御前での作戦会議
作業そのものは1時間もかからず、ご自慢の全通格納庫に浮遊物を回収した。
前部格納ハッチを開け、そのまま回収できるので、それこそ掃除機がごみを吸い取るようにすら思えた位、滞り無く回収後、俺たちは艦載機など収容し、できうる限りの速度でニホニウムに戻った。
当然、移動中も、回収した脱出ポッドを調べてみたが、中には遺体すらなかった。
初めから乗らずに、これだけが宇宙船から放出されたのか、大きく開けられた穴から、人が外に出されたのかは不明だが、この脱出ポッドを詳細に調べれば、何かしらの手掛かりは掴めそうだ。
これが、あの辺りで行方不明になっている宇宙船の物だと分かれば、確実にあの辺りで何かがあった証拠になる。
大穴も、隕石などがぶつかったようには見えない。
『バクミン』に回収するときにモニター越しに見ただけだったが、あれはどう見ても人の手と言うか、海賊が目標艦に乗り込むときに使っている衝角というのか、突撃して穴をあけるやつと言えばいいのか、本当に暗黒宙域といい海賊の使う衝角と言い、いつの時代かよと言いたくなるような戦法だが、どうもそれに見えて仕方がない。
脱出ポッドを回収し俺たちはすぐに、ニホニウムに戻った。
途中船内では、先の回収作戦の結果を持って研修中だった5名の研修生を正式に広域刑事警察機構軍の艦載機パイロットとして任命し、人事データに登録を行った。
一応式典のようなものは、『バクミン』の艦内で、簡単に行ったようだが、基地に戻った時には彼らの身分も研修生から正式な軍人として採用することになっている。
その際に今の上等兵という階級だと、他の軍に対して色々と問題が起こるというので、また、これは宇宙軍でも同様なことだが、正規パイロットは下士官以上の資格がいるとかもあるそうなので、5名全員が正式な身分変更に伴い軍曹となる。
また、昇進が遅れている艦載機関係の元メンバーも一律に一階級昇進することになった。
これは、先の回収に関しての報告を本部にいれた際に、マキ姉ちゃんから直接聞いた話だ。
なんでも昇進の内示は、俺から言った方が良いらしい。
なので、俺はまた、のこのこと内火艇を使って『バクミン』に向かい、カリン先輩立会いの下で、彼らに内示を言い渡した。
広い宇宙空間だと思っていたが、国内という限定が付くが、急ぐと狭くすら感じた。
急ぎ戻る最中に、内示の伝達やら、その他諸々を処理していると、あっという間にニホニウムに到着した。
宇宙港を通り過ぎ、隣接する本部敷地内にある駐機場に着陸して、回収した脱出ポッドを基地内にある研究所に運び込んだ。
ここで言う研究所とは、あの王立造船研究所の主任研究員だったサーダーさんを引き抜いて作られた組織だ。
あの人、王立の研究所ではちょっとした有名人だったらしく、はっきり言って、研究所で持て余されていたのだそうだ。
殿下が王立造船研究所の所長に、艦載機の件でお礼を行っていた時に冗談で、うちにも研究所のようなものがあればとか何とか云った時に、その所長にはめられたとかマキ姉ちゃんが言っていた。
王立造船研究所の全面協力の元、分室程度の規模だが、うちでも研究所を持つことになり、サーダー主任が所長として納まった。
なんでも艦載機搭載魚雷の研究をしているのだとか。
俺たちが回収した脱出ポッドもサーダーさんの研究の一環として詳細に調べられることになっている。
特に、あの開けられている大穴については、サーダーさんは異様に興味を持っている様だった。
で、俺たちは殿下を前に本部で会議を持っている。
「トムソン捜査室長。
あなたの懸念が当たったようですね」
「はい、なかなか国内の平和は遠そうです。
まだ、海賊の脅威は前と変わっていないかと考えております、殿下」
「戦隊司令。
あなたの考えをお聞かせください」
「はい、殿下。
海賊の痕跡はどうにか見つけられたかもしれませんが、まだ敵の姿をとらえた訳ではありません。
まずは、さらなる情報の収集が必要かと」
「では、該当の宙域を再調査するというのですね」
「はい、再調査は必要だと考えておりますが、それだけでは心許ないかと」
「心許ない?
