秘密兵器、発進
すったもんだの挙句、便宜上帳簿に載せないといけないという理由で、既に主計関係者の間で呼ばれていた調査艇という案をそのまま使うことにして、現在に至っている。
それで、明日にも目的のポイントに到着する。
ここは暗黒宙域の隣接宙域内であり、無線が使用できなくなるリスクを孕んではいるが、ただ単にテストのためだけに時間を浪費したくないというカリン先輩の強い意見もあり、テストで、いきなり調査に使うことになった。
安全には万全を図るということで俺も了承したのだ。
なので、テストに合わせて艦載機6機全機を出して、付近の調査に当たることになった。
今までの調査では航宙駆逐艦の2隻も付近の調査に使っていたが、今度ばかりは駆逐艦の装置の全ては
調査艇の監視に当たっている。
「司令。
『バクミン』の準備ができております」
旗艦艦長のメーリカ姉さんから、報告を受ける。
俺はメーリカ姉さんに作戦開始の命令を出した。
「なら、予定通り始めてくれ。
戦隊にはとにかく艦載機を含め安全の徹底を再度伝えてくれ」
「了解しました」
ついに試運転を兼ねた作戦が始まった。
この作戦は、今後暗黒宙域を多方面に抱えるわが王国にとって、ある意味非常に重要になって来ると俺は考えている。
軍では、相手も軍である以上関係ないという姿勢だったが、果たしてそうなのだろうか。
今までの軍では確かに暗黒宙域内での作戦行動に制限がかかるために、戦闘に関してはそこを避けるという判断がわが国以外でも同様に持たれているのだろう。
そうでないと軍の作戦基本講習過程で、あんな教育をされることなど絶対にありえない。
だが、相手が軍以外ではどうだろうか。
海賊などは前にも考えを述べたとおりに、軍が出張らないことはメリットしかない。
そう今のところ軍は海賊を相手にしないとまで言わないが、目の前に現れたらうっとおしいハエを殺すように海賊を処理しており、積極的に取り締まる気はないと宣言しているようなものだが、まだ国防という面においては良いだろう。
いや、海賊だって、治安を悪化させたり、兵站に実害を与えるので、正直そろそろ真剣に考えないとまずいのではと考えている。
それは俺が今まで海賊ばかりを相手していたことからその考えに至った訳だが、先にも言ったように、何も我が国に被害を与えるのは敵国の軍ばかりではないことに気が付いた。
これがあのシシリーファミリー程度のテロリストならどうなるだろうか。
ふとそんなことを考えたら正直恐ろしくなってくる。
敵国が、何も正面から攻めて来るとは限らない。
しかも、シシリーファミリー程度の規模で、作戦次第では一星系を簡単に落としてしまえるという事実がある。
それも、一個戦隊規模の予算でできるのなら、費用対効果を考えても恐ろしい。
まあ、我が国以上に暗黒宙域を持つ国は多分無いので、これを使う戦略など考えすら及ばないとは思うが、もし俺が国に反意を持って敵国に亡命したのなら、その戦略を提案するだろう。
まあ、戦隊以上の規模での作戦行動は通信可能範囲の関係で事実上無理だろうが、それでもその規模があれば、俺なら今の王国の星域を落とすこともできそうだと思えるのだ。
尤も、条件は色々あるが、暗黒宙域の傍であれば奇襲が可能だ。
だが、もしもだ。
マリアたちの作ったものが、俺が考えている以上の性能を発揮するのなら、それにも俺たちは戦えると、間違いなく俺は宣言できる。
その際の被害はこの際考えたくはないが。
だから、頼むから今回の作戦だけは成功してくれ。
しかし、成功すればしたで、また、マリアの暴走を止めるのに苦労することになるが、う~~~ん、頼む、性能はきちんと発揮してほしいが、やっぱり大成功だけはしてくれるな。
初めての作戦と云うよりも試運転なのだから、あっちこっちに問題を発生させながらもその可能性だけを感じさせる成果が良いかな。
その結果をもって、殿下から国に提案させるなど、国主導で開発してくれることを祈ろう。
しかし、今回はマリアだけでなくマッドな科学者まで付いているし、これが成功すると、今度はケイトあたりが騒ぎ出しそうだしな。
索敵能力が上がれば、次は攻撃力でしょって感じで、俺のところにはとにかく肉食しかいないし、不安ばかりが募る。
まあ、とにかく安全にだけは注意してくれ。
作戦が開始されてから暫くは、本当に順調に進んでいく。
