おまけ:2番艦『バクミン』笑誕2
しかし、ある程度の方向性だけは見えて来た。
一つはこの『シュンミン』とほぼ同じ作りのもの。
これは、艦隊として運用を考えているのなら当たり前のことで、艦隊内の艦がそれぞれ全く違う性能諸元では作戦立案が難しくなるし、何より、普通は費用対効果で同じものになる。
そもそも、最も成功した航宙駆逐艦と言われたブルドック型も同系艦が30隻以上は生産されたのだ。
普通に考えるとこうなるが、我々はある意味違う。
それは、一つは改修で2番艦を作るということだ。
それに、同じ改修が不可能ということもある。
だいたい艦体全体をスカーレット合金で覆うことなど、いくらまともな予算が付いたからと言ってできる筈がない。
だが、同程度までにはどうにか作れなくもないとも聞いた。
スカーレット合金に変わり、別な素材で艦体を覆えれば同程度の速度は出せそうだというのだ。
尤も内装は、軍艦としてもう少しまともにするが、そう言う改装が一番無難だ。
だが、問題はこの無難ということだ。
この艦も面倒を見ることになると考えている俺の部下たちは、一番無難という考えが嫌いなようだ。
でなければ日々あれほどの問題を起こさない。
なにせ俺は、毎日稟議書か始末書のどちらかにサインをしているという錯覚に陥ることがある。
ただでさえ、それ以外の書類が多いと言うのに、普通なら、それこそ無難に過ごせば絶対にこういった状況にはならない筈なのだが、どうもそれがお気にめさないらしい、我が愛する部下たちは。
次の案は、多分カリン先輩からだろうが、より充実して艦載機を使った作戦行動がとれるようにと空母機能を何て物騒なものを入れて来たのだろうな。
艦載機キャリヤーも宇宙軍では積極的に活用しているし、実際カリン先輩は宇宙軍では艦載機参謀コースだったと聞いている。
何より『シュンミン』においても、時々怖くなるくらいに艦載機の運用に集中しているのを見かける。
彼女にとってたった2機の艦載機運用では物足りないのだろうな。
だが、巡洋艦以上の大きさになるキャリヤーとそれに比べれば豆粒と言われるくらいの小型な駆逐艦でそれを実施って無理がありすぎだろう。
せいぜい今の艦載機を倍の4機搭載できるようにするくらいだ。
最後はクローさんのアイデアかな。
これには俺も賛同したくなる。
もうこれ以上、少なくとも罪もない一般人、特に子供たちの犠牲は要らない。
もし、災害などが起これば医療艦として運用できればそれに越したことは無いが、それだと、実際の稼働率に問題が起こるだろう。
これも、気持ちとしては分かるがカリン先輩と同様に却下かな。
「一応俺が責任者にはなっているが、どうするかな」
「まだ、改装に手を付けていないようですから問題がありませんが、殿下のお気持ちとしては来年度を迎える前に就航させたいようです。
しかし、何故、今も何もしていないのですか」
「ああ、それは、エンジンの問題だ。
『シュンミン』と同じエンジンを積み込まないと、少なくとも艦隊行動がとりにくい。
『シュンミン』の時には、たまたま近くにエンジンが転がっていたというよりも、そのエンジンしかないので、それを使ったためだが、2番艦はそうもいかない。
『シュンミン』は中古エンジンだったので、直ぐに換装できたが、そうそうこんなエンジンはお目にかかれるものじゃない。
今、解体中の病院船に期待したが、やっぱり病院船は病院船だ。
エンジンが小さすぎる。
なので、新品のエンジンを注文している。
今度ばかりは予算があることに感謝している」
「そういう理由があったのですね。
そうなりますと、今期中の就航は無理になりますかね」
「いや、来週にはエンジンが着くと聞いているぞ。
一旦改修工事が始まるとあいつら仕事が早いから、問題無いな」
「え、まだ改修案が決まっていませんが」
「まあ、無難に『シュンミン』と同じかな。
一度殿下と相談してみるよ」
イレーヌさんとそんな会話を交わしたことを忘れて時間は過ぎて行く。
そう、運転手として仕事をしていくうちに、不審船取り締まり件数がどんどん増えて行き、トムソンさんも酷いことになっているが、宇宙空間での取り締まりということで、俺にも新たな書類お化けが襲ってきたのだ。
殿下はどうしても今期中の2番艦就航を望んでいたこともあり、改修責任の任を俺からカリン先輩に替えたのだ。
この措置には正直俺も喜んだが、後にこれが新たな艦種を生む結果になろうとは思わなんだ。
そう、改修の責任者が代わった時からカリン先輩は、自分が艦長に就任することを殿下から聞いていたらしい。
自分が使うのなら、自分の使いやすいように改修しても良いよねって感じで、趣味に走ったらしい。
武装については、『シュンミン』と全く同じだけ積んであるが、何より、乗員の居住環境が変わった事により艦内に多大な余裕が生まれた。
それならばということで、どこでどうつるんだのか分からないが、マリアとカスミや、そのほかの面々を誑し込んで、趣味全開に改修をした結果だ。
もう俺は諦めていたよ。
唯一の常識人と云う括りはとっくに取り払っている。
所詮はカリン先輩もそう言う人種なのだと。
考えたら当たり前だ。
宇宙軍での栄光をさっさと捨てて、後輩の指揮する艦に乗り込んできたときに、やっぱりこの人も変わり者だと見抜けなかった俺の目が節穴だっただけだ。
そういえば殿下もそう言う一面があるのでは、でなければ俺らのような孤児を要職に就けるなんてできないよな。
ゲフンゲフン。
気を付けないとな。
こんな考えは考えただけで不敬罪になってもおかしく無いな。
だが、殿下の希望通り、新年度を一月後に控えたこの時期に、試運転できる運びとなった。




