パイロット研修生たちの初めての作戦
俺は艦載機の軟なレーダーで捉えることが一瞬でもできたと聞いたから、航宙駆逐艦の持てる探査能力をフルに使い、付近に別な漂流物が無いかも合わせて調査することを命じた。
カリン先輩は、また艦内電話を使い、『シュンミン』に俺からの命令を伝えた後、外に出ている艦載機全機に向かい命令の変更を通達した。
まずは、内火艇周辺に全6機を一度集結させ、2機ごとに分け、先に漂流物をレーダーで発見したリヒト・フォーヘン上等兵と彼の傍にいたウイリアム・ビショップ上等兵の2機をもって、該当ポイントに急がせ、その護衛と現場指揮をボーロ・マクベル曹長に任せ、彼と一緒にこれも研修生であるエルンスト・ウーデット上等兵に先行組の警護に当たらせた。
そして、艦載機全体の指揮を内火艇に乗務しているサカイ・テンプルトン曹長に任せ、彼らの警護を残り2機に乗務しているフランテスコ・バッカラ上等兵とウイリー・コッペン上等兵に命じた。
小回りの利く艦載機は先に該当ポイントに急がせ、俺たちが乗る航宙駆逐艦は多少大回りをして、付近の探索をしながら該当ポイントに向かった。
俺は、一度旗艦に戻り、作戦検討室から戦隊の状況を見守ることにした。
多分、この形が本来あるべき姿なのだろう。
艦の運用についてはそれぞれの艦長に任せて、俺は戦隊全体に対して命令を出し、その結果を見守る。
そんな俺の傍にマリアがやってきた。
「何で、マリアがここに居るんだ」
「戦闘でもなく、難しい訓練でもないとなると、正直私の仕事は無いんだよね。
艦長じゃ無かった、司令も暇なんでしょ。
私が話し相手になってあげるよ」
どこまでも自由人のマリアだ。
確かに今のような作戦中は暇だというのは分かる。
それに、前にも聞いた話だが、機関員の成長のために、できるだけ機関室にいないというのもこれまたよくわかる話だが、なら艦橋がお前の職場だと言いたいが、俺と、艦長以外に、こういった作戦中の居場所でかなり自由にできるのが実は機関長という立場の特権だ。
状況に応じて、機関室にいたり艦橋いたりできるし、状況によっては機関に関するあらゆる場所まで出張ることが彼女の判断で許されている。
まあ、どこにいるかを艦長にだけは正確に報告しないといけないという縛りはあるが、ここは壁一枚しか艦橋と離れておらず、しかもその間にある扉はいつも開いている。
なので、割とちょくちょくメーリカ艦長もここに居たりするが、それに、ここには艦内のあらゆる部署のモニタリングだけはできる設備が整っている。
艦橋並みかそれ以上のモニタリングができる。
そのため、操作だけはできないが、機関長のマリアなら、ここでも十分に仕事ができるのだ。
現に、今俺と話しながらもしっかりと機関のモニタリングをしている。
もし、何かあればここから指示を出したり、すぐさま機関室に向かうこともできるから、俺としても艦長から何も言われていなのなら、何も言えない。
「しかし、2隻の艦載機のレーダーに一瞬ってなんだ。
見間違えってことは無いのか」
「あれ、司令。
知らなかったんですか。
報告のあったレーダー情報のデータはこちらにも送られてきていますから私も確認しましたけど、間違いないですよ。
データを解析したカスミによると、間違いなく宇宙船で使われている一般的な金属の反応だそうですよ。
大きさまでは分からなかったようですから、それが何なのかまでは予測もできないらしいけど」
その後、俺は暇そうにしているマリアにその辺りを詳しく聞いてみた。
マリアは流石にそういう部分についても経験があるのか、かなり詳しい。
特に暗黒宙域については彼女の師匠から相当鍛えられていたようで、暗黒宙域の特徴から、域内での注意事項までも、それこそベテランの船員でも太刀打ちができないくらいの知識を持っている。
正直俺も知らなかった話だが、この暗黒宙域っていうのは、あの忌々しい超新星ウルツァイトからそれこそ湯水のごとく湧き出してくる何とかという粒子のせいだそうだ。
この訳のわからん粒子の濃度がある程度以上にまでなると、エネルギー波を熱か何かに変えてしまう性質があり、エネルギー兵器はもとより、レーダーや無線の類まで使えなくなる。
これが王国で正式に告知されている暗黒宙域だけで収まれば、まだいいが、先にも話した通り、粒子の濃度によるものが原因のため、場所によりばらつきがでる。
しかも、時間によって濃くなったり薄くなったりもするのだ。