開始後1時間くらいまでは試運転の調査艇の状況を旗艦『シュンミン』でもモニタリングができている。
そればかりか、設定さえすれば他の6機の艦載機の状況まで、俺の今いる作戦検討室からもモニタリングができるし、実際俺は目の前のモニターを眺めながら艦載機同士が行う通信すら傍受していた。
だが、それが1時間もすると、まず艦載機のモニタリングができなくなり、今まで見ていたモニターは無慈悲なブラック画面を表示している。
まあ、これはある程度予測はしていたが、流石に隣接宙域だと全部モニタリングはできなくなるか。
その後すぐに、先ほどまで聞こえていた通信もホワイトノイズで聞き取れなくなり、直ぐに何の音もしなくなった。
「やはり、こうなるか」
「司令、これはあらかじめ分かっていたことでしょ。
でもでも、凄いでしょ」
マリアは自慢げに未だに状況を示しているモニターを指さしてどや顔だ。
「ああ、凄いな。
どんなトリックだ」
今唯一モニタリングができているのは今回試運転中の調査艇だ。
マリアとマッド…いや失礼、少々風変わりなうちの研究所長が心血を注ぎながら作り上げただけあって、少々のことでは不具合は起こらない。
「ヤダな~、司令。
トリックなんかじゃ無いよ。
光通信だよ」
どこに積んだのか分からないが、あの過積載のプラネットエースに多分パルサー砲だとは思うが、それを積んだのだろう。
今、俺たちとの情報のやり取りはそのパルサー砲を使っての光通信のようだ。
マリアが先ほどからどや顔で自慢してくる。
「これが、今回のミソだよ。
暗黒宙域で使えないと困るから、隣接宙域ごときで使えないなんてありえないでしょ」
「確かにそうだな。
試運転は順調のようだし、安心したよ」
「そうでしょ、そうでしょ。
今回は大成功だね。
そろそろ予定は終わるけど、もう少し、付近を探させますか」
「いや、もう十分だろう。
だが、今回の試運転の指揮を執っているのは『バクミン』のカリン艦長だからな。
彼女の判断次第だ。俺はその報告を待つだけだ」
「ふ~~ん、そうなんだ」
マリアとのんびり会話をしていると、部屋のスピーカーから俺を呼びかける声がしてくる。
「司令、『バクミン』艦長のカリンです。
十分にデータを収拾できましたので、試運転評価試験を終わりにしたいと思いますが、司令からは何かありますか」
「いや、俺からは何もないぞ。
マリアは何かしたいことはあるか」
「いえ、私も十分です」
「カリン艦長。
作成者も十分だと言っているから計画通り撤収させてくれ」
無線越しにカリン艦長は撤収を指示し始めると、俺の傍で何かが起こったようだ。
隣の艦橋が急に騒がしくなる。
隣からカスミが大声で俺に訴えて来た。
「司令、今の命令、ちょっと待ってください」
俺は、何が起こったのか分からないが、何やらただ事で無いので、無線でカリン先輩に先ほどの指示を撤回して、その場で待機をしてもらった。
その後、俺はマリアと一緒に艦橋に向かう。
艦橋に入り、カスミの横で何やら確認作業中のメーリカ姉さんに一言挨拶を入れる。
何せ、艦の運用についてはメーリカ姉さんだけが持つ権限の一つだからだ。
俺は司令だけになり兼務を外れた段階で、艦の運用にはなんの権限すら持たない。
唯一できることはお願いをすることだけだ。
うん、出世したな………ごめん、見栄を張りました。
コーストガード時代から、何にもこの力関係に変化はありませんでした。
俺の艦長時代にも実質艦の運営についてはメーリカ姉さん任せで、今とどこが変わったのかと、それこそ間違い探しのようなものだ。
あ、俺の座席が艦橋に無くなったくらいかも。
まあ良いか、今はカスミの悲鳴の様な件についてだ。
「お邪魔するよ、メーリカ艦長」
「あ、司令」
「で、何があったのか、できれば説明が欲しい」
「はい、カスミが言うには、人工物と思われる点の移動があったように見えたと言っているのです。
しかし、ここでいくら情報を見直してもよく分からないそうなんですが……」
「頭越しで済まんが、カスミに直接聞くが、何かやりたいことがあるんだよな。
だから撤収を止めたのだろう」
「はい、司令。
できましたら、怪しい点の再調査をしたいかと」
「で、どうするんだ。
さっきと変わらない方法だけで、カスミの疑問が解けるのか」
「いえ……」
「何かやりたいことがあるのだろう。
それを教えてくれ」




