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止めて、落ちる

 今まさに、彼が拗らせた思いの集大成ともいえる瞬間だ。


 ナオがほんの一瞬だが妄想に駆られている時に、ナオの後ろでメーリカとマリアが話し込んでいる。


 「マリア、行けそうか」


 「大丈夫です。

 こんな時のために作った『ひまわり3号』を信じてください」


 「ああ、正直少しは不安が残るが行くか。

 一応念のために前に作ってもらった爆薬も準備しておくぞ」


 「え~、信じてくださいよ。

 でもいいです。

 念のためは大事ですよね」


 二人はそんな会話をした後、事態が進行していく。

 

 しかし事態は彼の望んだものとは全く違う展開に進んで行くのだ。

 先ほどの彼の命令を部下たちは全く聞いていない。

 そう彼の命令はあっさりと無視された。


 唯一彼の命令を聞いていたメーリカ姉さんが一言。


 「そんな訳行くかよ」


 え? 

 俺って、少尉だよ。

 彼女の上官だ。

 何、その一言。

 いくら俺がヘタレとは言え、組織人としてどうなの。

 そんなの有り??


 ナオが彼女に言い返そうとしていると、メーリカ姉さんはすぐに別の命令を発していた。


 「マリア、出番だよ」


 「はい、メーリカ姉さん」

 呼ばれたのはマリア。

 しかし、どこからどう見ても、彼女も彼女の率いる分隊員全員も、およそ荒事に向きそうにない女性たちばかり、しかも人数も海賊より格段に少なく15人ばかりだ。

 

 ナオの最高の瞬間が、部下を守って殉職するといった夢のかかった瞬間が、どこかに行ってしまう。

現実は彼の理想通りにはいかないようだ。


 しかも最悪の方向に進んで行く。

 

 ナオには彼女たちが戦いにもならずに海賊たちに簡単にあしらわれて、その後は女性ならではの被害、そう海賊たちに凌辱されて殺されていく未来しか見えない。

 相手はあの有名な海賊団の『菱山一家』だ。

 しかも、その菱山一家の四天王だぞ。

 彼女たちが逆立ちしたって敵う相手ではない。


 「そ、そんな事許すか」

 辛うじてメーリカ姉さんの命令を取り消そうとしたら後ろから後頭部に強い衝撃があった。


 『ゴン!』


 え??


 「隊長、邪魔」

 メーリカ姉さんの副官を務めるケイト曹長が俺の事を後ろからどつき、首根っこを捕まえてマリアたちの後ろまで下げてきた。


 え?え?

 俺って隊長だよね、学校を卒業したばかりとは言え、士官だよ、君たちの隊長。

 それなのに、この扱いって何?

 酷くない。

 しかもだよ、『邪魔』ってなんだよ。

 仮にも隊長に向かって邪魔とは。

 

 ナオは思いっきり抗議したかったようだが、首根っこを掴まれ、しかも引きずられているので声も出せない。


 ナオの心配をよそに、海賊たちはこの後の乱暴を楽しみにしているのか舌なめずりをしているようにいやらしい笑いを浮かべている。


 海賊たちが俺らを発見した時にあまりの意外な展開に喜んでいる。

 「兄~、これはおいしそうですね」


 「ああ、この後の楽しみが増えたな」

 「でもあっしは、もう少し歯ごたえのある者たちと戦いたかったですよ」

 「それじゃ。お前は楽しまないのか」

 「そんなことは言っていない。

 それよりも、もういいですか。

 我慢できませんぜ」

 「ああ、向こうからご馳走を持ってきてくれたんだ。

 やってしまえ」

 そう言うが、一斉に海賊たちはナオたちにバトルアックスを振り上げながら襲い掛かった。

 

 その様子を見たナオは、震えあがる。

 やはり死ぬのは怖い。

 死ぬのは怖いが、俺の判断ミスで、彼女たちが乱暴されるのはもっと怖い。

 前に酷い目に遭い、死を望んだが、今の俺は死を恐れて俺は震えている。

 しかし、マリアたちは平気な顔をしてナオの前に立ちはだかり手にしている『ひまわり3号』と言われている物を海賊たちに向けた。


 「やってしまいな、マリア」


 「はい、メーリカ姉さん。

みんないいかな。

 それじゃ構えて、撃て~~~」


 マリアのかわいらしい声と同時に手にしたものが全員一斉に火を噴く。


 轟音……のはずは無く真空なので音は聞こえないが、轟音を発したように見え、それと同時に目の前までに迫ってきている海賊たちが倒れていく。


 マリアたちは次々に手にしたものから火を噴かせ、海賊たちを倒していく。


 今戦っているのはマリアたちの分隊だけ15名だ。

 残りの分隊はただそれを見ているだけ、いや、マリアたちを応援している。


 次々に倒されていく海賊を見て、応援のボルテージが上がっていく。

 その場で飛び跳ねたり、大声を出して手を叩いたりと、興奮していく。

 海賊たちは半数が倒された時になって、やっと自身らの不利を認めたのか逃げだしていくが、それでもマリアたちは容赦なく海賊たちを後ろからどんどん倒していく。


 最後の海賊を倒すともうメーリカ率いる分隊たちの興奮は最高潮だ。

 唯一この流れに乗れていないケイトを除いてだが。


 そのケイトだが、俺が前に出てマリアたちの邪魔をしないようにずっと俺の首根っこを押さえているので、飛び跳ねたり手を叩いたりできないでいた。


 それでも、どんどん倒されていく海賊たちを見て興奮しているようだ。

 最後には俺の首を掴んでいる手に力が入る。


 え?

 ちょっと待て!

 パワースーツを着込んで首を押さえている手に力を入れるって、ちょっとまずいよ。

 え?

 よせ、それ以上俺を握っている手に力を入れると、あ、やばい。

 く、く、苦しい。

 し、死ぬって、止めて、やばい、これ以上はダメ!

 やめて~~


 ほら、落ちるって、落ちるから止めて。

 俺がいくら心の中で叫ぼうがケイトは全く気付いていない。


 ほら~、落ちた。




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