疑念だけが募るエリア
前章から一月以上の感覚が空いてしまいましたが、やっと本章を投稿できるようになりました。
本日より投稿してまいります。
大変お待たせしました。
では、お楽しみください。
トムソン捜査室長は自身の都合がつく限り該当エリアの調査に同行するが、流石に全ては無理のようだ。
一部とはいえ該当エリアの調査に同行するだけでも相当無理をしないとできないようだが、その無理をする気満々のようだ。
今でさえ家に3日おきにしか帰れないところを、今回の件で1週間おきになりそうだとこぼしていたが、その口ぶりには大変と云うよりも、自身の思ったような調査ができるという嬉しさが勝っているようで、笑みすら浮かべていた。
この人にとって家庭って何だろうな。
トムソンさんにとって『かみさん』の存在はそれこそ『神さま』のようなものかもしれない。
毎日拝む必要はないが、定期的、もしくは困った時に拝めばいいだけだと本気で考えていないか心配になる。
できることなら、今後もトムソンさんのご家庭の崩壊が起きませんように……
それからも俺たちは国中の警察官を海賊から押収した拠点に運ぶ仕事をしていた。
当然、途中で見つける不審船の取り締まりをしながらだが、トムソンさんとの話し合い以降は暗黒領域の傍を通るたびに、この特別な領域内での訓練も積極的に行っていた。
「司令、今日は横陣での訓練をする予定ですが」
「ああ、まだ単縦陣は難しいだろう。
今まで有線ケーブルを渡して僚艦との連絡を取っていたので、意思の疎通に問題は出なかったが、そろそろ例のレーザー光を使った訓練に替えて行きたいが、どうだろうか」
「はい、私は問題無いと思いますが、念のため有線は残しておきたいかと」
「ああそれで構わない」
そして、暗黒領域に入る直前に陣形を横陣に変えて、両艦の間にケーブルを渡しての航行訓練を行った。
これならば無線の使えない領域でも、通信に問題は出ない。
しかし、当然デメリットもある。
行動に著しく制限が掛かるのだ。
何せ僚艦の間がわずかしかなく、その間にケーブルを渡しているのだから、ただの航行なら問題は無くとも作戦行動など夢のまた夢でしかない。
それでも、乗員にこの領域の経験を積ませるという目的だけは達成できるので、未だにこの訓練を続けていた。
だが、そろそろこの訓練も次の段階に進める時期になってきている。
軍などでは、このような無線の使えない領域ではレーザー光を使った通信をしている。
これは、攻撃用のレーザー砲を一部改造して使う方法で、減衰の著しいこの領域でもある程度の距離ならばどうにか情報は伝わる。
しかし、当然攻撃用のレーザーのエネルギーが通信程度までに減衰するので、そのレーザーに情報を乗せても、その情報が確実に伝わるとは言えない。
減衰による影響で、ノイズが酷くなるのだ。
軍で実用上の距離を10kmくらいにしているのも、音声情報でさえこれ以上ともなると聞き難くなるからとか。
俺たちは、作戦行動を取ると言っても2艦しかない戦隊なので、せいぜい200mの距離までしか考えていないが、今回は念のための通信ワイヤーを繋いでいるので、その距離はわずか10mだ。
それでも、光通信の訓練でもあるので、問題は無い。
この訓練も卒業したならば晴れて、例の領域の調査に向かうことにしている。
これでも急いで訓練をしているのだが、トムソンさんからも会うたびにせっつかれている。
あの人だって決して暇な訳では無いのだが、相当気にしている。
今のところ、統計上だけの話だが異常の無い範囲での、しかもその統計上で異常の出ない範囲の上限ギリギリでしか艦船のロストは報告されていない。
当然、保険会社も国も危機感など持っておらず、何ら対策も立てられていないのだが、その報告されている被害が上限ギリギリというのが俺もトムソンさんも気になって仕方がない。
今度の敵は偉く頭の回る奴の様で、今まで相手をしてきた、ただの力押しだけの海賊とは一線を画すような気がしてならない。
普通なら、あの暗黒宙域での艦隊行動など自殺行為として誰も考えないのだが、相手が海賊となるとわからない。
確かに、経済上の理由とかで、暗黒宙域にも通商用の航路は引かれている。
俺が出世する切っ掛けとなったあの事件もその宙域での作戦だった。
だが、縦横無尽に艦船を動かす艦隊行動となると話は違ってくる。
軍ならば絶対に行わない作戦を、コーストガードのお偉いさんたちは、何のためらいなく実施したのだ。
光通信が使えるというただ一つの根拠を頼りにしてだ。
あの人たちは、多分、いや、絶対に何も考えていない。
たまたま待ち伏せするにはもってこいの環境だと思ったのだろう。
その証拠に、想定以上の海賊の艦船が現場に現れた時の,あのていたらくだ。
今の俺があるのも、ひとえに作戦のせいだ。
いや、あまりにポンコツであったあの人たちのせいなのだ。
