士。

 この画像の拡大はできますか」

 カリン先輩がカスミに直接聞いている。


「カスミ、最大まで拡大してみてくれ」

 メーリカ姉さんからカスミに命令が入る。


「まだ、データの補正が完全に終わった訳ではありませんから、ある程度までになります」

 と言いながら、カスミは手元のコンソールパネルを操作し始める。


 すると見ている画像はどんどん大きくはなるが焦点がずれているようにも見え、なかなか詳細は見分けにくい。


 その画像を、真剣に見ている艦長の2人は声を揃えて言い放つ。


「これ、宇宙船ですね」

「しかも、大きさはかなりあるぞ。

 内火艇や緊急脱出用のポッドのようなものでは無いな」


「今は、これが限界ですが、ニホニウムに戻るまでには最終のデータはお見せできるかと」


「カスミは艦の哨戒業務を他の者に任せて、このデータの処理に専念してくれ」

 メーリカ姉さんはカスミにそう命じている。

 まあ、妥当な判断だ。

 俺たちは今では戦隊として行動しているから、『バクミン』も哨戒はしているし、この艦でももう業務を任せられる哨戒士は育ってきている。


 その後、無事に全機を『バクミン』に収容した俺たちはすぐにニホニウムに戻った。


 現在本部の奥深くにあるわりとこじんまりしている会議室で殿下を交えて会議をしている。


「え~、最初に、サーダー研究所長からの報告です」


「はい、私からは以前お預かりしておりました、未確認浮遊物の件ですが、これについてはすぐに判明しました。

 これは中堅メーカーで使用しております脱出ポットであることが判明しました。

 シリアルナンバーから、搭載していた宇宙船も判明しました」

 サーダーさんはこう切り出してから説明し始めた。


 割とよく聞く中堅の貨物船を経営の柱としているメーカーによる貨物専用宇宙船で、その宇宙船の履歴から俺たちがこの浮遊物を発見したエリアで5か月前にロストしたものであるところまで判明したそうだ。

 だが、何故大穴が開いたかについては不明であり、また、脱出ポッドが正常使用されたのか、何らかの不具合で貨物船から排出されたのかも分かっていない。


 だが、唯一の救いは中に血痕などが無く、人が乗っていた痕跡は出なかったそうだ。


「私からの報告は以上です」


「ありがとうございます、サーダー研究所長」


「やはりあそこで不明船に何かあったという訳ですね」


「ええ、もうこれは事故も含めて遭難したと考えても良いものでしょうね。

 ただ、事故の線についてはまだ捨てきれないのが少々面倒ですかね」


「いえ、あの後我々が発見したことを報告すれば、皆さんのお考えは海賊で一致するかと」

「カリン、そうですね。

 なんでも宇宙船を見つけたんでしたわね。

 あなたが報告してくれるのかしら」


「はい、殿下からご下問がありましたので、私から次の件を報告します」

 カリン先輩はカスミに映像を出すように促してから、その映像を使って説明し始めた。


「これは明らかに宇宙船であると思います」


「でも、これだけでは。

 これもう少し大きくできませんか」


「カスミ、できそうか」


「はい、カリン艦長。

 あの時にはできませんでしたが、全てのデータ補正が終わっておりますので、拡大は可能です」


「最大まで拡大してくれ」


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― 新着の感想 ―
[一言] 秘密兵器がとんでもない結果を招く展開、これでもお海賊のアドバンテージは消失してしまいました。シュンミン艦隊が艦載機増援や特殊観測機器のリアルタイム処理が可能となれば、宇宙魚雷を叩き込んで敵の…
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