王国が暗黒宙域としているのは、常にある一定以上の濃度になっている宙域の話で、その周りには隣接宙域というのが設定されている。
これは、暗黒宙域になる原因の粒子がある程度存在しているが、その濃度が宇宙船の運航に問題となるレベルにはなっていないとされている。
俺たちが今いるこの場所はその隣接宙域に指定されている場所から直ぐ傍だ。
なので、この場所でも例の粒子はほんのわずかながら存在しているが、問題の出るレベルで無いので、無視できている。
先に艦載機がレーダーで捉えた浮遊物は、その隣接宙域内にあり、レーダー反応があった時には、まだ例の粒子の濃度もそれほどでは無かったんだろうが、直ぐに濃度が濃くなり、レーダーで捉えられなくなったというのがマリアを始め、この辺りに詳しい連中の共通した見解だ。
また、粒子の濃度が薄くなりレーダーで捉えられるかもしれないが、それはあくまで偶然の産物で期待できない。
だから、近くまで行って目視で探さないといけないという話だ。
何と言うか、前時代に戻ったような対応しかできないのがもどかしく感じるが、そこは艦載機だけの話で、暗黒宙域と言っても何も濃霧の中にいる様な何も見えない話ではなく、可視光線だけは良く通すのだ。
だから、先にも言った話だが、目視で探す羽目になるが、そこは前時代とは異なり、この目視に代わる捜索方法も俺たちは持っている、画像認識何とかと言っているそうだが、カメラとコンピューターを使い、付近の探査をできるシステムを持っている。
尤も、このシステムはかなり大掛かりなものになるので、艦載機の様な小型艇には搭載できないが、俺らの乗る駆逐艦にはしっかりと装備されているから、他にも見落としが無いかを2隻の航宙駆逐艦を使って探索しながら、艦載機が先に向かったポイントに移動している。
うん、暇そうにしていたマリアに感謝だ。
俺も、この暗黒宙域についてある程度理解できた。
そう言えば、士官学校時代にもマリアほどでは無いが非常に簡単に講習を受けた覚えがあった。
もう少し詳しく教えればよさそうに、今更ながら思うが、あそこは軍の士官を育てる学校で、暗黒宙域内での行動については商船並みにしか考えていない。
作戦行動は、戦いにくい暗黒宙域を避けてとかどうとかしきりに教えられた。
軍は端っから海賊を相手にすることなんぞ考えていない証左だろう。
相手も軍ならば同じ結論になるだろうが、小回りの利く海賊ならば、軍が近づかない利点だけでも大いに利用する価値のある宙域となる。
海賊にとって、エネルギー兵器が使えないことのデメリットは無いのに等しい。
あいつらは基本乗り込んでなんぼの戦闘しかしないから、レーダーが使用できず、かつ、官憲からのエネルギー兵器攻撃が無い分、この暗黒宙域はメリットしかないだろう。
デメリットとしてはお客さんである商船が、航路でも無い限りまず現れない。
しかもその航路も、軍やコーストガードによって一応の警戒はされているから、よほど事前に情報でも得ていないと、お客さんである民間商船を見つけることすらできずに終わるし、よしんば見つけることができても警戒している官憲の取り締まりに遭うのがおちだ。
逆に、そう言った情報が簡単に入手できるのなら、それこそ獲物のお客さんを簡単に計略にかけることもできるので、そこは格好の狩場となってしまう。
俺も、トムソンさんも同じことを考えているが、この辺りもそういった狩場になっているのかもしれない。
もし浮遊物を見つけられれば、一挙にこの辺りが怪しくなってくる。
だが、それと同時に、ここを通る宇宙船に関して情報を漏らしている奴もいるということになる。
そうなると、海賊だけでなく、協力者も一緒に取り締まらないとまずいことになりそうだ。
どちらにしても浮遊物を見つけてからだが。
暫く付近を探索しながら、艦載機に追いついた。
ここまで来れば浮遊物の存在も艦内の監視装置でも見つけられた。
現在、見つけた浮遊物の周りを艦載機が警戒しながら、他の浮遊物が無いかを探している。
「司令、カリン艦長より無線です」
「ああ、繋いでくれ」
「司令。
未確認だった浮遊物は、どうも民間でよく利用されている脱出ポッドの様ですが、大きく破損しており、中に人がいても生存は絶望的かと判断します。
この後、浮遊物を『バクミン』に回収したく思いますが、ご許可いただけますか」
「ああ、十分に安全を考えて作業してくれ
それを回収したら、ニホニウムに大至急戻る。
詳細の調査を地上で行いたい」
「了解しました」