でなければ、あの時に俺はこの手で……ブツブツ。
俺はとっくに英霊入りしていた筈なのに……ブツブツ。
まあ、話が逸れたが、海賊たちは軍以上の練度は考えられないので、俺たちが艦隊行動で臨めばある程度規模のある海賊でも相手はできると考えている。
最悪、海賊相手に戦闘を仕掛けるとしても、連絡のために内火艇を作戦行動前に近くの星までは無理でも緊急通信のできる場所まで送れば応援だって頼めるのだ。
とにかく状況だけでも、できる限り早く掴まないといけないという気持ちは俺もトムソンさんも同じだ。
「本日の訓練は無事終了しました。
訓練総括は2時間後に行いたいと思います」
旗艦艦長のメーリカ姉さんが俺にそう報告してくる。
3時間ばかり、パルサー砲を使った光通信訓練での艦隊行動訓練だった。
2時間ばかり横陣を組んだまま直進させて、最後の1時間で、方向転換などの実際の作戦時における操船訓練を行って訓練を終えた。
この辺りは、今まで行ってきた有線での訓練と同じなので、通信さえ確保されていれば何ら問題は起こらない。
今回の訓練でも途中やや聞き取りにくい事はあったが、これは受信もしくは送信側の問題で、地域の特性ではないという結論だったが、この後の総括で、きちんと分析することになるだろう。
訓練後に俺たち戦隊の首脳陣が集まって総括を始めた。
『バクミン』からはカリン先輩とマークが内火艇でやってきて、作戦検討室で総括を行った。
訓練そのものには何ら文句は出ないという結論になった。
ただ、通信におけるパルサー砲の扱いに慣れていない部分が出ており、今後の課題となる。
今後は、実際に作戦行動においてより自由度を持たせる意味で、有線ではできなかった単縦陣での作戦行動の訓練を始めることで総括はまとまった。
元々カリン先輩が指揮する『バクミン』は乗員のほとんど、といっても出向者と今ではどこに出しても恥ずかしくないレベルまで成長した就学隊員たちの話だが、その持てるポテンシャルと士気の高さは『シュンミン』ではおよそ見ることのできないくらいだ。
『シュンミン』が劣るとかいうのではなく、その独特の空気と言うか、それに何より、乗員の内大多数になってしまう就学隊員たちの練度は明らかに差が出てしまうのだから、やむを得ない話だ。
しばらくは暗黒宙域外での訓練に時間を割いて行うことになった。
こんな感じで、今までとそれほど変わりなく時間ばかりが過ぎて行く。
ある日、本当に偶々なのだが、トムソンさんを乗せて移動中に問題の宙域に差し掛かった。
がぜんトムソンさんがやる気を出してきたので、俺たちも今までの訓練の成果を試す意味でも初めてこの宙域を探索することにした。
初めて来た宙域での調査だが、予想通り何も見つけることはできなかった。
これは俺だけでなくトムソンさんも同様だったが、それだけにトムソンさんはより一層確信を持つに至るようだった。
何も見つからなかったから、余計に怪しいというのだ。
まあ広い宇宙で、事故に遭った宇宙船の痕跡を見つけることの方が無理筋なのだが、それでも、こんなどこにもありそうな宙域で、何故ここだけが事故が多いのかと疑問に思えて仕方が無い。
どこにでもある空間で、どこにでもある結果が出ていないことに注目したのだ。
だが、どこにでもない結果と言っても、全体の統計上からは逸脱していないから厄介なことこの上もない。
「さてさて、どうしたものですかね」
「もう少し調べてみたいとは思いますが、あいにく私に時間が無いのも事実ですしね」
「なら、今回はこれまでとして、一応情報は整理させておきます」
「お願いします」
「ええ、別の場所も調べて、今回の情報と突き合わせれば何か見えてこないとも限りませんから」
「お手数をお掛けしますね」
「それはお互い様でしょ」
今回の調査は空振りとなった。
しかし、なおのこと怪しさが増したともいえる。
これは相当に手ごわい敵か、さもないと、俺たちがただのバカなのかのどちらかにしかならないが、俺は余計に警戒感を深めて、今回の調査を終えた。
本当に気が付くとあっという間に時間って簡単に過ぎて行くものですね。
ほんのちょと、ほんのちょっとだけお休みしただけなのに、最後に作品を投稿してから一月が過ぎてしまいました。
実はまだこの章では最後まで書き上げておりませんが、かなり溜まったので、お待たせしたくないので、投稿することにしました。
ここから言い訳です。
文章を作っている時に、大きな敵との攻防を欠いている時は、割と簡単に次々に思いつくのですが、ひと段落が着くと、さあどうしようと悩んでしまい、なかなか筆が進みませんでした。
おおよその流れはあるのですが、その流れの中で、次はどうしていこうかというので悩んでの作品となっております。
この章も変わらずに楽しんで頂けたら幸いです。