それはどういう意味ですか、戦隊司令」
「これはトムソン捜査室長からの受け売りですが、あのようなエリアで海賊が仕事をするには、予め詳細な情報が海賊に渡っていないとできないかと」
「は?
申し訳ありませんが、その辺りを詳しく」
その後は俺とトムソンさんとで、殿下を始め地上組の皆さんに、俺たちが抱いている共通した考えを伝え、その後の捜査方針の許可を殿下から貰った。
「すると、あなた方は、まだ国内の上層部に海賊と繋がっている人がいると考えているのですね」
「上層部かどうかまでは分かりませんが、少なくともそういった情報に触れられる人の裏切りは必至だと考えております」
「そうですか、ならあちらの警察に対して私から依頼を出せばいいのですね」
「いえ、警察どころか、政府の上層部も私たちは疑っております。
現にシシリーファミリーの時には軍の上層部までもが汚染されておりましたから」
「では、どうするおつもりで」
「幸い殿下の御始めになった事業により、私の方から直接海賊捜査にあたる部署とは連絡がつきます。
私の方からその部署に対して共同して捜査に当たるように依頼しておきます」
「先のお話では、どこまで汚染されているか分からないと、その部署は大丈夫なのですか」
「ええ、お恥ずかしい話ですが、そう言う部署は皆例外なく窓際なんですよ。
どこの悪党も窓際には声すら掛けませんし、窓際である部署の方でも海賊連中に対する恨みですか、そう言う感情は相当なものですから、まず大丈夫だと考えております。
もし、そこまで汚染されている様ならば海賊の方が一枚も二枚も上手ですから、何をしても私では歯が立ちません」
「では、私は静観していれば良いのですかね」
「できましたら、殿下に置かれましては、監査の方へそれとなく話を持って行ってくれませんか。
最悪、いや、多分ですが貴族も関与しておりますから」
「監査ですか。
あの方たちは、今でもあの件でまだ忙しそうにしておりますから、新たな仕事を持ち込んだら、良い顔はしませんよね」
「すみません、殿下」
「良いでしょう。
これはあの方たちにも責任がある話ですから。
あの方たちがもっと仕事をしてくれていれば、ここまで酷くはなっていなかったことですし、多少の嫌味くらいは聞く度量は私にはありますよ。
あの方たちにも、それとなく調査するようにお願いしておきますね」
打ち合わせは終わった。
監査室は、未だにあの件の処理が終わっていないようだ。
まあ、急ぎ軍の方を処理していたから、今ではそれ以外の貴族連中の処理をしているのだとか。
本当に根幹まで腐っていたようだ。
殿下が立ち上がらなければ、そう遠くない時期にこの国は詰んでいたかもしれない。
まあ、俺は自分の仕事をするだけの話だが、ここで、補給を終えてまたすぐに件の宙域の調査に向かうことになる。
その際に、近くの警察本部のある惑星にトムソンさん達を連れて行くことになった。
そのために、準備に多少の時間を要するようで、1週間準備期間が与えられたのだ。
この間、俺にはそれと言って仕事は無いが、トムソンさんは色々と有るらしい。
一番めんどくさいとこぼしていたのが、地元の有力者に目立たずに入り込むことだと言っていた。
予算はふんだんとは言えないが、相当あるので、地元警察本部の近くに一つのビルを丸ごと借りるそうだ。
部下たちの拠点として事務所と生活スペースを置くそうだ。
俺としては準備を地上に残る人に任せて、例の仕事がらみで、デライト星系の主惑星であるジンク星に向かう。
警察官たちを引き取るためだ。
今回はPB2に彼らを連れていく予定があったので、それに間に合わせるようにトムソンさん達が入りこむと言っていた。
いつものように俺たちは、ニホニウムを離れて、デライト星系に向かう。
地上で準備をしている者が、なぜかしら今回の資材搬入作業がいつもより遅れていると報告を受けている。
何でも、例のサークル活動関係でいくつかの資材も併せて持ち込むと聞いているが、俺には嫌な予感しかしない。
特に今回は、あの研究所長のサーダーさんも乗り込むと聞いているが、その理由が良く分からない。
なんでも暗黒宙域内における探査能力の向上のための研究だとか言っていたが、殿下からマキ姉ちゃんを通して依頼があったので、俺は許可を出しているが、何をしたいのかよく聞いていない。




