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いよいよ夢は現実に


 一方海賊の方はというと、現場宙域には生贄としての老朽駆逐艦とその駆逐艦から仲間を連れ帰るために残された航宙フリゲート艦が残った。


 今、この戦闘可能な宙域内にある艦船はコーストガードが『アッケシ』のみで、かろうじて状況を監視できるぎりぎりの所に同じ第三巡回戦隊の旗艦『マシュウ』がある。

 また、敵である海賊側としては先の老朽駆逐艦『ハウンドドック』と軍での現行世代艦でコーストガードと比べると遥かに新しく高性能な航宙フリゲート艦『ブッチャー』の二隻が残った。

 残りは、コーストガードも海賊もさっさとこの宙域を離脱している。


 海賊側のフリゲート艦『ブッチャー』内では状況を見て、悩んでいる。


 「船長、どうしやす。

 おやじの云うようにはいきませんね」


 「ああ、連中も逃げ出すとは予想外だな。

 これなら俺らもここを離れても問題ないか」


 「船長、ちょっと待って下せい」

 「なんだ」


 「あの連中、こっちに乗り込んでくる気ですぜ。

 内火艇が1隻向かって来やす」


 「連中にこっちの意図が見抜かれたか。

 やむをえまい。

 おやじの計画から外れるが、乗り込んでくるならこっちは迎え撃つまでだ」


 「どっちに乗り込んでくるかまだまかりませんぜ」


 「なに簡単だ。

 この船がここを離れれば、連中はあの駆逐艦しか乗り込めまい。

 そうと決まればあっちに乗り移るぞ。

 お前らはここから離れてみていろ」


 「へい、ご武運を」


 「なあにあのちっぽけな内火艇一隻だ。

 向こうと合わせればこっちには100人いるだろう。

 数的にもこっちの方が断然有利だ。

 いざとなったら船ごと壊してもいいからな。

 久しぶりに大暴れできるぞ」


 「そうですね。

 惜しむらくはうちらの船だと言う事ですか。

 できればうちらが乗り込んで暴れれば良かったんですけどね。

 まあ、俺は暴れられれば満足ですがね」


 「俺もそうだ。 

 それ行くぞ」


 一方ナオの乗る内火艇では。

 「隊長、海賊の連中ですが、小さな船を残して去っていきます。

 どうしますか」


 「どうするも何もないよ。

 こっちは初めからあの小さな船が目標だろう。

 俺らは命令通り乗り込むだけだ」


 マリアは上手に内火艇を操り、老朽駆逐艦に近づいていった。

 「マリア、判っているね。

 セオリー通り後部ハッチ付近につけなよ。

 最初の占拠目標は後部格納庫だからね」


 コーストガードの臨検のセオリーがあるらしい。

 俺は学校では何も習っていなかったので、素直にメーリカ姉さんの指示に従った。

 一応責任は俺にあるが、やはり経験の差は拭い切れない。


 何か問題があった場合のみ俺が処罰を負う覚悟をすれば良いだけだ。

 尤もこの調子なら、俺の希望通りに事が進みそうだ。

 チャンスを逃さないようにせねば。

 ………

 そう言えば昔誰かも同じことを言っていたな。

 …あ、思い出した。

 俺がふられた時にてっちゃんに言われたセリフにあったな。

 殉職する前にその原因となった話を思い出したか。

 これは縁起が良いのか悪いのか。


 俺が妄想に駆られているとメーリカ姉さんから声がかかった。

 「隊長、船に接舷します。

 ショックに気を付けてください」


 「お、おう。

 報告ありがとう」


 その後すぐにやや強めなショックが船船体を襲う。

 『ゴゴン』


 「接舷」

 「ハッチオープン。

 全員下船」


 メーリカ姉さんの声が響き渡る。

 彼女もかなり緊張している様子が伝わる声だった。

 しかし、全く緊張感の無い人もいるから不思議だ。


 「私の分隊のみんな~~。

 忘れずに『ひまわり3号』を持った~~。

 予備の弾も忘れずにね」


 「そ、そうだね。

 ここなら使えるわね。

 マリア、今回はあなた方に十分働いてもらうわよ。

 うちの連中は付近の警戒」


 「姉さん。

 突入口発見。

 エアロックを開きます」


 「ドミニク。

 ラーニの背後を警戒。

 ケイトはそのまま突入班を連れて突入」


 「「ハイ」」


 「隊長、安全確保」

 

 「分かった。

 俺らも向かおう」


 エアロックを開いた直後から一斉に艦内の空気が宇宙空間に流れ出ているので、細かなごみなども飛んでくる。

 そんな中を俺たちが警戒を続けながら進む。


 まさか無人の訳ないので、いずれどこかで海賊に鉢合わせするのだが、できれば自分たちの有利な場所で海賊連中を見つけたいものだ。


 「ストップ」

 先頭を歩いているケイトから声がかかる。

 俺は急いで確認のためにケイトの横に行く。


 俺を見たケイトが説明するように話しかけてくる。


 「この向こうが格納庫ですが、居ますね。

 それもかなりの数が」


 「どれくらいとみるかね」


 「まず50人は居ますね。

 いやそれ以上か」


 「ここでいつまでも留まる訳にはいかないよ。

 少なくとも人数だけでも確認しないと、仕事をしていないと言われるよ」

 俺の後からついてきたメーリカ姉さんが言い放つ。


 ケイトとラーニが格納庫入り口付近を警戒する。


 「入り口付近に敵確認できず」


 それを聞いて、俺とメーリカ姉さんが格納庫に警戒しながら入っていく。


 その直後に海賊を発見。

 やはり待ち伏せされていた。


 俺は現状置かれている状況を静かに分析する。

 目の前10m先に居る海賊たちは優に100人は居る。

 まさに絶体絶命という奴だ。


 もう、俺は心の中で狂喜乱舞している。

 これぞ正に俺の望んだ瞬間だ。


 俺が直ぐに声を上げる。

 「俺にかまわず、逃げろ。

 ここは俺が支える。

 お前たちは生きて帰らなければならない。

 これは俺の命令だ。

 さあ、行け!」

 ナオはすぐに部下たちにこの場を離れるように命じた。


 ナオの中の相当に拗らせた『中二病』が彼に囁く。

 フ、決まったな。

 まさに最高の瞬間だ。

 これぞまさにヒーローだ。

 命を張って部下を守る。

 これぞ男として生まれたものにとって最高の死にざまだな。

 フフフ……

 先のセリフは1年も前から考えていたセリフ集の中の一つだ。


 現状は彼が待ち望んだ最高のシチュエーションだ。


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